イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2011/12/30

WOOD85がもたらしたもの

2011年6月1日、秋田県
文と写真=佐藤英喜

 2011年は、ついに完成したWOOD85によってサクラマス釣りが大きく進化した年だ。

 伊藤大祐も、フィールドでそれを強く実感したシーズンだった。何より釣りの「楽しさ」が劇的に変わったと言う。

「本当に渓流釣りの感覚でマス釣りが楽しめるようになったよね。今までとは比べものにならないレベルで、ミノーをきめ細かく、点で操作してサクラマスを緻密に誘えるようになった。WOOD85を渓流ミノーに例えると、蝦夷50S 1stタイプⅡとバルサ蝦夷を融合させた感じだから、渓流釣りにハマってる人ならきっとこの楽しさが分かると思う。ひと口にヒラ打ちと言っても、泳ぎの振り幅やテンポによって、いろんな泳ぎを自在に演出できる。しっかり水を噛みながらも引き抵抗はそれほど強くなくて、水を切りつつスムーズにヒラを打ってる様子が手元に伝わってくる。ウォブとロールの絶妙なバランスだよね。ミノーの泳ぎが視界に入ると、その1m後ろにマスがいるんじゃないかっていう気になるし、これだけレスポンスがいいと泳がせてるだけで楽しい」

 では、泳ぎと同様に重要視される飛距離についてはどうだろう。

「キャストする時に、固定重心のミノーだからこそ余計に意識してることがあって、それはロッドのバットまできちんと乗せて、ブランクの反発力を十分に引き出してあげること。ベリーに乗せただけのキャストとはやっぱり飛距離が全然違うからね。バットにしっかりパワーを溜め込んで投げれば、とんでもなく飛ぶ。当然スプーンよりは飛ばないけど、9cmクラスのプラスチックより飛距離を稼げる。固定重心の、しかもウッド製ミノーで、重心移動のプラを凌ぐこの飛距離はスゴイと思う」
 

 6月1日、秋田サクラマス解禁日。

 朝一、WOOD85の14gをスナップにセットした。

 狙いを付けたのはとある深瀬。流芯は対岸のキワを走っている。解禁日のヒリヒリとした緊張感に包まれながら、その流芯目がけWOOD85をフルキャストした。

 着水後はあまりフォールさせずにリトリーブを始め、ヒラ打ちは小刻みに、ミノーの振り幅を抑え気味にしたナチュラルな泳ぎを演出。この時彼が意図したのは、いいポイントだけに一本で終わらせないこと。そのために最初はあえてアピール力を控え目にしたのだった。

 一本目はすぐに来た。1年振りに味わうサクラマスの引きを楽しみながらも、ポイントを荒らさないように手早く取り込む。ちょっと小振りだが、とりあえずサクラマスと出会えたことに安堵し、フッと心が軽くなった。サイズに関わらず、やはりこの魚との出会いはいつだって特別な瞬間なのだ。


 ポイントの選択は間違っていない。きっとまだいるはずだ。それに今日は解禁日である。さらに期待に胸を膨らませ、二本目を狙う。これぞ本流の王者といった風格ある一本が欲しい。

 ルアーは同じWOOD85の14gだが、今度はアップクロスにキャストし、対岸のキワに沿ってドリフトさせながらのヒラ打ちで誘った。さっきよりもミノーの背中を大きく倒す、アピール力の強いハードなヒラ打ちだ。低重心で、なお且つボディの背中に大きな浮力を持つミノーだからこそ、綺麗に姿勢を保ちながらドリフトでヒラを打たせることができる。

 ミノーをドリフトさせた先に、ぽつんとテトラが沈んでいた。平水時は水面のヨレにも表れていない沈みテトラだが、実はこれがこのポイントの核心のひとつで、前年の渇水時、偶然そのテトラの存在を知ってからずっと気になっていたのだ。

 ヒラ打ちの間隔を広めに取りながらWOOD85を沈みテトラまで送り込み、ちょうどテトラをかすめる辺りで突然、切り返しの速いヒラ打ちに移行した。ドリフトを止め、ミノーをその場に留めるようにして激しくぎらつかせる。

「ヒットしたのは、その10投目位だね。『ガッ!グォンッ!』と一本目とは全く違うアタリだった」

 一本目のやり取りで若干魚が警戒していたことも考えられるし、解禁日でも口を使いづらいサクラマスは確かにいる。そんな魚の本能にもスイッチを入れる確率の高いルアーがWOOD85だ。

 腰を軸にして、全身の瞬発的なバネでアワセを入れる。体が自然に反応し、一発でフッキングを決めた。

 ロッドにグンッ、グンッ、グンッと何度も魚の力強いトルクが伝わる。明らかに60オーバーの重みだ。やっぱりいたか!という喜びと、本当にいたのかという気持ち、いろいろな感情がぶわっと一気に湧き起こる、この瞬間がたまらないのだ。心臓は久しぶりのバクバク状態。「あははははっ。これこれ。やっばいねえ~!」と独り言が出る。やり取りに集中しながらも、ロッドのしなりを見てはつい顔がニヤけてしまう。無事ランディングしてこその魚だけれど、ネットにすくってしまうのも何だか悲しいくらい、そのサクラマスのファイトに魅了されていた。

 1秒でも長くこの引きを味わっていたい。けれど、早く魚を見たい。

「このマスをランディングした瞬間、小さくガッツポーズしちゃった(笑)。マスの表情、瞳を見てるとさ、逞しい野生の力を感じる。危険に溢れた自然環境の中で、数々の勝負に勝ってここまでやって来たっていうね。先を見つめてるような険しい表情に、すごく魅力を感じるんだよね。自分も野生に帰れそうな気持ちになってくる。やっぱりマスは最高だね」



【付記】
WOOD85がもたらしたマス釣りの楽しさは、まさに革命的なものだと思います。僕なんかは、ギラギラとヒラを打つWOOD85を見てると、何だか釣りが突然上手くなったような錯覚に陥るほどでこんなサクラマスミノーは初めてです。来る2012年もきっと各地で活躍することでしょうし、WOOD85に続くウッド製ミノーの新たな展開も密かに楽しみにしています。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC820MX/ITO.CRAFT
REEL LUVIAS 2500 /DAIWA
LINE Super Trout Advance Big Trout 12Lb/VARIVAS
LURE Wood 85・14g[YMP]/ITO.CRAFT

ANGLER


伊藤 大祐 Daisuke Ito


イトウクラフト スタッフ

1982年岩手県生まれ、岩手県在住。幼少期から渓流の釣りに触れる。「釣りキチ三平」の影響も大きく、エサ釣り、テンカラ、フライ、バス釣りなど様々な釣りを経験する。工業デザインやCGを学んだあと、デザイン会社での経験を経てイトウクラフトに入社。自社製品の製作を手掛けるかたわら、商品開発/試作/テスト/ウェブ/各種パッケージ/広告/カタログ/などのデザインも行なっている。