イトウクラフト

TO KNOW CRAFTSMANSHIP

CRAFTSMANSHIP

LURE

Published on 2018/10/26

小渓流専用
42㎜のボウイ

解説=伊藤大祐
まとめ=丹 律章

イトウクラフトの渓流用小型ミノーは、蝦夷や蝦夷ファースト、山夷など数種類ラインナップしているが、中でもボウイ50Sはテスターからの評価も高い傑作ミノーだ。


そのボウイに、新しいサイズが追加されるという。新作ミノーにはどのような特徴があるのか、コンセプトについてルアーデザイナーである伊藤大祐に聞いた。


──まずは新作ミノーのスペックを聞かせてください。

大祐:商品名はボウイ42S。サイズは42㎜、2.8gです。カラーは4色で、価格は税抜きで3,190円、発売は2018年12月を予定しています。

──既存のボウイよりひと回り小さいルアーですが、これはどんな状況を想定して作ったのでしょう。

大祐:ヤマメやイワナを釣る渓流には、本流に近い大きめの渓流もあれば沢とか源流部の小渓流もあります。ボウイ50Sは一般的な渓流向けで、新しいボウイ42Sは小渓流に特化したミノーとなります。

──小渓流用のミノーを新しく作ったということは、必要性を感じていたということだと思うんです。50㎜ではどこかに不満を感じていた。それはどういう部分でしょうか。

大祐:まず、小さい川は水深が浅いので、ボウイ50Sだと重いのでレンジが深すぎるんです。しかも重心が後ろにあるのでレンジキープに気を配ることになってしまいますし、魚に口を使わせる『間』が短くなってしまうんです。それと、弊社も他社もそうだと思うんですが、渓流用のミノーは50㎜が定番化していて、そのサイズのミノーに対してヤマメが慣れているというかスレているような気がするんです。50㎜の物体が水中を泳いでいるだけで警戒するような。その警戒心を解いてやるために、ちょっと小さなサイズというのは有効なんじゃないかと思うんです。

 

──レンジの問題なら、ボウイ50Sの軽量バージョンという案はどうでしょう。

大祐:そう簡単な話でもないんですよ(笑)……ボウイはバルサ材でできているんですが、浮力の強いあのサイズのバルサのボディに対して、現在入れてあるウエイトとのバランスがとれていて、結果4gという全体の重量になっています。ウエイトを軽くしちゃうとそのバランスが崩れてしまうんです。


たとえばボウイのウエイトを1g削って、全体で3gのボウイを作ったとしても、同じ動きは出ないし、空気抵抗は変わらないから飛距離も落ちることになる。軽いボウイを作るには、新しいボディデザインが必要だったということなのだ。


──50㎜よりひと回り小さい42㎜になったわけですが、40㎜でもなく45㎜でもなく42㎜だった理由は何でしょうか。

大祐:50Sより小さくて軽いボウイを作ろうというところから始まって、まずは38㎜から1㎜刻みで44㎜まで7サイズのプロトを作って、その7サイズに対して2.4g、2.8g、3gのバリエーションと、重心位置を変えて全部で5パターン、7×5で35種類のプロトを作ったんです。その中で、動きや操作感、飛距離などが一番良かったのが42㎜の2.8gだったので、それをベースに微調整をしていったわけです。

──ボウイの50Sは4g、42Sは2.8g。その差は1.2gもあります。やはり飛距離は犠牲になっていると予想されますが、その点はどうですか。

大祐:本流とかオープンな場所で比べたら、50㎜のボウイと42㎜とでは差は出ると思いますが、小渓流ならサミングするわけだし、常にフルキャストの釣りをするわけではないので、差はあまり感じないと思います。これは2.8gという微妙な重量設定がキモで、これが0.4g軽い2.4gになるといざというときに遠投がぐっと難しくなってくるんです。それと、4gのミノーに比べると飛行速度が遅めなので、ルアー軌道を目でしっかり確認できて飛距離をサミングで調整しやすいという長所もあります。

