イトウクラフト

TO KNOW CRAFTSMANSHIP

CRAFTSMANSHIP

LURE

Published on 2018/11/16

初春の本流を釣る
キャリバー85

開発者・解説=伊藤 大祐
まとめ=丹 律章

こちらは2018年5月、大祐が釣り上げたサクラマス。ヒットルアーはキャリバー85HSの最終プロト

キャリバー85スペック:全長=85㎜、自重=16gと20gの2タイプ、価格=1,850円+税
発売予定=2018年12月



ウッド85より水切れのいいインジェクションミノー

キャリバー85は、イトウクラフトから発売される新作のサクラマスミノーだ。サイズは85㎜で、重量違いの2サイズが用意される。形と大きさだけを比べるとウッド85に近い。

──まずは、このルアーの開発理由から教えてください。

大祐:かつては『蝦夷』と『山夷』のシリーズに、サクラマス用インジェクションミノーのラインアップが4種類あったんですが、それらは今は製造しておらず、現在までインジェクション(プラスチック製)のサクラマス用ミノーがない状態になっていたんです。2011年に発売したウッド85は確かにいいミノーですが、単価が高くて根掛かりしたときの損失が痛い。ユーザーの方にボトムをきっちりと攻めてもらうためにも、イトウクラフトのラインナップの中に、もう少しお財布にやさしいサクラマスミノーを加えたかったというのが、理由のひとつです。


ウッド85は3,400円。インジェクションなら1,000円台後半だ。1個だけ買うなら、その差は大したことはないが、数種類カラーを揃えて、なおかつ根がかった際のスペアを考えると、大きくなってくる。


大祐:それと、ウッド85の開発当時は、秋田県のサクラマス解禁が6月で、水量の落ちた初夏の釣りを想定していました。けれど、2015年に秋田県のサクラマス解禁が4月1日に変わって、釣りの開始が2か月早くなったことで、雪シロがガンガン出て、増水した川を攻略する必要が出てきたんです。

──増水時の本流には、どういう性能が必要なのでしょう。

大祐:キャリバーとの比較でいうと、ウッド85はややウォブリング寄りのアクションです。渓流用の蝦夷ファーストみたいなイメージの動きです。派手でダクダク感の強いミノーといえます。

──ダクダク感って言葉、初めて聞きますが(笑)。

大祐:えー! 使わないですか。ダクダク感。リップに掛かる抵抗が手元に伝わる感覚です。

──ブルブル感?

大祐:ブルブル感の、もっと強いやつです。

──それはどこの表現? 神奈川じゃいわない。東京でも大阪でも、多分通じない(笑)。でもまあいいです。ダクダク感でいきましょう。

大祐:……(笑)そのダクダク感が強いと、水量の多い押しの強い流れの中では、釣り人が疲れちゃうんです。だから、水切れを良くして、ダクダク感をちょっと小さくして、ウッド85よりウォブを弱めてウォブンロールに近いようなアクションにしたんです。16gと20gでもアクションを少し変えていて、16gより20gのほうが、より水切れがよくロールを強めてウォブを抑えました。20gのほうがより遠投、押しの強い大場所を想定しているので。押しの強さに対して適した振りのリズムを刻むように設定しているので、泳ぎを見てドキドキゾクゾクしてくれるかと。


フラットボディ、フラッシング、ハンプバック

──重さの話が出たので、重量設定について伺います。キャリバーが16gと20g、ウッド85が14gと18gなので、キャリバーの登場によって、85㎜のサクラマスミノーが、16gから20gまで2g間隔で揃ったことになりますが。

大祐:これは偶然なんです。テストしていった結果、こうなっただけです。

──大きさの85㎜はウッド85に揃えたんですよね。

大祐:それも、最初は違ったんですよ。

──新しいルアーを作ろうと思った時に、85㎜という枠があれば、それに適した重さというのを作ってテストしていくという順番になると思うんですが、85㎜ありきでないのなら、大きさは90㎜でもいいし80㎜でもいい、重さも自由に設定できる。最初は何から決めていったんですか。

大祐:最初に決まっていたのは3つ。フラットボディ、フラッシング、ハンプバックのフォルムということでした。

──なるほど。

大祐:まず80㎜を作ったんですけど、ハンプバックの具合が気に入らなかった。体高が低いとフラッシングが足りないじゃないですか。でも、高過ぎると体高と全長とのバランスが崩れてしまう。

──そのバランスは、数値的なものでしょうか。

大祐:今まで様々なヤマメやサクラマスを釣ってきた経験などから、魚にもルアーにも理想のフォルムがあるんです。フォルムのカッコいい28センチのヤマメと、フォルムがイマイチの尺ヤマメを比べたらなら、小さくてもフォルムが良いほうが好きですし。同じ意味で、ルアーにも、全長に対して理想的な体高というのがあります。それは、数値ではなく自分の頭の中にあるイメージです。もう一つ言えば、僕はルアー個体だけでデザインを考えたことはなくて、釣り上げた魚とルアーを一緒に撮影することを想定してルアーをデザインしています。

