イトウクラフト

TO KNOW CRAFTSMANSHIP

CRAFTSMANSHIP

LURE

Published on 2009/08/25

蝦夷50Sファースト
タイプⅡ

解説=伊藤 秀輝
聞き手=丹 律章

 予定では2009年秋、イトウクラフトはミノーの新作を発売する。それは、「蝦夷50Sファースト・タイプⅡ」。派手なヒラ打ちアクションで渓流魚を誘うファーストのヘビーシンキングモデルである。

──このミノーは、2008年の秋に発売になったファーストのヘビーモデルということですが、このタイミングで「蝦夷50Sファースト・タイプⅡ」を出す理由は何なのでしょうか。

伊藤:もちろん、他の仕事が軌道に乗って自分自身が何から何までやらなくてもいい状況になってきて、新作に取り組む余裕がある程度できてきたというのもあるんですけど、このヘビーシンキングモデルの構想は、最初からあったのものなんです。

──最初というと、具体的にはいつのことでしょう。

伊藤:2002年以前ですね。2002年に、一番最初にうちで出したルアーが「蝦夷50S」で、これを「初期型」と呼ぶとすると、その発売時にはヘビーシンキングを考えていました。初期型とファーストは、同じ金型を使っていて、型は全く同じものなんです。ファーストは自社で塗装などをしていますし、フックなども少し違うので、製品としては全く同じではないんですけど、プラスチックの型の部分は全く同じです。ファースト・タイプⅡも同じ金型で、つまり、初期型もファーストもファースト・タイプⅡも同じ金型で作っているということです。ファーストとファースト・タイプⅡとでは、ウェイトの数が違うんですけどね。ウェイトの数が違っても対応できているのは、金型を起こす時点で、こういう構想があったからなんです。

2002年、初期型蝦夷の開発時から、すでにヘビーシンキングの構想も含めたウェイトルームが設けられていた。写真は空のウェイトルームと、そこへファースト・タイプⅡ用にウェイトが詰められた状態

──つまり、初期型を出す時点で、すでにヘビーシンキングミノーを考えていたので、2002年の段階から、現在のファースト・タイプⅡ用のウェイトルームを既に作ってあったということですか?

伊藤:そうです。初期型でもファーストでも空いていたウェイトルームが、やっとこのファースト・タイプⅡで使われることになりました。

──最初から考えられていたファースト・タイプⅡよりも、ファーストじゃない方のタイプⅡ、つまり「蝦夷50SタイプⅡ」が先に発売になったのはどうしてですか?

伊藤:イトウクラフトでは、2002年からアップストリーム用のルアーとして、初期型を売り出したんですが、当時はダウンクロスとか、サイドとかの釣りをする人が多くて、初期型は使いにくいというユーザーの声が強かったんです。それで、蝦夷を初期型からダウンクロスなどでも使える汎用性の高い、今の「蝦夷50S」にモデルチェンジしたんです。その流れで、「蝦夷50SタイプⅡ」の方が先に発売されることになりました。

──このタイミングでファーストのヘビーシンキングを発売したのは、一般ユーザーの釣りに、以前よりアップストリームの釣りが多くなってきたということでしょうか。

伊藤:比率とかそういうことは分かりませんけど、増えているとは思います。その影響で、ファーストも2002年当時の初期型よりは支持されているのではないかと思っています。もちろん、ダウンクロスの釣りとアップの釣りと、どちらがいいとか、そういうことではありません。釣りには種類があって、それぞれに適したルアーがある。そして売れ行きを見ていると、2002年よりはアップストリームのルアーを使う人が増えたなというのが私の印象です。

──ファースト・タイプⅡのスペックを教えてください。

伊藤:5センチで、4.4gです。ファーストが3.7gだから、0.7g重いことになります。

──では、根本的な質問を伺いますが、こういったヘビーシンキングミノーというのは、どうして必要なのでしょう。何がアドバンテージでしょう。

伊藤:まずは飛距離がありますね。10年前より魚がスレてきているから、遠くから狙った方がいい。だから飛距離が出るというのは圧倒的に有利な点です。それから、ユーザーもより飛距離の出るものを望んでいる気がするんです。ミノーの飛距離と泳ぎというのは、基本的には反する関係にあって、飛距離が出るような設定にすれば、その分泳ぎがおとなしくなってしまうし、その逆もある。片方をできるだけ消さないようにしながらもう一方を伸ばすというのも技術だったり経験であったりするんだけど、基本的には反対のことなわけです。だから、なんていうかな……イメージとして、飛距離と動きの総量を20としてね、飛距離10、泳ぎ10というのを基本線としたときに、私の個人的な好みでいえば、飛距離を多少犠牲にしても泳ぎをより重視したい、数値で言えば、飛距離7に対して、泳ぎ13みたいなね。ところが、現在の市場の要求は、飛距離13に、泳ぎ7ぐらいなんじゃないかなと思うんです。

