CRAFTSMANSHIP
LURE
Published on 2009/04/20
5cm蝦夷の使い分け
解説=伊藤 秀輝
聞き手=丹 律章
──僕が伊藤さんと出会ったのは15年位前で、当時僕が所属していたルアーフリークという雑誌の取材で、最初は秋田の渓流に行きました。そしてでかい魚こそ出なかったけれど、ヤマメとイワナをたくさん釣った。それで、正確に数は数えていなかったけれど、60匹以上は確実に釣っているだろうし、100匹まではいっていないのではないかと僕は感じて、およそ80匹。これくらいじゃないかと思った。そして「必然の80尾」という記事を書いたわけです。あの頃イトウクラフトは、まだ釣り具の開発をしてなかったので、伊藤さんも他社のミノーを使っていました。カラーは何種類かあったし、スプーンも使ったけれど、その日ミノーは1種類しか使わなかった。それが今では、何種類ものミノーを使い分けています。この変化について聞かせてください。
伊藤:あの頃は魚がもっとスレてなかったんです。ミノーを投げると凄い勢いで追いかけてきて、腹のフックにガップリ食いつく魚も多かった。もちろん、今よりスレていないとは言え、それでも釣り方によって違いは大きく出るし、スレてくるとその違いがどんどん大きくなる。ただ、今は多くの釣り人が常にいろいろなルアーを投げてるから、以前とはスレの度合いが全然違う。ルアーと同じようなスピードで追いかけてきて、手前でUターンするとか、食いつくにしてもテールフックのあたりをちょんとつつく程度ということが多いんです。
──腹のフックに食いつくというのは、魚にやる気があるということで、テールフックをつつくというのは、それに比べるとやる気が少ないということですね。
伊藤:そう。そういう魚が多いでしょ。それでもテールフックに触ってくれればいい方ですよね。だから、そういうスレた魚にやる気を起こさせるために、今はミノーにも種類があった方がいいということなんです。
──なるほど。それでは具体的な使い分けについて。
伊藤:まず、蝦夷50Sっていうのは、一番オールマイティに使えるミノーですね。潜るタナとか動きの振り幅、いろいろなミノーの真ん中に位置するルアーです。様々なポイントを速いテンポで撃っていく場合には、こういう汎用性の高いミノーがいいんです。その局面に合わせた釣り人の操作、要求に幅広く対応してくれるわけだから。でも、そのポイントにいい魚がいることが分かっているとか、特にその場所を意識して釣るときには、それぞれの使い方になってくるわけです。たとえば、前にそのプールでデカイのがルアーを追ってきたんだけど、ルアーに触っていないからまた出るかもしれない。で、その場所を改めて攻めなおすって時には、まずはそのポイントの特性を考えるわけです。ルアーに汎用性はいらない。もし、その場所が流れの押しが強くて、フトコロもあってという時は、ヤマメは中層より下にいるわけだから、タイプⅡでヤマメのタナまで一気に沈ませて勝負するという作戦が成り立つわけです。
──フトコロのある場所ではやはり、タイプⅡが一番だということですか?
伊藤:ところがそうともいえない。タナを合わせて、ヤマメの目の前に送り込んでいるつもりでも、それでもヤマメが出てこないという時だってある。タナさえ合えば必ず釣れるっていう単純な話じゃないから、釣りは。そういう時は、そこにいる魚に対して、目の前にルアーを送り込むのではなく、ルアーの動きでヤマメの攻撃本能に訴えるという方法もある。渓流のアップストリームという領域で、一番振り幅があって、ピッチも細かく泳ぐのはバルサ蝦夷なわけだから、それで誘って、興味を持たせて反応させるという方法もあるんです。こういう場合は必ずこれっていうのではなく、引き出しをたくさん持っていて、その状況に応じて試すのが大事ですね。
──復刻したファーストモデルというのは、どういう位置づけになりますか?
伊藤:使い方の方向としては、バルサ蝦夷に近いです。アップストリームでよく動いて、ピッチも細かい。でも、バルサ蝦夷とは当然動きの質がちょっと違う。それにプラスチックとバルサを比べたら、やはり多少はプラの方が強い。もちろん通常の使い方でどうこうということはないけど、ミスキャストで岩盤にぶつけるとか、そうなると違ってくる。使い手の問題ですけど。
──ファーストモデルとバルサ蝦夷50Sを比べたら、ファーストは3.7g、バルサ蝦夷は3.5gと重量が違います。となると飛距離は多少ファーストの方がいいわけですね。
伊藤:ボディ形状やウェイトバランスにも左右されますけど、単純にはそうなりますね。他にファーストの方が優れている点といえば価格でしょうか。バルサ蝦夷より安い。
──では、ふたつを比較した場合、バルサ蝦夷の優れている点はどこでしょう?
