イトウクラフト

TO KNOW CRAFTSMANSHIP

CRAFTSMANSHIP

LURE

Published on 2010/11/18

WOOD85、発売

解説=伊藤 秀輝
聞き手=丹 律章

一番上がWOOD85のⅠ型プロトモデル。真ん中がⅡ型。そしてその下が完成形のⅢ型。Ⅰ型はまだ立体的なエラ出しではなかった。リップセッティングも徐々に煮詰められていった

 どのメーカーもそうなのかもしれないが、イトウクラフトには、発案や企画はしたものの、発売するにいたっていないという未完成な製品がある。それらは、基本コンセプトだけしか決まっていないものもあれば、プロトとして形になっているもの、あと一歩で完成というものまでさまざまだ。

 無事完成して発売された製品の陰には、多くの失敗があり、苦労がある。そんな作り手の苦悩やトライ&エラーを知ってもらおうと思い、サクラマス用のウッド製プラグをこのサイトで紹介させてもらったのは、2009年の秋だったと思う。

 その時点で、この「WOOD 85」は、伊藤秀輝によると「動きは満足できるレベルに達しているが、飛距離が足りない」という状態で、発売の日程はおろか、発売できるのかそれともこのまま埋もれてしまうのかということすら、全く白紙だった。

 そんな状態だったルアーがこの秋についに完成し、2011年の2月には店頭に並ぶ予定であるという。完成に至る道のりと、「WOOD 85」の詳細を伊藤に聞いた。

──まずはスペックから伺います。当初の予定では、85mmで、13gと16gの2タイプだったはずですが、それは変わりないでしょうか。

伊藤:全長は85mmそのままですが、重量はちょっと変わりまして、最終的には14gと18gの2モデルということになりました。名称はそのまま「WOOD85」で、18gの方はフックを赤い色にして、区別できるようにして発売します。価格は税込みで3,570円。プラスチックミノーの約2倍の価格設定ですが、その価格に応じたミノーに仕上がったと自負しています。

──1年前には重心移動のプラスチックミノーに比べて飛距離が物足りないということでしたが、これはクリアされたと思っていいのでしょうか。

伊藤:ええ。もちろん十分な飛距離を確保しました。

──それはどのようにして克服したのでしょう。可能なら具体的に伺いたいのですが。

伊藤:飛距離を出すにはいろいろな方法論があると思うんです。これは前回お話したことと重なってくるんですが、まず、単純に重量を増せば飛距離は伸びます。ところが、重すぎると動きが生きてこない。メタルジグにリップをつけてもミノーのようには動かないのと理由は同じです。次にミノーのウェイトをより後方へ移動させることでも、飛距離を伸ばすことはできます。しかし、あまり後ろ過ぎると、これもミノーの動きが悪くなります。このバランスで何とかしようと頑張っていたのが、2009年の秋だったわけです。ですが、ウェイトを後ろに移動させるだけでは、どうしても限界があった。そこで今回は、それにプラスして、ウェイトを少し上方向に移動させることで飛行姿勢を安定させて、飛距離につなげる作戦をとりました。

──ウェイトを上に、ですか?

伊藤:上に移動するということは、重心が中心に近くなるということで、飛行姿勢が安定します。安定することによって飛距離が伸びるんです。簡単に言うと、重心が中心からずれればずれるほど、飛行中に回転するミノーになりがちなわけです。プラスチックミノーの場合、あえて重心を低くして、できるだけ浮力を上に集めることでヒラ打ちアクションに切れを持たせるようにしていました。プラスチックは素材自体が重くて、浮力は内部の空洞部分が担うわけで、ウェイトの位置が、動きに大きな影響を与えるんです。ところがウッドは素材が軽く、それ自体に浮力があります。だから、ウェイト位置を上げても動きに与える影響が少ないんです。逆に言えば、プラの場合もウェイトを上に移動させて飛行姿勢をより安定させた方が飛距離は伸びるんですが、それでは思ったようなアクションが出ない。そこが、プラの弱点といえば弱点なんですね。

──つまりは、ウッドという素材が持つ力を利用したということですね。

伊藤:そうです。それから、このルアーはウェイトが4つ入っているんですが、前方の2つと後方の2つ、その間隔を前のプロトより少し広げました。結果的に重心は少し後方に移動しています。もちろん重量アップも図っていますから、重心を上げたこと、後方に移動したこと、重量アップの総合力が飛距離につながっているんです。これら全てを可能にしたのは、ウッドという素材のポテンシャルの高さだと思います。

──サイズは85mmですが、このサイズにはどんな意味があるんでしょう。サクラマスミノーとしては、ちょっと小さいかなという印象なんですが。

伊藤:そうですね。うちのルアーでも蝦夷や山夷には90mm、95mmというのがラインナップされていて、サクラマスミノーはそれくらいが多いんじゃないかと思うんですが、もちろんこういうサイズでも釣れないことはないし、これまでも釣れていたわけで、確かに、春先のフレッシュランのサクラマスには、大き目のサイズでも問題はないと思うんです。でも、水温が高くなってきて、反応が鈍くなってきて、ルアーにもスレはじめた頃のサクラマスには、やはり少し小さめの方が効果的なんじゃないかと。春先だけなら大きくてもいいけど、春も初夏も、シーズンを通して実力を発揮してくれるルアーという前提で考えて、85mmというサイズに落ち着いたわけです。例えば、フレッシュランなどは1つのポイントに群れで入って来るので、そういう状況では、1本目はタダ巻きで釣って、ちょっとスレてきたらトゥイッチを掛けて2本目を釣って、その次にレンジを下げて、ボトムにステイさせた状態でがんがんヒラを打たせて誘う、という風に釣りを様々に展開することもできます。大きなルアーでは、そこにいる魚を一気にスレさせる恐れがあるし、必然的に泳ぎもトロくなるので、なかなかそうはいきません。