──確かに、僕のような中の下程度のレベルのルアーマンには、ルアーの泳ぎよりも飛距離の方が使って分かりやすい要素ではあります。

伊藤:もちろん、単純な飛距離という以外にも、ウェイトがあるということはライナーでボサの下に入れるときにも有利だし、フォールスピードが速いと、魚がいると仮定したタナまでルアーを落とし込む時間が短くなるので、その点でも有利になります。

──蝦夷50SタイプⅡは5gですが、このファースト・タイプⅡは4.4g。同じヘビーシンキングで比較すると、ちょっと軽いですね。

伊藤:ファースト・タイプⅡはファーストと全く同じリップを使っているんですが、同じリップで、これが4.6gとか4.7gあったら、ルアーの泳ぎがだいぶ抑えられてしまうんです。もしその重量で泳ぎを出そうと考えたら、リップを長くするとか幅広にするとか、いずれ大きめにしなければならない。そうなると、抵抗が強くて泳ぎの切れが悪くなるんです。それにリップの抵抗で飛距離も落ちてしまいます。だから、泳ぎの切れ、飛距離などを考えると、同じリップで4.4gというのが、私の考えたベストバランスなんです。

──飛距離という点で、本流でも大きな武器となりそうですが。

伊藤:それは大きいですね。本流の太い流れにすっと入ってくれて、誘えるというのは本当に有利で、このルアーが今年の本流でのいいヤマメの釣果を支えてくれています。小さな渓流ではファーストに譲る状況もありますが、本流から渓流域まで活躍できるルアーに仕上がっていますし、飛び、泳ぎ、レスポンス性能と、完璧にバランスのとれた待望のミノーだと思います。ただ、どんなルアーでもアイ調整によって、泳ぎ、そして釣果は違ってくるわけですけど、特にこのミノーは、しっかりとトゥルーチューンをすることで圧倒的なポテンシャルを引き出すことができますね。

──このルアーの発売によって、渓流のヘビーシンキングミノーが2つになったわけですけど、ファースト・タイプⅡと蝦夷50SタイプⅡはどう違うのでしょう。

伊藤:飛距離はファースト・タイプⅡの方が出ますね。

──えっ? 蝦夷50SタイプⅡじゃなくて?

伊藤:単純な重量で言えば軽いけど、ボディやリップの形状、ウェイト位置などのバランスによって、ファースト・タイプⅡの方が飛距離は出ます。それと、蝦夷50SタイプⅡはやはりサイドとかダウンにも強い泳ぎ、汎用性の高いものを想定しているので、アップでの使い勝手ではファースト・タイプⅡになりますね。泳ぎに関して言えば、蝦夷50SタイプⅡの方は細かい動きが得意。キラキラキラキラっていう連続した細かい動きです。それに対してファースト・タイプⅡは、ひとつの動きが大きく、ギラッ、ギラッていう感じですね。言葉で表現するのは難しいですけど(笑)。大まかに言うと蝦夷50SタイプⅡは、すぐには怒らない魚を、何度も鼻っ面を通して焦らして釣るようなときに有効で、ファースト・タイプⅡの泳ぎは、比較的ヤル気のある魚に一発で口を使わせるようなときに効果的。もちろん状況によって違ってもくるし、もっと複雑な話になるケースもたくさんあるんだけど、いずれにせよその魚の性質にマッチしたアクションを演出するということは、すごく大事なことだよ。

 イトウクラフトの渓流用ヘビーシンキングミノーとしては、蝦夷50SタイプⅡに続いて2作目、5cmの渓流用ミノーとしては、バルサモデルや山夷も含めて、8作目となる。僕らユーザーにとって選択肢が増えたのは喜ばしいことだが、まずは使ってみて、その性能を確かめ、他のルアーとの差別化をすることがこのルアーを使いこなすための第一歩になるだろう。

 時間をかけて使い比べてみれば、ファースト・タイプⅡのアップストリームでの使いやすさ、魚の反応の良さに、きっと驚くに違いない。中の下の僕にも、ドカンといい魚が出て、その実力に驚愕したいものである。