イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2010/03/29

40ヤマメと、
渓流ロッドの長さについて

2009年8月28日、岩手県
アングラー=伊藤 秀輝
文と写真=佐藤 英喜

夏の終わり、地元の雫石川水系で伊藤秀輝が釣り上げたスーパーヤマメ。銀のボディに青いパーマークをしっかり浮かべ、すっと鼻の尖ったその雄のヤマメは、メジャーをあてると43cmもあった。昨年8月28日、朝6時30分頃のできごと。

『朝マズメの一撃』


―― このときは仕事前の朝駆けでした。確かこの一週間くらい前に、同じ区間で尺クラスの太いヤマメを2本掛けたんですよね。


伊藤 「うん。本流差しのヤマメでさ、これはいいヤツが差してきてるなと。そう考えたら無性に釣りがしたくなって、で、あの朝にまた行ったんだよね」


―― 43cmが出たポイントは、深さも長さもある、でっかい淵でした。ルアーはリリース前の蝦夷50ファースト・タイプⅡ。カラーリングなんかはまだ本物じゃないプロトモデルですね。


伊藤 「そう。4投目かな、流芯が切れる辺りで魚が反転するのが見えたんだよ。完全にルアーを追った。しかも、でかい。これは、Uターンされたらもうダメかもって瞬間的に思ったね」


―― 伊藤さんの場合、もっと規模の小さい渓流だと、チェイスしたヤマメをいったん元の着き場に意図的に戻したりもしますよね。


伊藤 「不利な状況で掛けるよりは、もう一回攻め直した方がいいときもあるからね。これはもう、とっさの判断。このときはタナも深いし、流芯まで距離があるし、いったん帰してしまったらもう一回魚に火をつけるのは難しい状況だったんだよ。簡単に言って狙いづらくなる。だから、誘いを一段シフトアップして、ヤマメのテンションをさらに高めてやって追わせたわけ。ヒラ打ちでね。タイプⅡ! 頑張るぞーってさ(笑)」


―― そういう瞬間って、やっぱり理屈じゃなく、直感で判断する部分も大きいわけですよね。このへんが難しいというかスリリングというか。


伊藤 「イチかバチかのときもあるけど、直感の占める割合はかなり大きいと思う。意識より先に体が動くようじゃないと、生きた魚の動きには到底対応できないもの」


―― 結局はそのチェイスをバイトに持ち込みました。で、そのあとがスゴかったです。


伊藤 「とにかく引いたね、このヤマメは。ホント引いた。中層からなかなか浮いてこなかったもんな。ゴンっ、ゴンっ、ゴンって首振ってね」


―― 尾ビレがすごく大きかったですね。


伊藤 「ヤマメの系統にもよるんだけど、あれはやっぱり、押しの強い流れのなかを泳ぎ回ってエサを食ってたんだろうね。それであそこまで発達したんだと思う」

『ゴーイチとゴーロク』


―― さて、ロッドについてですけど、今回は5フィート6インチを使いました。伊藤さん的に渓流での使用頻度が高いゴーイチとの違い、センチにして約13cmの違い。これはぜんぜん違います?


伊藤 「まずキャストに関して言うと、同じカスタムで、マックスまでブランクを曲げてフルキャストした場合、ゴーイチの方が感覚的に1.3~1.5倍はリリースのタイミングが難しいと思う。ゴーロクの方が、バックスイングからのティップの返りがゆっくりな分、タイミングがつかみやすいよね。ルアーの飛距離についても、性能をきっちり引き出せばゴーロクの方が飛ぶよ。ゴーイチと比べて、溜めの利くセクションを長く設計してるし、全体の長さを支えるためにボトムも強くしてあるから」


―― 水中のルアーに対する操作性はどうですか?


伊藤 「言うまでもなくゴーイチが上。誘いの微妙なニュアンスを表現しやすいし、その展開も速い。瞬間瞬間に応じて、より機敏にルアーを操作できるよね。狭い空間での取り回しの良さも大きなメリットだし、山岳渓流のアップストリームに使うなら、やっぱりゴーイチ。ショートになるほどいろんな意味でピーキーになるのも事実なんだけど、欠点をカバーしつつ長所を引き出す面白さも、自分的には大きいかな」


―― ゴーロクでは誘えない、ということじゃないですよね(笑)。今回の釣行でも、ゴーロクのロッドですごくキビキビとミノーにヒラを打たせてました。


伊藤 「ゴーイチと比べたら機敏性には劣るけどね、ちゃんと誘えるよ。それに、その機敏性の差に多少は目をつむれる状況であれば、今度はゴーロクのメリットが出てくる。ブッシュの少ない開けた渓相で、川幅も水量もそこそこある所で、サイドとかダウンクロスの釣りを展開するならゴーロクだと思う。溜めが利く分、釣りの流れに余裕が生まれるよね。ストロークが長いだけ当然、岩とか手前の流れをかわすのにも有利だし、ライン処理も楽。重いルアーをキャストするときも、綺麗な弾道で飛ばしやすい」


―― やはりそれぞれに長所と短所があって、どっちの長所が自分にとって重要なのか、ということですね。他にゴーロクのメリットはあります?


伊藤 「何と言っても、魚を掛けてからの安心感だよね。これはぜんっぜん違う。掛けた魚がバレるというのは、魚が暴れたときにできるラインテンションの緩みが大きな原因になるわけだけど、ゴーロクはストロークが長い分、ロッドがしなってそのテンションを保ってくれる幅が広い。最近はプレッシャーのせいで、テールフックをちょんとつつくようなアタックが多いからさ、完璧に食わせたつもりでもバレることがあるでしょ。そういうシビアなバイトに対しても、溜めの利くゴーロクは安心。特に40cmクラスのスーパーヤマメなんて、そのアタックは千載一遇のチャンスなわけだし、最後の最後でミスはしたくないよね。ゴーイチだと、テンションを緩めないように注意する余り、ラインを張り過ぎてしまってそれが口切れにつながったり、浅掛かりだったらフックが伸びたり、ということにもなりかねない。例えばゴーイチを使って、バラシが1割程度の人だったら、ゴーロクを使えばほぼ100%獲れると思う。それくらいのアドバンテージがゴーロクにはあるんだよ」


―― 確かに、ゴーイチでのやり取りは、微妙なテンションを保つためにロッドの操作とかリーリングで細かく補っているのが見ていても分かりますね。ゴーロクを使った今回は、あのサイズの魚がガンガン暴れてるのに、やり取りは安定しているというか、まったく危なげなかったです。もう獲ったも同然って顔でやり取りしてましたよ(笑)。


伊藤 「じっさいバレる気はしなかったもの(笑)。ロッドが溜めてくれる分、余裕ができるからね。強い魚だったけど、それをじっくり楽しめるっていうのがゴーロクのいいところだと思う」

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC560ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3/ABU
LINE Super Trout Advanced VEP 5Lb/VARIVAS
LURE Emidhi 50S 1st Type-Ⅱ proto model/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck /ITO.CRAFT

ANGLER


伊藤 秀輝 Hideki Ito


1959年岩手県生まれ、岩手県在住。「ルアーフリーク」「トラウティスト」などのトラウト雑誌を通じてルアーフィッシングの可能性を提案してきたルアーアングラー。サクラマスや本流のスーパーヤマメを狙う釣りも好むが、自身の釣りの核をなしているのは山岳渓流のヤマメ釣りで、野性の美しさを凝縮した在来の渓流魚と、それを育んだ東北の厳しい自然に魅せられている。魚だけでなく、山菜やキノコ、高山植物など山の事情全般に詳しい。
2023年12月6日、逝去。享年65歳。