伊藤:バルサ蝦夷は連続してトゥイッチを掛けた時に、より小さなロッドアクションでヒラを打たせることが可能です。同じ距離のなかで2~3割はヒラを多く打たせることができますから、ヤマメの闘争心を刺激するような釣りにはかなり有効な武器になると思います。タイミングが合わなくてバランスを崩したり、水面から飛び出したり、なんてことがない。ヒラを打ってから瞬時に起き上がって、またすぐ次のアクションに移行できる。それはバルサという素材が持つ浮力によるものだから、プラでは及ばないところなんです。そういう意味では安定性もバルサ蝦夷の方が優れていますね。アップストリームで、なおかつ底からの湧きが強い流れでも、ルアーが『死に体』にならずに安定して大きな動きを続けてくれる。そういった点では、頭ひとつふたつ抜けています。あと、さっきの飛距離というところなんだけど、去年、ファーストを復活させるためにテストに行ったわけです。で、一緒にバルサ蝦夷も使ってみた。するとね、ファーストはやはり飛距離が出るわけですよ。単純な重量やインジェクション特有の比重もあるし、形状も飛距離が出る設定だから。今の渓流では遠くからポイントを狙うという意味でもミノーの飛距離というのは大きな要素です。だから、バルサ蝦夷にももっと飛距離がほしいということになって、今のバルサ蝦夷はリップ形状が変わっているんです。空気抵抗を抑えるためにリップが細くなってる。それを補うために、重量バランスを変えて、ディッピング回数も変えたので重量自体も少しだけ重くなっています。泳ぎの違いも使って気付く人は多いと思うけど、2008年の春に出たバルサ蝦夷と、秋のバルサ蝦夷とではマイナーチェンジされているんです。
──ディッピングを増やしたことで耐久性も増していると。
伊藤:ワイヤーも変えてるしね。前は軟らかいワイヤーを使っていたんだけど。
──ワイヤーというのは、アイのワイヤーですか。
伊藤:そう。前のモデルはわざと軟らかいワイヤーを使ってたんです。だけど、アイが潰れるっていうユーザーの声があって、それで検討した結果硬いものに変更したんです。これまでいろいろなバルサ製なりウッド製なりのミノーを使ってきて、私はひとつの弱点に気がついていたんです。それは、ワイヤーが硬いためにアイ調整を繰り返すとワイヤー周辺の木の部分が潰れてユルユルになっちゃって、そのうちアイ調整が全く利かなくなってしまう。それが自分では許せなくて、バルサ蝦夷では軟らかいワイヤーを使ってた。軟らかいと鼻先だけで調整ができて、内部の木の部分には影響が少ないからね。
──なるほど。それには気がつきませんでした。
伊藤:軟らかいワイヤーでも、どこかに叩きつけるようなことをしなければ、曲がったり潰れたりしないと思うんだけどね。
──あ~、それに関してはですね、橋脚の奥を狙おうとして手前のコンクリートの橋脚にぶつけたりとか、そういうことはあるんです(笑)。中級とかそれ以下の釣り人の場合は。僕には良く分かります。そうやってルアーを何個壊したことか(笑)。
伊藤:釣り人がルアーを使い込んで、ある程度特徴が分かって、使いこなせるようになってきたら、アイを上げたり下げたりして、動きを変えて試してみたくなると思うんです、普通は。普通はっていうか、私はそうだったから。それにはワイヤーが軟らかい方がいいんだよね。アイは下げた方がロールの幅が大きくなるし、上げれば小さくなる。ダウンで使うときはわざとアイを上げて、泳ぎの幅を小さくして、動きはロッドアクションでカバーするとかさ。そういうのが楽しいんだと思うんですけどね。リップも現場で削ってみたりとか。
──そういえば、サクラマス用にミディアムディープっていう種類のミノーがまだ出る前、当時使っていたシュガーディープのリップを切って短くして、こうすると潜り過ぎず操作もしやすいんだって、伊藤さんに教えてもらったことがありましたね。何を使って切るんですかって聞いたら、ハサミで切れば簡単だって。普通のハサミでリップが切れるってこと、あの時に始めて知りました。
伊藤:あったねえ。そうやって工夫すると、ルアーをより深く知ることになりますね。
──切りすぎて、全然泳がないミノーを作ったりもした。
伊藤:そういうのはガンガン瀬で使えばいいんだから。ディープのアイになっている8の字は熱くすれば場所を動かせるんだけど、ライターであぶるとリップまで溶けちゃうから、8の字をハンダゴテであっためてやる。そうすればアイの位置を変えられて、泳ぎの幅も変えることができるよ。
──そういう工夫から、新しいルアーの発想は生まれてくるんですね。 FIN
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