イトウクラフト

TO KNOW CRAFTSMANSHIP

CRAFTSMANSHIP

LURE

Published on 2009/06/22

蝦夷50S
ファーストモデル

解説=伊藤 秀輝
聞き手=丹 律章

 2008年の秋、「蝦夷50Sファーストモデル」が発売になった。これは、2002年に発売した初期型「蝦夷50S」の復刻版でもある。これまでこのウェブサイト内でも、2002年のモデルのことを「初期型」とか「Ⅰ型」とか呼んできたが、それと区別する意味でも、この文中では2008年のモデルを正式名称の「ファーストモデル」もしくは、「ファースト」と呼ぶ。

 自分自身の話で恐縮なのだが、僕は「初期型蝦夷」がとても好きだった。現在の型にモデルチェンジしてからも、自分のストックの中から大事に使い続け、時には一緒に釣りに行ったときに伊藤さんのルアーボックスから借りたり(もちろんそのまま返すのを忘れたふりするのだが)して、この「初期型」を偏愛してきた。その理由としては、現行の「蝦夷50S」に比べて、小さな力でヒラ打ちやダートをするそのアクション特性と、何よりそれがこれまで多くの魚をもたらしてくれた(ばらした魚も多数含む)その実績である。特に、水中を追尾する魚や動くルアー自体の現在位置すらも、よく確認できない僕にとって、そのカラーバリエーションの中で最も見やすいCTカラーは、伊藤さんからも「ほら、丹君の好きなやつよ」と言われるほどに、大好きなルアーであり色なのである。

 それゆえ、今回の「蝦夷50Sファーストモデル」の発売は、涙が出るほど(もちろん本当に泣くほどナイーブではないが)嬉しい出来事である。

 しかも、復刻といいながらも、「初期型」を超えた性能を有しているというのだから、その喜びはなおさらなのだ。


──「ファーストモデル」が発売になりました。まずは「初期型」と「ファースト」の違いを確認したいと思います。プラスチックのインジェクションプラグというのは、ボディの左右のプラスチックパーツを真ん中でくっつけて、その後で塗装したりスプリットリングやフックをつけたりして完成に近づいていくのですけど、そのプラスチックボディの部分は、金属製の型に樹脂を流し込んで作るわけですよね。つまりボディの形状はその金型次第ということですけど、使用する金型は同じものなのでしょうか。

伊藤:そう。ウェイトを入れたり塗装したりする以前の、組み立てる前の半透明のプラスチックの状態では全く同じということになります。

──ウェイトはどうですか。

伊藤:全体の重さは同じです。でも、このルアーにはウェイトルームが2つあって、2002年の「初期型」には大きいのと小さいのと2つ入っていたんですが、鉛のウェイトの成型精度に多少問題があって、2つが干渉してしまったりしたことがあったんです。だから「ファースト」では、以前の2つをくっつけてひょうたん型の専用のウェイトにし、なおかつ、ウェイト自体にボディの形状に合わせたアールを持たせました。これによって、ウェイトをより動きの支点に集中させることができた。それに既成のウェイトではなくオリジナルウェイトを使ったという、作り手側の自己満足もあります。

──全体の精度が上がっているということですが。

伊藤:以前はOEM生産でしたが、「ファースト」は自社生産です。自分の目が届く範囲で、自分のチェックが行き届くなかで生産していますから、より手間を掛けて作ることが可能になりました。その結果、前より精度が上がって、動きにはより切れが出ました。

上が「初期型」下が「ファースト」塗装も違うが性能も違う

──確かに、同じプラモデルを作っても、作り手が違えば仕上がりは違うものになって当然です。ですが、ミノーのシルエットというか、ボディ自体が以前の「初期型」とが違うと思っている人も多いと聞きます。

伊藤:塗装によってもフォルムは変わりますからね。たとえば、塗装が終わったあとにウレタンでクリアコーティングを2度3度とやるわけですけど、あまり工程が多いと、それだけ人件費がかかるということになります。だから、安くあげようと思ったら、粘度の高いコーティング液にすればディッピング作業が少なくてすむ。経費削減という観点から見るとその方法がいいのかもしれないんです。でも、濃い液っていうのは乾燥の段階で下の方に溜まってしまうことが多いわけです。すると、頭を上にして乾かしたなら、ミノーの前の方と後ろの方とでは、コーティングの厚さが違ってきて、フォルムにも微妙に影響すると。そういう可能性が出てきます。

──自社生産にして、塗料にもこだわることができるということですね。それと、ミノーについているフックも前とは少し違いますね。

伊藤:自社生産するようになってから、渓流用のミノーには中細軸のオリジナルフックを使うようになっています。ハリ先がねむっていたりせずストレートのフックで、ゲイプとフトコロのバランスを独自にデザインしました。「初期型」と比べると、その点も変更ポイントですね。さらに、お客様からの要望が多かったこともあって、フック単体での販売も始めました。5センチサイズ用の#12で30本入りです。

──細かいところでいうとミノーの目も変わりました。

伊藤:以前はシールだったものをUV塗料のポッティングに変えたので、立体的な目になっています。外観で変わった大きな点のひとつです。

──見た目に華やかというか、輝きというか、塗装のクリアさ加減というか、そういうのが増しているように感じますが。

伊藤:アルミ自体も別のものを使っていますけど、アルミのなめしというかしごきでも、光り方が変わりますね。それと、エッジの効いた塗装というか、これは塗る人の技術の問題ですが、エアブラシのアクセルワークというかね。「ファースト」は、フォルムが薄いでしょ。だから、肩の部分というか背中と横腹の境目の部分、ここに直角に近い角度があるから、塗るのが難しいわけです。この部分がもっと丸みを帯びていればやりやすいわけですけどね。

2006年の5月に「初期型」で筆者が釣った春の尺ヤマメ。詳細はウェブに掲載済み

 昨年の晩秋に発売になった「蝦夷50Sファーストモデル」。すでに今シーズンも初夏を迎えているので、このミノーを購入し使った人の中には、いい釣果を得た人も多いだろう。初期型の動きを思い出し懐かしく感じた人もいるだろうし、初期型との違いに驚いた人もいるかもしれない。

 アップストリームでのピッチの細やかなヒラ打ち、レスポンスの良いダート、ボトムから魚が湧き出してくると表現されたアクションは、今シーズンの渓流をさらに楽しくさせてくれるに違いない。

 僕自身、「初期型」を凌駕する「ファースト」の動きを堪能したい。何より、この発売によって、ルアーワレットの中の在庫を気にすることなく釣りができることを嬉しく思っている。     FIN