CRAFTSMANSHIP
ROD
Published on 2007/04/11
進化する竿
PART-Ⅲ
エキスパートカスタム×伊藤 秀輝
インタビュー=丹 律章
Gルーミスのロッドで高弾性カーボンの優位性を感じた伊藤秀輝は、オリジナルロッド「エキスパートカスタム」でも同じ高弾性カーボンを採用する。張りのあるブランクは、自然渓流で大きな魚を掛け、捕るためのロッドとして、広く支持された。現在のエキスパートカスタムは3代目になる。
──初代から数えて7~8年経っていて今は3代目ですが、ブランクはどのように変化しているのでしょうか。
伊藤:今から3年ほど前に、40トンカーボンで、5フィートのウルトラライトクラスのロッドを巻く技術が現れたんです。それで、5フィート1インチのブランクを更にファーストテーパーにしたものを40トンカーボンで作ってもらい。何本かサンプルが出来てきたら…これが凄い。前のとは比べ物にならないくらいシャキッとしてるし、抜けもいい。へたりも少ないし、いいことだらけ。それに魚の状態がより分かるようになりました。どっちに頭が向いているかとか、テトラに逃げ込もうとしているとか。それが分かるから対応が早めに打てる。余裕が生まれるから、楽にやり取りができるんです。後手後手になったらバラシたりしてしまうこともありますから。
──3代目から40トンカーボンということでしょうか。
伊藤:そう。1代目と2代目は36トンで、今のモデルから40トンを使ってます。
──アクションは同じですか。
伊藤:いえ。代を追うごとに強くなってきています。ティップの20センチは、ほとんど変わってません。でも、ベリーからバットにかけてはどんどん強くなってますね。したがってよりファーストアクションになってます。エキスパートカスタムは、自分が使いたいロッドというのが基本で、初代を使っていたらもうちょっと強いのが欲しくなり、2代目でももうちょっとってなって、3代目では40トンカーボンにしたことでさらにしゃきっとしたブランクになったんですけど、さらに強いものもほしくなった。それでULよりひと回りパワーがあるULXもラインナップにくわえました。使っているロッドに慣れると、もうちょっと上のロッドが欲しくなるんですね。ヤマメでもイワナでも、5センチサイズが変わればファイトはぜんぜん違います。しかも秋の狡猾なヤマメの中でもスーパーサイズを狙うとなると、たった一つのミスも許されないわけです。ポイントにライナーでピシッと入れられるキャスト、でルアーをさらに思い通りに動かせること、そしてシビアなアタリでも掛かったときにばらさないアワセをするためには、ULXというパワーが必要なときは結構あるんです。
──必要に応じて進化していると。
伊藤:そうです。キャストも、アワセもそしてルアーへのアクションを最大限に生かすためにもベリーが最も重要だと私は思ってます。
──たとえば僕は、ULしか使っていなくて、ULで充分満足しているんですけど、僕がULXを使ったら、キャスティングが今ひとつ決まらないような気がするんです。
伊藤:キャスティングするときに、精度を高めたいと意識しているでしょ。たとえばボサの下のあのポイントにルアーを入れることがまず一番重要だと。
──ええ。そうですね。
伊藤:そうすると、丁寧に置きにいくようなキャストになるから、ティップぐらいしか使わないことになるんです。ベリーを曲げるには振りスピードを速くしなければならない。精度を一番に意識している人に、速く振れって言っても精度が落ちるから無理なんです。もっと上手くなって、そこにルアーを入れること自体は当たり前、100発100中になれば、次のステップとして、どういう弾道でそこに入れるかということを意識できるようになります。精度的に余裕があれば振るスピードをどんどんアップしていけます。
──繰り返しになりますけど、エキスパートカスタムのアクションは、キャストとミノー操作とアワセ、この3つを考えてのアクションだと。
伊藤:そう。その3つが釣果を支えてくれますから。よくデカイのを掛けて、「ばらしたー」って残念がる人がいるけど、ばらすのには理由があるんです。ばらした原因を根本的に直さないと、いつまでも「ばらしたー」って繰り返すことになります。15年前は、ルアーをキャストしてちょっとリーリングしたら、ガツンってアタリがあって、ヤマメが腹のフックをがっぷりとくわえているようなことも多かったけど、今の魚は警戒しながらルアーを追って、テールフックをちょんとつつくだけの魚が多いでしょ。つついた瞬間に間髪入れずあわせを入れてやらなければああいう魚は釣れないんです。その時にやわい竿を使っていると、同じタイミングであわせを入れても、ハリ先に力が伝わるのがほんのコンマ何秒か遅れることになるし、伝わる力も弱くなる。瞬間的にフックのゲイプまで貫通させるには、強い竿が必要なんです。ゲイプまで貫通させることができないと、バラす原因にもなるし、ハリが伸びたり折れたりすることにもつながります。ゲイプまで貫通すれば、細軸のフックでもそう簡単に伸びることはありません。
──もうひとつ、エキスパートカスタムの特徴として、グリップ周りのデザインがあると思うんです。好き好きはあるかもしれないですけど、手は込んでますよね。実用性だけを追及すると、グリップなんてリールが落ちなきゃいいわけですし、リールシートの素材もカリンとかメイプルとかスタッグとか使う必要もないわけです。極論するとプラスチックでもいいかもしれない。釣果に直結しない部分で、そういうデザインを選んでいるのは何故ですか。
伊藤:やっぱりね所有欲というのもあると思うんです。自分の好きな釣りをするときに、やはり納得できる道具を使いたい。自分もそうだし、そう思う人は多いと思うんです。いい物っていうのは美しいもんですからね。だから性能だけじゃなく、見た目のセンスというのもちゃんと追求したかった。大人の遊び道具には美しさが必要だと思うんです。デュラコルクの黒いグリップでもいいっていう人もいるかもしれないけれど、私は違う。それは個人の問題だから。いい悪いの問題ではないけど、私同様に、こういうセンスのロッドを使いたいという人に、エキスパートカスタムは使ってもらいたいと思います。
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