FROM FIELD
伊藤 大祐
FIELDISM
Published on 2017/04/21
間 -MA-
文=佐藤英喜
【構想】
ここ数年、伊藤大祐の釣りは、絶えず計画の進行している様々なニューアイテムのテストがその大きな目的となっている。
写真のヤマメもそのひとつ、新型バルサミノーのプロトで釣り上げられた魚だ。いい魚を釣るために優れた道具を作る。そして、いいモノを作るために魚を釣る。釣りとモノ作り、理由と結果が、相変わらずここでは正しく循環している。
この新型の構想はだいぶ以前からあって、少なくともボウイ50Sの開発が大詰めを迎えていた2010年のシーズンにはすでに大祐の頭の中にあったのだが、時間的な制限などにより本格的なテストはボウイ50Sの発売後となった。
世の中にない新しいモノを作る。あくまで自分の釣りと経験と知恵から生み出す、という揺るぎない流儀に従って今回のバルサミノーも実直に開発が進められてきた。
渓流用のバルサミノーと言えば、ボウイ50Sがあるし、また現在は製作していないがバルサ蝦夷もとてつもない釣果を上げてきたミノーだ。それら既存モデルと比較して、性能バランスをどう調整するか? 新たなバルサミノーの開発に際しては言うまでもなくその点が大きなテーマとなった。
それは、使い手となる多くの釣り人達にとって、安心感のある、分かりやすい違いでなければいけないと大祐は考えていた。
【既存モデルとの違い】
「いろんな性能のバリエーションが候補にあったけれど、自分自身が使いたいものに固執するのではなく、みんなが安心して使いやすいもの、渓流釣りをより楽しくするものを作りたかった。ボウイ50Sを作った時も、ウエイトのひとつを1mm前進させるかバックさせるかで最後まで悩んで、当然どちらにもメリットはあったわけだけど、最終的には、泳ぎの性能を保ったまま飛距離とコントロール性能、そして様々な川での使いやすさを優先して、そのウエイトはバックさせたんだよね」
では、新型バルサミノーは既存モデルと具体的にどんな違いがあるのだろう。
「簡単に言っちゃうと、ボウイ50Sは渓流釣りを体で感覚的に覚えやすいミノー。インジェクションミノーと比べれば、ラクに左右交互にヒラを打たせることができる。その経験がインジェクションの釣りにも生きる。ヒラ打ちの操作を理解しやすいのがボウイ50S。一方でバルサ蝦夷は、『間』を作るのが上手いミノー。動きのキレやトゥイッチのしやすさではボウイ50Sに劣るものの、どうぞっていう感じで魚に食わせやすい。ただ、渋い魚にスイッチを入れるまでに、多少技術が必要になる面もある。新型は、それらのいい所を併せ持ったバランス」
ヒラ打ちの連打、そのスピードに特化したボウイ50S。
食わせる『間』に特長があるバルサ蝦夷。
今回のニューモデルは言わばその中間。つまり渓魚を誘う楽しさと、食わせる瞬間の『間』の楽しさを共存させているのだ。
【『間』にこだわる】
例を示そう。
写真のヤマメと出会った川は小渓流。水害の影響が心配で数年振りに様子を見に行ってみたのだが、ゴルジュそのものを除いてはやはり渓相は変わったし、釣り始めてみると魚の数も明らかに少なくなった。しかし、幸いヤマメの系統は変わっていなかった。もともと綺麗すぎる川でエサが少ないため、太い魚はめったにいない川だが、ヤマメの魚体はすこぶる美しく、野性味に溢れた個体が目を引く。
ポイントは水深15~20cm程度の浅い瀬。オールマイティなボウイ50Sと言えども、ここでショートインパクトのヒラ打ちを連続させながらレンジをキープし、なおかつ魚に食わせる『間』を作るには、ラインスラックの調整など釣りがやや忙しくなる。操作がシビアになり、神経を使わざるを得ない。
「こういう状況で、その集中力を魚に向けたい。もっとも重要な魚との駆け引きにより余裕を持たせて、『間』を大切にしたい。ひと口に『間』と言っても、単にルアーを止めた『死に体』ではなく、例えばヒラ打ちからの立ち上がり、ウォブからヒラ打ちに移行する瞬間、そこの繋ぎに、不自然じゃない生命感のある連動した『間』が欲しい」
そのために作った新型バルサミノーのプロトをラインの先に結ぶ。
瀬には岩がゴロゴロと散在し、ポイントだけを見ればそこかしこにヤマメが着いていそうだが、より大型の個体が居着きそうな筋を先に狙っていく。まあサイズ的には川の規模が小渓流なので、8寸メインで9寸が出れば上出来。と、この日も思っていたのだが、このときはなんと、優に尺を超えた魚影が中途半端なスピード感でチェイスしてきた。パーマークをくっきりと浮かべたヤマメだ。けれど、食わない。すっと踵をかえして戻って行った。
「警戒せずにまったく同じ位置に戻ってくれれば、釣れる可能性の高い魚だけど、このヤマメは元いた流れの芯より少し奥に、対岸寄りに戻った」
戻って行く挙動にも、何かにやや警戒したような雰囲気があった。
再度アップクロスの角度でヤマメがいるだろう位置にミノーを送り込むと、さっきのヤマメがわずかに反応した。
それを見て、一拍だけヒラ打ちを止めた。
さらにヤマメは、残り15cmまでスッと間合いを詰める。その『間』でそのまま食う魚もいるが、スレ具合を見てこのときは見切られると釣り人が察知した。
そこから左右に1回ずつヒラを打たせ、また一瞬止めると、ヤマメは一気に興奮を高めた動きでプロトミノーのテールフックをかじったのだった。
こうすれば釣れる、というパターンはない。あくまでケースバイケース。警戒心と好奇心、見切るか食うか、その一瞬の駆け引きに渓流釣りの楽しさが凝縮している。これが何度体験しても面白くて仕方ないのだ。
ふーーっと大きく息をつく釣り人のネットには、野生の美しさを身にまとった35cmもある素晴らしい雄ヤマメが収まっていた。
「このヤマメを釣って、新しいミノーの道筋がハッキリと見えてきた。『間』の大事さと楽しさを改めてヤマメに教えられたね」
新型バルサミノーの詳細はまた追って紹介したい。乞うご期待。
TACKLE DATA
ROD | Expert Custom EXC510UL/ITO.CRAFT |
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REEL | Cardinal 33/ABU |
TUNE UP | Mountain Custom CX /ITO.CRAFT |
LINE | 832 Advanced Super Line 0.4/SUFIX |
LEADER | Grand Max FX 1.2/SEAGUAR |
LURE | Bowie 42S[Prototype]/ITO.CRAFT |
LANDING NET | North Buck/ITO.CRAFT |
ANGLER
伊藤 大祐 Daisuke Ito
イトウクラフト スタッフ
1982年岩手県生まれ、岩手県在住。幼少期から渓流の釣りに触れる。「釣りキチ三平」の影響も大きく、エサ釣り、テンカラ、フライ、バス釣りなど様々な釣りを経験する。工業デザインやCGを学んだあと、デザイン会社での経験を経てイトウクラフトに入社。自社製品の製作を手掛けるかたわら、商品開発/試作/テスト/ウェブ/各種パッケージ/広告/カタログ/などのデザインも行なっている。