イトウクラフト

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LURE

Published on 2012/08/09

山夷50SタイプⅡが切り開く
新たな可能性

解説=伊藤 秀輝

 速く複雑な流れの中でもバランスを崩さず、安定してアクションを刻み、とりわけサイド~ダウンの釣りで威力を発揮するモデル群が山夷だ。

 2012年夏、その山夷シリーズに新たなモデルがラインナップされる。山夷50Sのヘビーシンキングバージョン、山夷50SタイプⅡである。ウエイトは既存の山夷50Sが3.5gであるのに対して、今回リリースされるタイプⅡは4.5gに設定された。

 このニューモデルのコンセプトを伊藤秀輝に聞いた。

──もともと山夷は、そのスリムなシルエットとウエイトバランスによって飛行姿勢が良く、飛距離の稼げる設計になっていますが、今回のウエイトアップでさらにキャスタビリティーに磨きがかかりました。やっぱりこの飛距離というのは、ルアーを選択する上でとても大きな要素だと思います。

今シーズン、すでに伊藤は山夷50SタイプⅡでいい魚を何本か釣り上げているが、その内の一本。本流ヤマメ、37センチ。ロッドはEXC560ULX

伊藤:確かに、飛距離が出ることでマイナスは何もないからね。プラスしかない。まず、飛行姿勢がブレずにきれいな弾道で飛ばせるということは、それだけピンスポットへのコントロール性も高まって、遠目のポイントを正確に打つことができる。そして、この山夷50SタイプⅡの飛距離は、5㎝ミノーでありながら渓流域はもちろんのこと、本流の釣り場までカバーしてくれる。

── 本流用のプラグとしては、兄貴分的存在の山夷の68mmや蝦夷の65mmサイズがありますよね。これらとの使い分けはどうしたらいいのでしょう。

伊藤:本流の釣り場では、当然7㎝クラスのアピール力が必要な場面は沢山あって、例えばアメマスとかサクラマスとか、遡上系のヤマメとか、そういう遡上の状態にある魚を狙うなら、68mm、65mmサイズのミノーの有効性っていうのは絶対にあるけど、魚がその場所に居着いて、特に警戒してスレが増してきているような状況では、ルアーのサイズを落として魚の警戒心を不必要にあおらないような釣りが求められることもある。さらに山夷50SタイプⅡなら本流でも、ショートロッドとの組み合わせで、より機動性を生かした細やかな誘いが展開できる。本流での繊細な攻め方の面白さが生まれるし、本流釣りの可能性がいっそう広がるよね。使うロッドは河川規模に応じて、ゴーイチでもゴーロクでもいいし、本当にストレスなく飛ばせるミノーだからベリーにトルクのあるロクマルでも、ぜんぜん問題なく扱えるね。

飛距離に加え、流れへの強さ、レンジキープ力は特筆もの。速く複雑な流れをダウンクロスで攻略するには持って来いのミノーである

── では次に泳ぎについてですが、動画を見ても分かるように、何と言っても山夷ならではの『流れに対する強さ』がさらに強化されてますね。

伊藤:この性能は実際に使ってもらえば、すぐによりハッキリと実感できると思うよ。どんな複雑な流れのなかでも、本流の押しの強い流れでも、それから不意に底石に当たったりしても、ヘンにコケたり水面から飛び出したりせず、きれいに流れを泳ぎ切ってくれる。しかも、ショートリップでありながら足下まできっちりとレンジをキープしながら引いてこれる。例えば逆光時や川に濁りが入っている時、あとはロングキャストしたその先というのは、なかなか水中のルアーを目視するのが難しいものだけど、そんなシチュエーションでも安心して使えるミノーだよ。そして、それだけの安定性を備えながら、ロッドワークで操作できるレスポンス性能もきちんと残してあるから、ギラギラと派手にアクションを加えて魚を誘うこともできる。どのルアーでもやっぱりこの操作性というのが、釣りの楽しさを生むし、釣り人がより高い技術を求める上でも絶対的に必要なものだと思う。ルアーのセッティングにおいて、そこは絶対に外せない部分だよ。

──その性能を生かした使い方、ポイントの狙い方という面ではどうでしょう。



伊藤:例えば蝦夷のファーストモデルと比べてみると、ファーストの場合は薄型のフラットボディを生かして、角度のあるヒラ打ちを魚の捕食範囲内でしつこく決めるためのセッティングだから、点で止めてじっくり誘う釣りに適してる。アップストリームや止水域で、狙いを定めて魚を挑発するような、一気に魚のテンションを高めて口を使わせる釣りだよね。
 それに対して山夷50SタイプⅡは、魚の着き場がそこかしこにある長い瀬が続くようなポイントを、手返し良くスピーディーに探っていく釣りに打って付け。速い流れが複雑に絡み合う難しいポイントでも、ルアー自体の性能がオートマチックに魚を誘ってくれるから、釣りがすごくラクなんだ。で、ラクに誘いを展開できるということは、それだけ余裕が生まれる。魚を誘いながら、より水中のサインに集中できる。微かな違和感も的確に拾って、素早くアワせることができるんだよ。

── 確かに蝦夷のファーストと山夷とでは、ボディ形状からして丸っきり違いますし、泳ぎも使用感も異なりますから、それぞれに合った使い方があるんですね。

伊藤:ボディ形状の違いについてもう少し突っ込んだ話をすると、ファーストの薄型フラットボディと角度のあるヒラ打ちはさっきも言ったように、魚の闘争心を掻き立てるのに大きな有効性がある。一方、山夷の細身のボディ形状には、魚の『食性』を引き出して口を使わせるという意図もあるんだ。トラウトがルアーにバイトする理由には、大きく分けて、闘争心からの興奮と、エサを取るという食性からの興奮、その2通りがあるんだよ。山夷は細身のぶん、フラッシングの面積は小さいけども、食性からの興奮で食わせるには、山夷のスリムボディにずっと分がある。これも紛れもなく、魚の習性を利用した釣りなんだ。

こちらは動画にヒットシーンが収められている見事なイワナ。ロッドはEXC510ULX

 ぶっ飛び仕様で、流れに無類の強さを発揮する山夷50SタイプⅡ。このルアーの登場で僕らの釣りはまたひとつ進化する領域が与えられたことになる。それは間違いない。各地の渓流で、そして時に本流で、その細身のボディに秘められたポテンシャルがきっと素晴らしい出会いをもたらしてくれる。