──80㎜という長さの中で十分なフラッシングを体高で稼ぐと、フォルムが今ひとつだったと。

大祐:そうですね。下品な感じがした。それで、次に85㎜にしてみたら、そのバランスが取れたというわけです。考えてみれば、ウッド85もハンプバックフォルムでフラッシングのミノーですから、85㎜というサイズに行きついたのは必然なのかもしれません。90㎜で理想的なフォルムのハンプバックにすると相当大きく見えるルアーになるし、重量ももっと乗せなくてはならないだろうから、アクションさせるのも大変かもしれないし。

──85㎜というサイズが決まったら、次は重さですか。

大祐:そうですね。まずは、85㎜で20gくらいのものを作ろうとしました。それで、19gから22gまで1g刻みでプロトを作ってみて、一番しっくり来たのが20gでした。次に少し軽いラインナップも作ろうと、14から17gまで作ったのかな……その中で16gがいいとなって、だから、キャリバーもウッド85も、重いのと軽いので4g違うんですが、そこも偶然なんです。作っていく中でベストなものを選別したらこうなったということです。


レンジを維持するための後方重心

──16と20gの、2つのキャリバーの使い分けを教えてください。

大祐:川の流れの押しの強さによって、16gと20gを使い分けしていただければと思います。先ほど説明した通り、20gのほうがロールを強めて少しウォブを抑えてあります。自重もあるし、重心も後方にあるので飛距離も出ます。重心が後方にあるのは、飛距離の他に押しの強い流れでもレンジコントロールをしやすくするためです。

──リア重心のほうがレンジコントロールしやすいというところを説明してもらえますか。

大祐:スレたサクラマスが定位する場所って、だいたい決まっているわけじゃないですか。だから、キャストしたあと、適当にリトリーブしていたのでは釣れないわけです。サクラマスの着き場を想定して、まずはその場所にルアーを沈ませながら送り込むわけですが、重心が真ん中でミノーが水平姿勢をとっていると沈みが悪いんです。流れが強いとなおさら沈まずに下流に流されてしまう。うまく、ボトムまで沈めても、アクションをさせてラインを張るとラインの浮力やらなんやらでミノーは少し浮いてしまいます。だから、レンジをキープするために再びフォールさせるんですが、ここでも後方重心のほうが沈みのコントロールが容易なわけです。

──サクラマスの目の前で、ヒラ打ちで誘うこととフォールを何回か繰り返すわけですね。

大祐:そうですね。20gはとにかく押しの強い流れを想定しているので、そんなバランスですが、16gのほうはもう少しマイルドで、20gよりは重心も中心よりで、テールを振る動きがやや大きい。

──中小河川のサクラマス用に、もっと軽いキャリバーの予定はありますか。

大祐:阿仁川でも20gが必要な状況すらあるので、16gでかなりの河川をカバーできると思いますが、可能性としては、もう少し違うバージョンが発売になることは考えられます。

──キャリバーは固定重心ということですが、渓流用ではなく、本流のサクラマス用で重心移動がないのは珍しいのでは?

大祐:キャリバーはそもそも自重があるので、飛距離は余裕のぶっ飛びでちゃんと出せます。リア重心というのも飛距離確保に役立っています。全体の重心に対してアイとかのバランスも調整してアクションを犠牲にせず飛距離を確保させています。使ったら驚くんじゃないですかね。固定重心で十分なほどの飛距離が出るので。手返しも早いですし。ただ、今後もしキャリバーのフローティングモデルを出すことになったら、重心移動は必要になると思います。



開発者の苦悩

──キャリバーという名前について聞かせてください。

大祐:Caliberというのは、銃の口径とか能力とかという意味があって、音としても気に入ったんですが、もしかしてスラングで変な意味があったり、そういうのって分からないじゃないですか。だから、知り合いを通じて、ネイティブスピーカーのアメリカ人に、Caliberという単語がルアーの名前として変じゃないかどうか、確かめてもらったんです。結果、特に変なスラングもネガティブな意味もないってことで、この名前が採用になりました。

──では最後に、開発の途上で、特に苦労したことがあったら教えてください。

大祐:ルアー開発って、フォルムやリップ角度、ウェイトの配置とか、すべてが同時進行なんです。そこは大変なんですけど、それはどのミノーでも同じことですから、苦労するのは当たり前で……。苦労っていうより……釣りがどうしても開発者目線になってしまうのは、ちょっと困ることがありました。それがなければ、もっとマスが釣れていたと思うんです。

──どういうことですか。

大祐:釣りをしていて、たとえばキャリバーの16gでマスがチェイスしてきたとき、これは釣れるマスだなって感じても、釣るための釣りを続けるというより、違うルアーのテストをしてマスの反応を観察してしまうんです。スイッチの入ったマスをいったん冷めさせて、またスイッチ入れるためにはどの性能が必要なのかとか、95㎜の山夷を入れたらどうなるんだろうとか。そうやってテストしていく中で、85㎜というサイズがやっぱりいいんだなと確認出来たり。

──釣ることよりも、ルアーのテストが優先されるわけですか。

大祐:そうなっちゃいますね。マスを釣るに必要な要素を少しでも多く凝縮させてあげたいしね。

──より良いルアーには近づくけど、マスには近づけないわけですね。

大祐:そうですね(笑)釣れる魚を無駄にすることも多いので今まで勿体無いことをしてきていることは確かですね。釣ることも大事ですけど…魚の反応や性能を突き詰めるのも楽しいんですよ。(笑)

──今度サクラマス釣りに行った時、全然釣れなかった日には、僕もそういう言い訳をするようにします(笑)。