CRAFTSMANSHIP
LURE
Published on 2024/08/20
「蝦夷50Sタイプ2」
新しい魅力を探る
解説=伊藤 大祐
蝦夷50Sタイプ2 スペック
全長=50mm、重量=5.0g、価格=1,848円(税込)
リメイクされた蝦夷50Sタイプ2が今夏発売された。コンセプトに関して、イトウクラフトのデザイナーである伊藤大祐に話を伺いました。
リメイクへの過程と背景
ーー蝦夷50Sタイプ2のリメイクのきっかけは何でしたか?
大祐:小渓流用と渓流用ミノーと言ったら今ではボウイシリーズが定番化され、蝦夷50Sタイプ2はもっと攻撃的な使い方ができるモデルにしたいなと、父との何気ない会話をしたことが発端ですね
ーー生まれ変わらせることへのプレッシャーはありましたか?
大祐:ないと言ったら嘘になります(笑)。長年愛されてきたモデルを新しくリメイクするということは、ファンの期待に応えなければならないというプレッシャーがありました。新しい性能や操作感を打ち出しつつ、従来のファンにも満足してもらえるかどうか、という葛藤が常にありました。しかし、2年前に今後の蝦夷、山夷のコンセプトと初期プロトたちを父に見せたら『これ、いいじゃないか』と言われ、その言葉が大きな励みになりました。
ーーリメイクプロセスで最も苦労した点はどこでしょうか?
大祐:毎回苦労するのは、許容範囲の基準をどこに置くかです。河川規模、水位、流れの強さ、アングラーのロッドの種類、使用ライン、ショックリーダーの長さなど、アングラーの平均仕様を考慮して、具体的な形に落とし込むことが毎度ことですが大変ですね。
ーーアングラーの平均仕様まで考慮する?
大祐:はい。たとえば、使用するロッドの仕様やアングラーの身長の違いによって、ルアーの動きや性能が微妙に変わります。だからこそ、これらの変数をしっかり考慮して設計しています。これが、どんな状況でもパフォーマンスを発揮するために重要なんです。
ーーリメイク版の変化にユーザーからのフィードバックはどのような影響を及ぼすと思いますか?
大祐:従来の蝦夷50Sタイプ2を使っていたユーザーにとって、新しい操作感や性能に最初は戸惑いを覚えるかもしれません。ただ以前の仕様をスペックアップするだけでは、本当に新しい武器とは言えませんし、ボウイの劣化版になることだけは避けたかった。蝦夷50Sタイプ2だからこそ「釣ったぞ」という満足感と「独自性」を持たせる必要があったんです。
主な改善点と特徴の詳細
ーー前モデルの蝦夷50Sタイプ2と比較して、どの点が最も大きく改善されたと感じますか?
大祐:改善という表現が適切かどうかわかりませんが、中層レンジやボトムへのアプローチが前のモデルよりも容易で、アクションしやすくなりました。特にボトムに入った際の操作でその実力を発揮します。
ーーリメイクされた蝦夷50Sタイプ2の使い方や特徴について教えてください。
大祐:このモデルが得意とするのは、底流のレンジがはっきりしている場所です。渓流や本流を問わず安定した性能を発揮しますが、特に中層レンジからボトムまでを狙う際に、その潜在能力を最大限に引き出すことができます。これは、ラインスラックを活かしてインパクトトゥイッチを行い、レンジをうまくトレースすることで実現されます。速いリーリングを好む方には少し扱いにくいかもしれません。その場合は、トゥイッチをうまく活用してテンポを調整することで、効果的な操作が可能です。また、対象魚によってはシングルフックやワンサイズ大きいトレブルフックを試すのも面白い選択です。操作感が異なりますが、自分の釣り方に合ったフックを選んでみると良いでしょう。ただし、フックを変えた場合でも、レンジを下げる意識を持ち続けることが重要です。
アップストリームで使用する際は、表層ではなく、レンジを一層または二層下げて底流に乗せ、レンジをトレースしつつトゥイッチングを試してみてください。根掛かりを恐れず、挑戦することが鍵です。サイドやダウンストリームでも、まずレンジを下げ、ラインスラックショートトゥイッチングやハードインパクトトゥイッチングを用い、生成されたラインスラックを縦に送り込んでみましょう。そうすれば、このルアーの真価を実感できるはずです。
ーー「生成されたラインスラックを縦に送る」?
