イトウクラフト

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LURE

Published on 2024/12/02

「バルサ蝦夷50S」
リメイクへの想いと挑戦

解説=伊藤大祐

バルサ蝦夷50S スペック
全長=50mm、重量=3.3g、価格=3,960円(税込)

リメイクされたバルサ蝦夷50Sがまもなく受注を開始します。デザイナーである伊藤大祐にコンセプトについてお話を伺いました。


伝統をどう活かすか


ーーバルサ蝦夷50Sに対する想いを、どのように受け継いでいますか?

大祐:従来のバルサ蝦夷50Sを使用して、渓流ルアーの技術を学んだユーザーは多いのではないでしょうか。私自身もその一人です。ヒラ打ち、リーリングの速さ、水噛み操作、そしてデッドスローでチェイスしてくるスレたヤマメとの距離感のつめ方など、多くのことを学びました。スレたヤマメを釣るために重要なポイントがいくつかあり、そのうちのいくつかを特筆させたモデルがバルサ蝦夷50Sです。今回のリメイクでは、この基本を踏まえた上でスペック数値を変更しました。


クラフトマンの喜びと挑戦

ーーリメイク作業の準備や苦悩はありましたか?

大祐:イトウクラフトに入社する前から、同社の製品データ制作に携わっており、入社後には全ての製造の作業や全工程を統括してきたため、準備はそれほど困難ではありませんでした。ただ、デザインや設計データの作成、製品のすべての製造を行う中で、時間が足りなくなり、自分の時間をどう削るべきかを悩む局面があります。しかし、ユーザーが素晴らしい渓魚との思い出作りや感謝の言葉が、何よりの喜びです。それが私の本望であり、クラフトマンとして幸せです。

ーーちなみに今回のリメイクにあたって、特に意識したトレンドやニーズはありますか?

大祐:良くも悪くもトレンドについて今まで考えてきていませんでしたね(笑)。今回に限らず、スレたヤマメをどう攻略するかが最優先事項でした。


幅広い釣り人に寄り添う

ーーどのようなユーザーを想定してバルサ蝦夷50Sをリメイクしましたか?

大祐:初心者から上級者まで幅広いユーザーを想定しています。初心者の方には、シンプルな操作で安定したアクションを楽しんでいただけるように設計しており、基本的なテクニックを学ぶのに適しています。一方、上級者の方には、より繊細なロッドワークや高度なアプローチが可能になるような特性を備えています。スレた魚に対してもアプローチを変えたり、状況に応じて多様な使い方ができると思います。

ーー元のバルサ蝦夷50Sの特色の中で、絶対に残したいと思った要素は何でしたか?

大祐:点の釣りのしやすさ。ロッドとラインの操作によるアクション後の「間」の姿勢、そしてウォブリング基準のスローテンポで安定した動きは大切です。特に「ベタんっ!ベタんっ!」と倒れるヒラ打ち性能は特に残したい要素で、デッドスローリトリーブ時でも魚に違和感を与えず、口を使わせやすい浮力によるレンジキープ力も大切ですね。


新たな性能の追求と感受性

ーー新しい機能や仕様について、どのようなアイデアを取り入れましたか?

大祐:フラットサイド面を増やし、ボディの左右で水の流れを縦に感じやすくしました。これにより、水中の複雑な流れを捉えやすくなり、ロッドワークによる入力にも繊細に反応するようになりました。しかし、この変更に伴い、従来の設定のままではデッドスローリトリーブでの操作やヒラ打ち後の姿勢、ナチュラルドリフト時の操作にも不備を感じました。

単にウエイトを重くしたり、低重心にして安定を求めようとするとヒラ打ち後の起き上がりを早めてしまいバルサ蝦夷50Sの特筆すべき性能が失われてしまいます。起き上がりの早いヒラ打ちはリアクションバイトを誘う上では効果的ですが、バルサ蝦夷50Sにおいては、ヒラ打ちからの立ち上がりは遅くなくてはなりません。また、デッドスローリトリーブでのヒラ打ちのキレとキレ角を増加しました。さらに、ショートインパクトトゥイッチングでは、前方移動距離が少なく、左右に頭を「グリッ」と入れ込むクイックターンヒラ打ち性能を実現するために、ボディ形状やリップ設定、ウエイトを微調整しました。従来のバルサ蝦夷は3.5gでしたが、このリメイク版は3.3gとわずかに軽くなってしまいましたが、飛距離は変わらないバランスを図りました。

ーーこのバルサ蝦夷50Sで釣りする際に、どのような状況や技術をお勧めしますか?

大祐:向かい風がなければ、多くのシチュエーションで効果的に活用できると思います。ただし、浅くて流れが速い場所ではバルサ蝦夷50Sのデメリットが出やすいので、その場合はボウイシリーズを使用するのが効果的です。河川の規模に応じて、適切に使い分けることが重要です。

リメイク版のバルサ蝦夷50Sは、スローテンポアクションをメインとした釣りに適しており、デッドスローリトリーブが基本ですが、ファストテンポでも使用可能です。デッドスローリトリーブで左右交互のヒラ打ちが難しい場合は、スローリトリーブやミディアムリトリーブにスピードを上げて試してみてください。そうすることで、左右交互にヒラ打ちができるはずです。慣れてきたら、魚のチェイスの様子に応じてリトリーブスピードを調整すると良いでしょう。

さらに、ラインスラックを活用したショートインパクトトゥイッチングでクイックターンヒラ打ちを演出するなど、さまざまなテクニックを試してみてください。これにより、スレたヤマメを挑発し、本能を刺激して誘い込み、口を使わせる釣りを楽しむことができます。

また、リップに水圧がかかることでレンジキープ機能が向上します。ボウイ50Sでは浮き上がりをボディ形状とウエイト重心が補助しますが、バルサ蝦夷50Sではリップの水噛みで浮き上がりを補正します。この設計は潜るわけではありませんが、ディープミノーのような作用を発揮します。トゥイッチング時にはミノーがヒラ打ちする前に前傾姿勢になり、ド派手なヒラ打ちが可能になります。そして前傾姿勢になってもリア重心がしっかり残るため、ボディの浮力と相まってナチュラルに水平維持に移行しようとします。その機能を活かし、アップクロスでのターン移行時にルアーを止めたまま連続でド派手なヒラ打ちをすることができ、またスレたヤマメに対して食わせの「間」を効果的に生み出せるでしょう。

本スレヤマメの小さく突くバイトへ持ち込み、アワセの勝負をぜひ楽しんでください。




さらなる製品展開への期待

ーーバルサ蝦夷50S以外にもリメイクしたい製品やアイデアはありますか

大祐:以前の記事でも伝えていましたが、発言しちゃうと問い合わせが増えてしまうので、あまり公にはしたくなかったのですが、蝦夷50Sタイプ2のリメイクを通じて、結果さまざまな要望をいただいておりますね(笑)。ルアーのリメイク版に限れば、蝦夷50S、蝦夷50SD、蝦夷65Sタイプ2が進行中ですが、発売に至れるかはまだ…未知数です。

ーー最後に今後のビジョンや取り組みにお話いただけますか。

大祐:常に新しい挑戦を求め、釣りの楽しさを広げるために努力していきます。皆様からのご意見やご要望を大切にし、より魅力的な製品をお届けできるよう尽力してまいります。今後の展開にもぜひご期待ください。