CRAFTSMANSHIP
SHOES
Published on 2025/01/20
「ウルフトレック ゼロワン」の革新
解説=伊藤大祐
WOLFTREK 01「ウルフトレック ゼロワン」スペック
サイズ=25cm〜29cm(1cmきざみ)、参考重量=494g(26cm片足)、ワイズ:3E
ソール:フェルト、価格=26,400円(税込)24,000円(本体価格)
デザインを担当された伊藤大祐さんに、このシューズのコンセプトとこだわりについてお話を伺いました。
河川環境の変化に挑む
多様な姿勢での安定性を追求したランガンシューズ
ーーこのシューズのデザインに込められたコンセプトやテーマは何ですか?
近年、ゲリラ豪雨などによる河川の被害が多発し、石が動く川が増加しています。このような状況でも、安全で快適なランガン釣行を楽しめるよう、特別なテーマを設定しました。さまざまなシチュエーションにおいてバランスよく使えるシューズを目指しましたが、それぞれのシューズにはメリットとデメリットがあることを理解していただければと思います。重要なのは、今の自分に必要な要素を取り入れている点です。この考えを踏まえて商品を開発しました。流れの速い川を横断したり遡上したりする際にも、安心して歩行できることを目的としていますので渓流から本流の釣りまでをカバーできます。
デザイン開発の苦労
ーーシューズの開発過程で特に苦労した点はどこですか?
開発は2019年にスタートしました。キャラバン様に委託し、今までにない要望にも真摯に取り組んでいただき、多くの挑戦を経て製品化を進めることができました。何度もデザイン案と性能面の資料を作成しましたが、その中で進行中だった案を、思想や発想の変化により白紙に戻し、再びゼロから作り直すこともありました。また、開発はコロナ禍とも重なり、進行がスムーズに進まない場面も多々ありました。それでも、私自身が直面した苦労以上に、担当してくださった方々が前向きに取り組んでくれたことが非常に印象的でした。知恵を絞り、努力を重ね、多くの時間を費やしてプロジェクトに携わってくださいました。このような努力に対し、心から感謝しています。
使用素材とその選定理由
ーー使用した素材について教えてください。その選定理由は何ですか?
「ウルフトレック ゼロワン」では、合皮をメイン素材として採用しました。この素材を選んだ理由は、衝撃の緩和を重視したためです。私自身、ランガン釣行中に不意に足に衝撃が加わることが最も嫌で、合皮の特性が不可欠であると考えました。合皮は衝撃吸収性に優れ、快適さを維持しつつ安全な釣行をサポートしてくれます。また、履き込むことで合皮も柔らかくしなり足の形に馴染むフィット感が得られ、なお長持ちする点も気に入っています。このため、合皮を選ばせていただきました。
伝統と機能性の融合
ーーなぜこのようなデザインになったのか?
ウェーディングシューズの開発を考える際に、父から強く一点要望されたのは「ヒモ通しをこの金具にしてほしい」ということでした。これは、釣行中にヒモが緩んだ際に迅速かつしっかりと締められるようにするための意図でした。この要望を考慮しつつ、私は土踏まずから踵に向かって段差を設けたいがために、ソールをフェルト2枚構造にしました。私なりに、伝統的でありながら数々の機能性を追求したデザインを意識し、安心して釣行を楽しめるシューズを目指しました。
各部のデザインの役割
ーーその各部のデザインそれぞれに役割があると感じました。少し教えてもらえますか?
◾️重量について
新品時、494g(26cm片足)であり、特段軽量仕様というわけではありません。このモデルは、水を吸収し、素早く排出するように設計しています。
◾️メイン素材
石が動く河川や滑りやすい石でのランガン釣行中、足の甲を打ちつける回数が増えてきました。また、くるぶしを痛めることがあり、その結果集中力を欠くことがあります。そこで、ランガン釣行でもしっかりと足を保護するために、メイン素材に合皮を使用し、裏面には適度にスポンジで保護を施すとともに水を吸う重量の調整を行っています。ウェーディングしながらアップストリームしたいときシューズが水を吸ってくれると安心するんですよね。足のトラクションを使いやすくなりますし。
ーーなぜ、水を吸収することで安心して歩行できるのでしょうか。
陸上を歩くときには足に重力がかかりますが、水中では浮力が働くため、足が軽く感じられ、地面との接触を感じにくくなります。これにより、足のバネを活かせなくなり、不安を感じる要素となります。そこで、各所にスポンジを組み込み、水を適度に吸収させることでシューズの重量を増加させています。これにより、地面との接触感が陸上を歩いているような感覚を生み出し、安心感を提供します。頻繁にウェーディングを行ったり、立ち位置を意識して川をこまめに横断したり、流れに逆らって釣り上がるアングラーにとって、理想的な性能を追求しています。
◾️ソール構成
ソールはフェルト2枚とEVA構成で、踵に段差を設けた仕様を採用しています。このデザインの理由は、ソールに凹ポケットを作り出すことにあります。踵と土踏まずの間に90度の角の空間を作ることで、石との接触点を1点から2点、さらには3点と増やすことができ、また踵の出っ張りによって引っ掛かりを生み出すこともでき、あらゆる姿勢において体幹のキープ力に繋がる使い方が可能になります。また、歩き始める際にもソールが適度にしなりやすく、足裏の縦アーチ全体で重心の位置を理解しやすくなります。
