イトウクラフト

TO KNOW CRAFTSMANSHIP

CRAFTSMANSHIP

LURE

Published on 2012/09/15

進化したシンキングバルサ
ボウイ50S

解説=伊藤大祐

■ボウイ50Sに求めた性能

キャスティング性能

特にカスタムのULXでバルサ蝦夷を使い込んでるうちに、キャストにストレスを感じることがあった。もっとラクに飛距離が出せて、ピンスポットに簡単にコントロールできたら、さらに釣りが楽しくなるだろうなと。ロッドがトルクのあるULXでも、丸一日キャストにストレスを感じずに楽しめるバルサミノーを作りたかった。渓流釣りは何と言ってもキャスト回数の多い釣りだし、ボサのキワをずっと打ち続けていく状況もある。キャストが決まるかどうかで、楽しさも釣果もまったく変わってくる。バルサは浮力がある分どうしても失速しやすいけど、ボディ形状、リップ、ウエイト、全体のバランスによって飛行姿勢を良くすることで、バルサの泳ぎの面でのメリットを生かしつつキャスティング性能に優れたミノーを目指した。


レンジ

バルサ蝦夷のレスポンス性能は確かにすごく有効で、魚とのレンジがある程度離れていても下層から魚を誘い上げる力もある。でも、ヤマメのスレがどんどん増してる今の状況では特に、あと10㎝、20㎝下を通したいって時も少なくなかったし、ヘビーシンキングを使い慣れた釣り人にとっては余計、バルサ蝦夷の沈まなさというのはストレスだったかもしれない。ボウイ50Sは、尻下がりの沈下姿勢によってフォールスピードを速めて、なおかつ連続トゥイッチに対しても浮いてこないセッティング。しかも、ラインの操作次第でフォール時にゆらゆらと背中を揺らすような誘いも演出できる。イメージとしてバルサ蝦夷より20㎝下のレンジを探る感じだけど、ライン操作などによって思い通りにレンジコントロールがしやすい。これもキャスト同様、ストレスなく釣りを楽しむための大事な要素だと思う。ただ、結局ボウイも、3mも4mもある淵の底を釣ることはできないわけで、とことん深場を探るためのものじゃない。バルサ蝦夷よりもラクにレンジを下げられて、浮いてこないで、それでいて、底からの魚を上げる泳ぎも持っているミノー。バランスの良さでいろんなシチュエーションに対応できるのが大きな特長。

ヒラ打ち

バルサ蝦夷よりも泳ぎのピッチを細かくして、ヒラも多く打たせられる。バルサ蝦夷の泳ぎも十分細かいけど、ボウイはさらに細かい。より少ない抵抗で水を噛んで機敏に反応して、なおかつ起き上がりが早い。それほど神経質にならずにヒラを打たせられるし、操作次第でそのバリエーションも豊富。バルサ蝦夷と比べて、同じ距離の中でより手数の多い誘いを繰り出せる分、ヒラを打たせるタイミングだったり強弱だったり、誘いの演出がさらに多彩になった。ワイドなヒラ打ちから、ボディの支点を軸に背中だけを倒すヒラ打ち、頭を軸に尻を大きく振らせるヒラ打ち。様々なヒラ打ちを自在に表現できる。これを一度使ったら、ヒラを打たせるのが楽しくてたまらないと思う。あと自分的にこだわったのが、小魚が石を舐める時のようなヌメッ、ヌメッとした生命感のあるヒラ打ち。そういう動きをしてる小魚をヤマメが捕食する場面を実際に見てるから、そのなまめかしいギラツキ感はどうしても取り入れたかった。付け加えると、ボウイはボディバランスによって水馴染みを良くしてるから、サイド~ダウンで流れに乗っていく時に、本当の小魚のように流れに入っていく。そのスピード感でもリアルを表現できる。


■開発に際して

頭の平面で受けた水圧を、背中のエッジに向かう曲面で後ろに流す。それによって働く微妙な力がレンジキープ力と立ち上がりの速さを生んでいる

ボディ形状

(ヒラ打ち時のアピール力が高い体高のあるフラットボディで、特に背中側から見た時の、鼻先から背中にかけてのフォルムが特徴的。頭の部分は平面に近く、そこから徐々にエッジが立っていく形状になっているが、その意図は?)
それは水馴染み、水の受け流し方を考えた形状で、単純に言うと、頭の平面で受けた水圧を、そこからエッジに向かう曲面で後ろに流す感じ。それによって頭を下げる力が働くので、後方寄りの重心ながらリップ抵抗を無暗に大きくせずにレンジをコントロールできるし、アクションの立ち上がりも速められる。だから流れの中でも扱いやすい。バルサ蝦夷のような真ん中重心は立ち上がりもレスポンスもいいんだけど、どうしてもキャストの時にバタつきやすいし、フォールスピードも遅くなる。ボウイは後方重心にして、且つリップ角度もやや寝かせ気味にすることで飛行姿勢やフォールスピードの問題を解消しつつ、このボディ形状でレンジのコントロール性やレスポンス性能を向上させてる。何かを得れば何かを失うのがモノ作りの必然で、全体のセッティングのバランスでいかに長所を伸ばしつつ、欠点を打ち消せるかというところが、やっぱり一番難しかった。

「アルミは実際の魚のウロコ模様をデフォルメして、側線の上下でウロコのデザインを変えました」

ウエイト

最初はレスポンス性能を優先して、中心軸の4g前後を考えた。ただ、同じ4gでもバルサボディの4gとプラスチックボディの4gでは全然話が違って、レスポンスも沈む速さも違う。バルサのレスポンスの良さはあの浮力があるからこそで、例えば3.5gのバルサ蝦夷は自分的にはスローシンキング。今回はバルサ素材で本当のシンキングミノーを作りたかった。ULXでもキャストしやすくて、ストレスなくレンジキープできるミノー。でも中心軸の4gでは思ったより飛距離が伸びなかった。風の影響を受けやすい。それに、もっとフォールスピードも速めたいと思った。扱いやすさと、スレた難しい魚を釣るための性能、そこの両立を考えて。単純に後方重心にしただけでは、当然肝心の泳ぎに影響するから、ギリギリのバランスを見極めながら、あとはボディ形状、リップ形状で補った。ウエイトに関しては、3つ入っているウエイトの内、一番前のウエイトを1mm前進させるかバックさせるかで最後まで悩んだ。それで全然違う。それくらいシビア。流れのなかでの姿勢が違うし、それによってリップの設計も変わってくる。押しの強い川、流れの弱い川、いろんな川でバランス良く使いこなせることを考えて最終的にはバックさせた。その分お尻が重くなってウォブリングの動きに影響するけど、それはボディ形状とバルサ素材の浮力で補える範囲だった。

 

 

3D曲線で構成されたリップ。理想的な水噛みと水圧の逃がし方を追求した形状

リップ

リップも本当にいろいろ試して、形状や位置、角度はもちろん、エッジひとつでもぜんぜん違う。水を切るだけじゃなく、面で捉えた水をどう受け流すか。エッジによって、リップの裏側に絶妙に水圧を巻き込むことで、ヌメッとした生命感のあるヒラ打ちが生まれる。ただ単に水を切って、レスポンスを上げるだけだったら基板リップもアリだけど、それでは出せない動きがあると思った。それに、自分が子供の頃、ミノービルディングに興味を持ち始めた時から、バルサミノーのリップはポリカとかアクリル板っていう認識があったし、そうしたトラウトルアーの伝統とデザイン性を自分なりに大切にしながら、それを工夫して理想の性能を完成させたかった。