イトウクラフト

TO KNOW CRAFTSMANSHIP

CRAFTSMANSHIP

LURE

Published on 2008/04/24

Ⅰ型蝦夷50S、復刻

解説=伊藤 秀輝
聞き手=丹 律章

 2002年に、イトウクラフトから発売されたⅠ型蝦夷(Ⅰ型とか初期型と呼ばれることが多いが、この文中ではⅠ型で統一する。復刻に向けての正式名称は未定蝦夷50S 1st)。
 2004年に現在の形の蝦夷に後を継ぐまでの2年間、このⅠ型は生産された。アップストリームと止水の釣りに突出した性能を持つⅠ型蝦夷は、当時主流であったダウンクロスの釣り人からはあまり評価されなかったが、アップストリーム愛好者からは、今でも根強い支持を得ている。ネットオークションなどではプレミア価格で取引されていることからも、それは伺える。
 姿を消してから4年。この秋、Ⅰ型蝦夷が復刻する。
 
──発売時期はいつになりますか。
 
伊藤:Ⅰ型の発売は、気持ち的には夏までにしたいけれど、今の仕事具合から考えると、結局秋ぐらいになるんじゃないでしょうか。
 

蝦夷Ⅰ型。アップストリーム最強のミノー

──このルアーを作った経緯を教えてください。
 
伊藤:Ⅰ型を発売したのは、2002年。それまでは、別のルアーを使っていたんですが、使い込んでいくうちにそのルアーの限界が見えてきたんです。それで、自分の釣りにはもっと適したルアーがあるって思うようになってきた。具体的には、薄いボディで平ウチアクションのルアー。こういうルアーはヤマメ釣りに効果があるというのが分かってきていたわけです。ボディの薄さというのは、フッキング率向上に役立ちます。ボディの厚さとフックの幅、この差が大きいほうがフッキングは良くなりますからね。体高がある扁平ボディは、平打ったときに、光の反射を大きくするからハイアピールになります。でも、当時はそういうルアーがなかったでしょ。だから自分で作るしかなかった。今でもそうだけれど、自分の武器になるものじゃないと私自身必要ありません。自分が欲しいものが無かったから作った。それが理由です。

──確かに10年位前のミノーって、細長いものが多かったですね。
 
伊藤:スプーンからミノーの釣りになって、さまざまなルアーで釣りをしてきて、細長いミノーを使っているうちにその限界が分かってきて、さらに釣りを続けるうちに、自分が求める形が出来上がってきました。それを具現化したのがⅠ型の蝦夷。Ⅰ型蝦夷の50Sと65Sは、その当時、自分がルアーに関して持っていたものを全て出し切ったルアーです。
 
──でも、市場の評価は分かれました。
 
伊藤:そう。分かってもらえる人からは高評価。サイドとかダウンの釣りをしている多数の釣り人からは、ぜんぜん使えないと言われました。当時はダウンの釣りが多くて、小河川でも釣り下ってくる人を良く見かけましたね。もちろん自分の場合も、状況に応じてアップの釣りにダウンとかサイドとかが混じることもあるし、それだって、Ⅰ型が使えないかというと、操作をきちんとすれば全く問題ないんですが、使い方が理解されていなかったんでしょう。そのルアーの一番いいパフォーマンスをするスピードというのを理解していない人が多いってことだと思います。

聞き手であるライターのルアーケース

──そういう評価についてはどう感じましたか。
 
伊藤:もっと私のような釣りをする人が多いと思っていたから、当時のこの反応は、とても寂しかったですね。
 
──そして、2004年にⅡ型、つまり現在の蝦夷を発売することになりました。
 
伊藤:Ⅰ型に比べると、サイドとかダウンでも使いやすい設定にはなっていますが、市販のトラウトミノーの中ではピーキーな部類に入ると思います。道具というのは何かを得れば何かを失うのが当然で、その中でバランスが保たれているわけだから、どうしても必要な部分を得たのなら、足りない部分は釣り人の操作やテクニックでカバーしていかなければならないんです。もちろん、失う部分は極限まで少なくしつつ、プラスの部分をできるだけ多く乗せる。そういうルアー開発が理想とは言えると思います。10ポイント得たら、どこかで10ポイント失うのが当たり前なんだけれど、失う部分を5ポイントくらいで押さえることができれば、といつも考えています。
 

──イトウクラフトのミノーを使い方で分類して欲しいのですが。
 
伊藤:ディープとかタイプ2は特殊だから別として、いわゆる普通のプラスチックのショートリップミノーは3種類。山夷、蝦夷、そしてⅠ型の蝦夷ですね。山夷が一番ダウンに強くて、今の蝦夷が中間、Ⅰ型が最もアップよりの設定になっています。特に最初に発売したⅠ型というのは、一番思い入れの強いルアーですね。何といってもプラスティック素材のインジェクションミノーに挑戦した最初ですから。それまでもウッドのプロトなどは作っていたんですが、ウッドなら素材比重による許容範囲があるんです。例えば狙った泳ぎを出すときにインジェクションミノーはウッド製に比べるとセッティングが数倍難しい。リップやウエイト位置等のセッティングがコンマ1ミリでまったく違う泳ぎになってしまう。それをぎりぎりのところで調整し、奇跡的なバランスで完成した。この時の苦労が、ミノー作りの経験となって今に生かされているわけです。
 

箱入り新品。ノド手のデッドストック

──Ⅰ型が、廃版になっていたときでも、高い評価を得ていたことについてはどう思いますか。
 
伊藤:止水やアップの釣りで、爆発的なアピールをするⅠ型というのは、使い方しだいで凄いルアーになります。それを分かってくれていた人がいたのは嬉しかったですね。

 
──復刻はいつ頃から考えていたんですか。
 
伊藤:実際に本気で考えたのは、半年くらい前からです。つい2ヶ月前までは、1年間の限定復刻のつもりだったんですが、それも今は白紙。2~3年は出すことになるかもしれません。それと、Ⅰ型にせよ最初の1年の現行の蝦夷にせよ、プロトを自分で作って、それをOEMで別会社に作ってもらうと、性能が1割程ダウンしてしまっていたんです。だからこれを自社工場で作れば、前に発売したときのものよりいいものになる可能性があるんです。自社製作で、実力を出し切ったⅠ型の登場に期待していてください。  FIN