──「WOOD 85」は蝦夷ファーストのようなハンプバックスタイルというか、背中が盛り上がったフォルムをしています。この形状の理由はなんでしょう。

伊藤:フラッシングのアピールですね。85mmという少し小さめのミノーサイズなので、長さでアピールできない分、体高でフラッシングの面積を稼ぎたい。実はフォルムというのも飛距離には大きく関係があって、体高を低くした方が飛行中の空気抵抗が小さくて飛距離は出るわけです。でも、ヒラ打ちのアピールを考えると、ここで妥協するわけにはいかなかった。体高を保ったまま、つまり強いアピール力は保ったままで、85mmという小さめのミノーの飛距離を伸ばす。その解決方法として私がたどり着いたのが、ウェイトの位置だったというわけです。まあ、もうひとつ最終的な泳ぎと飛距離確保のキモとなった工夫はあるんですが、一応そこは企業秘密ということで。

──でもその企業秘密的な工夫っていうのは、ミノーを分解してみればバレちゃうんじゃないんですか?

伊藤:それは、おそらく分からないと思います。でも、言葉で説明すれば他の人にも真似はできる。そういう工夫です。

──では「WOOD 85」の動きについて説明してください。

伊藤:アクションは、やはりウッドという素材が提供してくれる部分が大きい。浮力が大きいから、キビキビしたアクションをさせることが可能になります。たとえば、大きな石が沈んでいてその石に着いているであろうサクラマスを釣ろうとした場合ですが、ルアーをアクションさせて、誘うエリアが直径1mくらいの円だったとします。そしてルアーは川の流れに押されるので、そのエリアをルアーが通過するのに3秒掛かると仮定します。すると、同じ3秒の間に、どれだけアピールできるかというのが重要になることがあります。プラとウッドでは、ここで大きな差が出る。ウッドの方が絶対に多く角度のあるヒラを打たせることができるんです。プラならその3秒の間に8回しかできなかったところ、ウッドなら最大15回ヒラを打たせられるっていうね。まあ、回数はあくまでイメージですけど。

──ウッドだと、ロッドアクションで横に倒れたミノーが、すぐに起き上がるので、時間をおかず次のアクションに移れるということでしょうか。

伊藤:そう。プラだと、サイズが大きくなればなれるほどルアーが起き上がるのを待たなくてはいけないことがある。もちろん、プラでも釣れる状況は数多くあるでしょうけれど、プラができないことをウッドのミノーでならできる領域が確かにあるんです。釣り師の意のままに動かすことができるのが、「WOOD 85」だということです。

──流れの中でのコントロール性が高いということですね。

伊藤:そうです。それに加えて、湖などの止水でも抜群に使い勝手がいいんです。自重があるので沈みが速いから深場を効率よく探れる。なおかつ流れの抵抗が無いと動かないプラグと違って、少ない抵抗で派手に動かすことができる。しかもレスポンスがいい。結果、魚を集める能力が高い。

──渓流の堰堤周辺の深場で、蝦夷ファーストが抜群に効くのと似ていますね。

伊藤:そうです。これまでスプーンしか届かなかった深場で派手な動きをされたら、イワナだってサクラマスだって、黙っていられないかもしれない。

──次に「WOOD 85」のカラー展開について伺います。ウェブサイトのカラーチャートを見ているんですが、今まで見たことがない色があります。KBというのがはじめて見るカラーですね。

伊藤:これは派手なカラーリングが多い中で、唯一地味なカラー。コパーベースに背中は黒。変化をつけたいときに頼れるカラーです。

──パーマークがあるカラーは、渓流用の小型ミノーとは違って2色だけですが。

伊藤:やはりヒラ打ちのアピールを考えたいので、フラッシング面積を広くとりたいんです。そのため横腹が目立つようなこういう色の展開になりました。だから、パーマークのあるカラーもパーマーク自体を薄めにしてあります。

──GOとGRは写真では両方ともいわゆる赤金に見えますが、この違いは何ですか?

伊藤:GOの方は、背中がオレンジから黄色のグラデーションになっていて、オレンジベリーです。GRの方は背中がオレンジではなく赤。腹はパールホワイトになっています。写真だと分かりにくいかもしれませんが、実物を見ると全然違うカラーです。カラーリングはプラよりさらに工程を増やして、差別化を図っています。仕上がりには自信を持っていますので、これまでのプラスチックミノーとはひと味違うカラーリングを、実際に釣具店で見てもらいたいですね。ルアー製作担当者に相当無理を言ったので、だいぶ苦労はしたみたいですが、満足のいくものができました。自分的に今、特に気に入っているのは、GSです。いわゆるグリーンバックですが、この玉虫色というか、独特の背中の色は、皆さんもしびれるんじゃないでしょうか。

 サクラマスシーズンが本格化する2月。「WOOD 85」は皆さんの手元に届くはずだ。大河川の太い流れで、固定重心とは思えない飛距離に、まずは驚いていただきたい。そして、遡上したてのサクラマスを相手に、その小さなボディーに秘められた実力を試して欲しい。初夏のスレマスを相手にする頃には、「WOOD 85」の凄さを、十分に体感していただいていることだろう。