イトウクラフト

TO KNOW CRAFTSMANSHIP

CRAFTSMANSHIP

TUNE-UP

Published on 2012/12/01

カーディナルを、
真の渓流スペシャルに
PART-Ⅱ

軽量化の狙い

 渓流のルアーフィッシングそのものが現在ほど広く認知されていなかった時代から、伊藤にとってまさしく相棒となり続けてきたリールが、ABUカーディナルだ。

 そして前回の記事でお伝えした通り、カーディナルを使う利点はそのままに、ロッドを含めたタックル全体の機能性をより高めるために伊藤が着手したのが「軽量化カスタムパーツ」である。

 まず数字の面で言うと、いま手元にあるカーディナル3で量ってみると今回発売されるカスタムパーツに換装することで、約20グラムの軽量化が実現している。

 では、僕らカーディナルユーザーが最も気になるところ、いつも使っているカーディナルが約20グラム軽くなることによってどんなメリットを得ることができるのか?

 きっとリールに興味を持つ人なら、20グラムという数字の「大きさ」に気づくだろう。

 伊藤はそのメリットとして真っ先に、キャスティング性能の向上を挙げた。

 渓流のルアーフィッシングにおけるキャストとは、改めて言うまでもなく釣果や釣りの楽しさを大きく左右する重要な要素だ。他のジャンルの釣りと比べてみても、これほど手数の多さ、手返しの速さを追求する釣りは類を見ない。もちろんその上で、精度や飛距離、そしてまた様々なシチュエーションに応じてあらゆる角度からロッドを振る自在性がシビアに求められる。

 だからこそ、カーディナルの軽量化がキャスティング性能に非常に有効に働くのだと伊藤は言い切る。


カスタムパーツ第一弾のセット内容。写真下)サイドプレート・スクリューに付属するスペーサーは、カーディナルの年式によるボディ厚の差を調節するためのもの

エキスパートカスタムのキャスト性能をより自在に引き出す

 

リリースの瞬間、グリップを一気に止めることでキャスティングパワーを爆発させる。カーディナルの軽量化によって、EXCのキャスティング性能がより引き出しやすくなる

 伊藤のキャストと言えば動画を見ても分かるように、コンパクトなモーションから繰り出す初速の速いライナーキャストである。主に手首だけを使った小さな振りで、ロッドのしなりと反発力を自在に引き出しルアーを飛ばす。エキスパートカスタムのファーストテーパーおよび40 t 超高弾性カーボンが内包する強靭なトルクを、十二分に利用して驚異的な飛距離を稼いでいる。渓流ルアーマンのマスターすべき、現場で磨かれたキャストだ。

 伊藤はこう言う。

「間違いなくカーディナルの軽量化によって、ロッドが持つマックスパワーのキャスティング性能を引き出しやすくなった。これは通常のカーディナルの重さが体に染みついている人なら誰もが実感すると思う。リールというのはロッドグリップのように手のひらの中に感じる重さとはまた違って、手から離れた所で重さや遠心力が働くから、余計に重量の違いがキャストに影響しやすいんだ」

 具体的に、どんな違いが実感できるのだろう?

「まずブランクを曲げるための振りが、より速くなる。そしてそこで溜め込んだトルクを、リリースの瞬間にビタッとグリップを止めることで一気に放出する。初速のあるキャストで飛距離を稼ぐためには、この『曲げ』と『止め』が大事なんだよ。強い反発力を生み出すためにブランクをバットから曲げて、なお且つグリップを一瞬で止めることができるから、一気に反対方向へ強烈な『G』が働く。その結果、ズバ抜けた飛距離が出せるんだ。カーディナルの軽量化によってそれが格段にやりやすくなった」

 何となくの考えでは、初速が速くなる分、リリースのタイミングが取りづらくてコントロールが難しくなるんじゃないか?と思ってしまうけれど、それは違うと伊藤はキッパリ言う。

「今回の軽量化で自分が一番感じたことは、ブランクのしなりがより明確に手元に伝わって、しっかりトラクションが掛かるということ。だから、リリースポイントがすごく掴みやすい。リリースする瞬間のグリップの『止め』も今まで以上にきちんと決まるから、ピンスポットへのコントロール性がより高まる。本当にキャストがラクに決まるよ。バックキャストが苦手だった人も、これでずいぶん決まるようになると思う。一度この軽量化パーツを組んで使ったら、もうノーマルスペックのカーディナルには後戻りできないね」

 キャスティング技術の向上には、どうしても時間と人それぞれのセンスが関わってくるが、道具の進化が、一歩二歩先の世界へ僕らを導いてくれる。

 当然軽量化により、ノーマルのカーディナルに比べ疲労感も軽減されると言う。

「一連の動作がより軽快になってラクになるから、これまで以上に魚との駆け引きに意識を集中させることができる。ヒットした魚の動きもより明確に伝わる。メリットが大きくて、デメリットは何ひとつない。いいことづくめだよ。…そう言えば、いつも薬指のところにできてるタコが今年はなくなったな(笑)。それも体への負担が軽くなった証拠だよね」

 カーディナルの必要性は微塵も変わらない。渓流を釣るための道具として、カーディナルは現代のリールが失ってしまった唯一無二のパフォーマンスを有している。

 軽量化カスタムパーツの登場によって、そのカーディナルの性能がさらに生かされる。渓流のルアーフィッシングがもっと楽しくなり、そしてカーディナルがもっと好きになるはずだ。

「例えば、初めてエキスパートカスタムを使いこなせた時に、そのキャスティング性能にみんなビックリしたと思う。その時の感動が、同じロッドを使ってまた味わえる。それくらいのメリットがこの軽量化パーツにはあるんだ。ぜひ一枚上の釣りを体感して欲しいね」

(次回パートⅢでは、各パーツの詳細や製作にまつわるお話を掲載予定です)