──アクションはボウイ50S譲りのヒラウチと思っていいでしょうか。

大祐:そうですね。それは共通した設定ですが、42の方が、ショートインパクトの連続トゥイッチングに適した設定となっています。


ショートインパクトとは、トゥイッチングの際にリップに力を加える場合の強さがより小さく、一瞬だけ負荷をかけるという意味だ。小さな力だけでルアーがレスポンスしてくれるならば、ラインスラックは最小で済むし、糸ふけが少なければアワセも効きやすいということになる。ボディが小さく軽量である点も有利に働いているだろう。


大祐:水なじみという部分でもボウイに共通した特徴を持たせることができました。

──水なじみ? それはなんでしょうか。

大祐:言葉で説明するのが難しいんですが……川の流れというのは複雑で、上流から下流へ均一に流れているわけじゃないじゃないですか。川底には石があるのでさらに複雑で、だから水中を泳いでいるミノーはいろいろな方向から流れを受けることになります。そういう流れを受けた時に自動的にミノーが反応して欲しいんです。テール部分に流れを受けて少し傾くとか。あの……アップで釣りをしていて、上流から下流へミノーをチェイスするヤマメがいますよね。彼らは、常に体を流れと平行にして体をまっすぐにして泳いでいるわけはなくて、時には斜めにひねりながら泳いでいることもある。ああいう姿勢をミノーにさせたい。斜め後方からの流れを受けて、お尻を振って、肩が入るような……。

──肩が入る? また新しい表現ですね(笑)。

大祐:これも僕が勝手に言っている表現ですが、平べったいボディが右か左に傾いて、ミノーの肩が流れに入っているイメージですね。

──ミノーに肩があるとして、その肩の位置の特定も難しそうですが、まあそれは置いといて、そんな自然な動きをミノーにさせたいということなんでしょうね。

大祐:そうすることで、見切られにくくなると思うんです。バルサでボディを作ってリップ付けたからブルブル動きますってだけでは、釣り人側が攻めのバリエーションを多く作れないじゃないですか。そういう操作性の悪い機械的な動きは好きじゃないし、ウォブリングだけとかの性能だと本当にスレスレのヤマメには効かないんです。

──大祐さんがルアーのデザインの全てを任されるようになったのは、7年くらい前で、代表作はやはりボウイ50Sということになります。今後はどんなルアーを作っていく予定でしょうか。

大祐:それこそプロトというのは山のようにあるんですが、多方面の作業を並行してやっているので、なかなか進まないのが現状です。ボウイ42と並行して開発していたサクラマスミノーの2種類もやっと完成して、今年中に発売できるかどうかっていう状態です。これに関しては、近々このホームページで詳細を発表したいと思っています。

──サクラマスミノーが完成して、今は何を作っているんでしょう。

大祐:現在、最も力を入れてテスト中なのは、渓流用の新しいインジェクションミノーですね。50㎜とそれより小さい45㎜くらいのをテスト中です。

──ボウイのようなバルサではなく、プラスチック樹脂を素材に選ぶと、素材自体が重くて、浮力は中空部分に頼ることになりますから、バルサミノーとは全く別のものになりますね。

大祐:インジェクションは動きの切れという部分でバルサには劣る部分があって、左右の切り替えの部分がどうしてもモヤっとしてしまう。それをどう補っていくかも難しい部分です。

──サイズが小さくなると、中空部分が少なくなって浮力が問題になります。

大祐:浮力を確保するためには断面を丸くしたり体高をあげたり、中空スペースを大きくとればいいんですが、それにも限界があるし……比重が軽くて強度があるプラスチック素材が出てくれば面白いんですが、そんな都合のいい発明もないし。自分の理想に近づくよう、頑張っているんですがまだ発売時期は見えません。

──2019年の春に間に合いますか(笑)?

大祐:勘弁してくださいよ(笑)。