この設計を実現するために、キャラバン様の登山靴のラスト(靴を作るための型)を使用しています。これにより、踵に重心が乗りつつ、足の指にも力が入るように設計されていて、前足部が地面を捉えやすくなっています。このバランスによって、勾配のある河川でも足から全身へのバネの移行がスムーズになり、遡上の安定性が向上すると考えています。
◾️アッパー
新品の状態では、どうしてもナイロンやポリエステル生地に比べてフィット感が硬く感じるでしょう。しかし、釣行を重ねることによってアッパー素材の合皮は柔らかくなり、徐々に足に馴染んでいきます。また、屈折のしやすさと足への馴染みやすさを考慮し、要所にエンボス加工を施しています。これにより、屈折位置の誘導を促進しています。なので、しっかりと屈伸運動に追従してくれます。
◾️ランドラバー
屈伸疲労によるラバー剥がれを起こしにくくするために、独自の形状を採用しました。これにより、ラバー剥がれの進行を抑制する効果を高め、ラバー剥がれがあった際でもメンテナンス補修を軽度にて行うことを目的としています。
◾️コバ
登山靴のラストを使用したことで、縦アーチの使いやすさがさらに向上しました。その結果、コバを設けることで地面との接地面が増加しました。これにより、横アーチを活用して足裏の左右の重心移動幅が広がり、地面とフェルトの接地面における危険領域と安心領域の感覚を把握しやすくなります。この結果、踏みとどまるための姿勢のキープ力が向上します。
◾️ベロ
シンプルさの中に重厚感を与えるデザインを実現しつつ、性能の調和を図りました。紐をキツく縛った際でも、前方には適度な締め厚感を持たせ、背屈時には不快な抵抗を感じさせないように、ベロ部分の合皮を細身にしています。また、擦れやすく消耗が激しい部分にはステッチにて補強しました。裏面にはスポンジを入れており、柔らかいホールド感と相まって履いている際の安心感を提供します。さらに、スポンジの使用は他の機能にも直結する重要な要素となっています。
◾️アンクルパッド
厚手のスポンジを採用することで、ホールド感の調整に幅を持たせました。また、水を早く多く吸い込むだけでなく、陸上ではスポンジに溜まった水の乾燥を促進させるために、スポンジ下部の合皮に密閉された部分には細かい無数の穴を設けています。
◾️水抜き穴(デュアルポート)
シューズの内側のみの水抜き穴が一般的ですが、外側にも同様の水抜き穴を設けました。これにより水抜きのみの機能だけでなく、内側と外側によるデュアルポート仕様とすることで、よりスムーズな水の吸収と排出を可能にしました。
ーーウェーディングシューズはメーカーによってサイズ感が異なりますが、ウルフトレックのサイズ感を教えていただけますか?
ウルフトレックゼロワンは、ワイズが3Eです。サイズ選びでは、ワイズに合わせるのか、足のサイズに合わせるのかで悩む方が多いと思います。新品のウルフトレックは合皮にハリがあり、ワイズ部分が少しキツく感じることがありますが、釣行を重ねることで合皮が柔らかくなり、足の形に馴染んでいきます。
釣行前にワイズの調整をしたい場合は、ストレッチャーを使って内部を少し拡張する方法があります。
さらに、参考情報を掲載予定ですので、そちらも確認していただければ、サイズ選びの助けになるかと思います。(下記、サイズ選びの参考情報が記載されています)
ーーインタビューを通じて、ウルフトレックに関する具体的なアドバイスや情報は、今後の釣りに大いに役立つことかと思います。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
【サイズ選びの参考情報】
※あくまで、こちらは参考情報です。履かれる方の足の形はそれぞれ異なるため、店頭での試し履きをお願いします。
ナイキシューズ23.5cmの女性
靴下(中厚手)+W’s FSストッキングフット(シムス)SSサイズ着用
ウルフトレック25cm
ナイキシューズ25cmの男性の場合
靴下(薄手)+エキスパートツーシームウェーダー(フォックスファイヤー)Sサイズ着用
ウルフトレック26cm
ナイキシューズ26cmの男性の場合
靴下(薄手)+G3ガイドストッキングフット(シムス)Sサイズ着用
ウルフトレック 27cm
ナイキシューズ26cmの男性の場合
靴下(中厚手)+エキスパートツーシームウェーダー(フォックスファイヤー)Mサイズ着用
ウルフトレック 27cm
ナイキシューズ27cmの男性の場合
靴下(中厚手)+G3ガイドストッキングフット(シムス)SKサイズ着用
ウルフトレック 28cm
ナイキシューズ27cmの男性の場合
靴下(厚手)+エキスパートツーシームウェーダー(フォックスファイヤー)Lサイズ着用
ウルフトレック 28cm
左:新品 右:釣行を繰り返したウルフトレック
左:新品 右:釣行を繰り返したウルフトレック
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