このリメイクモデルには、私が勝手に呼んでいる「ブレーキングヘッドフォール(仮)」という特性を他のミノーよりも発揮できるように設定しています。その特性を発揮するためには、リップ面に一瞬の重い水圧を与えると同時に、ラインのたるみを作りラインを送り込む必要があるんです。
ーー「ブレーキングヘッドフォール」とはどういうことですか?
大祐:プロレスの技名ではないですよ(笑)。リップが水を捕らえた瞬間にミノー前方に重力が作用します。その後、ラインにたるみを作ってテンションを抜くことで浮力を制御し、ミノーが頭から急降下する現象のことです。これによって、レンジを調整がしやすくなります。このモデルは、この効果を適切に発揮できるように工夫されており、且つフォール姿勢やミノーの性能をしっかりと保つように微調整しました。
ーーよく理解できませんが、そんなことができるんですか?
大祐:ラインのたるみを利用し、ムチのように鋭くしなり叩くショートインパクトトゥイッチングすると発揮しやすいです。速いリトリーブから瞬時にリトリーブを止め、ラインテンションを緩めてあげたり、またダウンストリームであれば、リップ面には水流による押しの力が加わるために軽いトゥイッチングをしても十分にミノー前方に重力が作用するので、ロッド先端をルアーの方向に送り出したり、トゥイッチング後のラインのたるみを送り込んであげることで発揮しやすいです。そして、センター寄りの後方重心の蝦夷のバランスと組み合わせることで、頭下がりから起きあがろうとする復元力と絶妙な保持力と相まって流れに対し「死に体」になりにくいので、この効果はレンジに神経質になっている渓魚には十分に効果的です。しかし、勘違いしないでほしいのは、ディープダイバーのような潜ろうとする作用とは異なりますよ。
ーーちなみに前モデルが苦手だったシチュレーションを克服したと考えて良いのでしょうか?
大祐:前モデルは、ウエイトバランスに対して浮力が強く働くことがありました。そのため、時には沈まずに表層を速く流れてしまうこともあり、もう3cmだけでも深く落としたいとか、もう少しゆっくり流れてほしいと感じることはありました。魚の活性が高ければ、問題ないのですが神経質になっている渓魚には、数センチの歩み寄れる術が欲しくなります。ただ、誤解しないでいただきたいのは、前モデルが決して悪いミノーというわけではないということです。この話題を続けると「蝦夷50S」のリメイク版の話に繋がってしまいますので、ここで終わりにしましょうか(笑)。
ーーもっと深くお聞きしたいこともありますが、次回にしましょう。ちなみに外観も変わりましたね。リップも気になります。新しいデザインでこだわったポイントは何でしょうか?
大祐:リップの裏面?側面?のくびれは、飛距離、飛行姿勢、水流の受け流し、フォール姿勢、アングラーの入力に対する反応、ヒラ打ちやロール姿勢からの立ち上がりまでの『間』の適応時間の確保を考慮して試作を繰り返していたら、この形状に辿り着きました。見た目のデザインでは、目玉とアルミ箔の鱗デザイン、パーマークの模様を変えヒレを加えました。個人的に大切にしているのは、以前から変わらず、マスコット性とリアルさを融合することです。かわいらしさや生意気な感じ(笑)を表現し、ルアーに表情を与えることで愛着が湧き、製作中も微笑ましくなります。手を掛ける時には必ず『美しい魚を釣ってくるんだぞ』と送り出してます(笑)。
活用アドバイスと未来への展望
ーーそれでは最後に、「蝦夷50Sタイプ2」を上手く活用するためのアドバイスを、釣り初心者やベテランの方にお願いします。
大祐:川の表面にとらわれず、水中にある「底流のじゅうたん」に「蝦夷50Sタイプ2」を乗せてみてください。きっと「渓魚」も「蝦夷50Sタイプ2」も喜びますよ。
ーーありがとうございます(笑)。「底流のじゅうたん」とは面白い表現ですね。すみません、最後にもう一つお聞きしてもいいでしょうか?今後のリメイクや新製品の計画はありますか?
大祐:今シーズン中に新商品を数種類発表する予定でしたが、計画に大きな変更が生じました。新商品を心待ちにしていたお客様にはご迷惑をおかけして申し訳ございません。準備が整い次第、ご案内いたしますので、どうかご理解いただければと思います。今シーズンは十分に釣りに出かけられない状況が続いていますが、そろそろリフレッシュを兼ねて美しい渓魚たちに会いに、丸一日を川で過ごしたいと考えています。ありがとうございました。
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