イトウクラフト

TO KNOW CRAFTSMANSHIP

CRAFTSMANSHIP

ROD

Published on 2007/03/03

進化する竿
PART-Ⅱ

エキスパートカスタム×伊藤 秀輝
インタビュー=丹 律章

 10代のころからさまざまな竿を使ってきた伊藤秀輝だが、日本製のルアーロッドには不満を感じていた。自分で納得のいく竿で釣りがしたい。そう思った伊藤は、アメリカのトップメーカー「Gルーミス社」のロッドをブランクで個人輸入し、試してみることにした。

──Gルーミスを選んだ理由はなんですか。

伊藤:当時、ルアーといえばアメリカが一歩も二歩も先を行っていて、そのアメリカの中でもGルーミス社というのはトップブランドでしたから。

──同じブランクの完成品もあったんですよね。

伊藤:ありましたね。でも、リールシートは黒いリング&リングだったんです。それが気に入らなかったんですよね。まず、リング&リングはそれまでに何度もリールを落としたり、コルクがへたる等のトラブルになった経験があったので、どうしてもスクリューにしたかった。それにトラウトに合った仕上がり、高級的なデザインも欲しかったし。

──Gルーミスの中にもいろいろなブランクがあると思うんですが。

伊藤:そう。それまでの経験の中から高弾性カーボンの優位性的なものと感じ初めてましたから。それで最初に買ってみたのは、IMXのワンピースの5フィート。IMXっていうのはGルーミス社の素材の呼び名で、高弾性のカーボンです。36トンですね。──作ったロッドのできはどうだったんですか。伊藤:最初に行ったのが下猿(下猿ヶ石川。田瀬湖から北上川との合流点までを指す)なんですけど、バラシが激減しましたね。それまでの国産ロッドでは、いいサイズを10本掛けたら、4本くらいはばらしてしまうわけです。ドンピシャのタイミングでアワセをしていても、それくらいばれる。大きくなればなるほど捕れない。アワセの力をロッドが吸収してしまって、ルアーまで伝わらないんでしょうね。トリプルフックというのは、3つのフックポイントが魚の口に入るでしょ。だから10の力がフックに伝わったとしても、それぞれには3.3の力しか回らない。計算上ね。だからそれに加えてラインの伸びとかロッドの吸収とか考えると、意外にアワセの力は魚まで届いていないことが多いわけです。もちろん偶然3つのポイントのうち2つが口の外に出ているようなこともありますけど。

──思いっきりのけぞっても魚にはそれほど力が伝わってないと。

伊藤:だからロッドに張りを持たせることは、ばらさないためのひとつの方法なわけです。そしてGルーミスのロッドではバラシがほとんどなくなった。10本中10本に近いくらい捕れたんです。ロッドの張りというのは大切なんだと改めて気がつきましたね。それがさらに確信に変わったのは、サクラマスロッドで試したときですね。5フィートの後にサクラマスロッドのためのブランクをGルーミス社で買ってみたんです。マンドレルが一緒で同じ長さの同じルアーウェイトで素材だけが違うものを3本。当時はGL2、GL3、IMXという3つの素材がGルーミス社にはあって、その順番にカーボンの弾性率が上がっていく。もちろん値段も上がっていく。──素材だけが違う、同じアクションの同じ長さのロッドを3本手に入れたんですね。伊藤:そして使い比べてみた。そしたら全然違うわけ。振り重りの軽さなんかはもちろんだけど、キャストした後のブレの無い戻りの早さとか、曲がった状態でのねじれ、これが高弾性になればなるほど優れている。その時にやっぱりカーボンは高弾性の方がいいと。それに勝るものはないと確信しました。それに、高弾性の方が無理が利くし。

──無理が利くとは具体的にどんなことでしょう。

伊藤:たとえば、低弾性と高弾性の2種類の素材で、同じ調子のウルトラライトロッドを作ったとします。どちらもルアーキャパは2~7gとしましょう。それで、釣りしていて大場所にぶち当たった。ちょっとポイントが遠い。そこで、もうちょっと重いルアーを投げたいなと感じたとしますね。その時、高弾性のロッドだと、10gでも11gでも投げられることが多いんですが、低弾性だと、たとえばたった2gオーバーして9gを投げようとしただけで、ブランクが腰砕けになって投げれない。投げれたとしても飛ばない。高弾性素材だと無理が利くというのはそういう意味です。

──最初のワンピースのGルーミスに話を戻しますけど、実際の使い心地はどうでしたか。

伊藤:最初はちょっと硬いなと思いましたよ。ティップからベリーにかけて1割から2割軟らかかったらいいと思いながら釣りをしていたけど、でもそういうロッドを使っていれば、それにからだが慣れていきますからね。ティップを曲げるためにはバックスイングを早く強くしなければならない。早くなるとラインをリリースするタイミングが難しくなるんですけど、それに自分が対応すればいいだけの話ですから。そしていざ対応できるようになったら、初速の速いキャストができるようになっているわけです。

──硬いロッドに慣れてくると、釣りはどう変わってくるんでしょうか。

伊藤:軽いルアーは硬い竿では飛ばないって言われていたけれど、それはその人がロッドを曲げられないだけ。硬いロッドをちゃんと曲げることができたら、軟らかいロッドでキャストするよりも速いスピードでルアーをリリースできるんです。すると、もちろん飛距離も伸びるし、投げた直後からサミングをすることでラインが放物線を描かずに直線になる。直線のラインは曲がったラインよりもはるかに狭い場所へルアーを入れることができるんです。

──Gルーミスの次はどんなロッドを。

伊藤:次が初代のエキスパートカスタムになります。トラウティストの広告にロッドを載せた年より3年位前ですね。

──トラウティストでは2001年の春に発売になった5号のイトウクラフトの広告にロッドとランディングネットが載っています。それらが売り物であるかどうかは全く触れられず、写真だけ。

伊藤:そうそう。それ。それの3年位前にワンピースで5フィートのブランクを100本オリジナルで注文しました。Gルーミス社で高弾性カーボンの良さは分かっていたので、IMXと同じ36トンを使って。IMXと同じ高弾性のカーボンっていうのが日本ではなかなか手に入らなかったんだけど、扱っているブランクメーカーを何とか見つけて。それで、釣り友達とかに頼まれたりして作ったりしながら、3年かけて100本をさばいたんです。この初代のエキスパートカスタムの5フィートがフェンウィックみたいな茶色っぽいブランク。5フィート6インチはカラーが違って、ダークグリーンのブランクにバットが黒。こっちは2ピースでした。2代目のエキスパートカスタムが全体が黒いブランクで、今の3代目が黒いブランクにバット部分がシルバーです。
(以下PART-Ⅲへ続く)