FROM FIELD
菊池 久仁彦
FIELDISM
Published on 2010/02/26
鋭敏であること
2009年6月1日、秋田県
アングラー=菊池 久仁彦
写真=山村 佳人
文=佐藤 英喜
6月1日、秋田サクラマス解禁。菊池久仁彦は早朝の阿仁川に立っていた。
菊池が右手に握っていたのは、エキスパートカスタムEXC820MX。どうしてハチニイなのか、まずはその理由を聞いた。
「タックルを選んだり使い分けたりする楽しさはひとまず置いといて、バンバン移動したいとき、少しの時間も惜しいときには、いろんなシチュエーションをフルカバーしてくれるロッドが1本あると、本当に助かる。解禁日は何かと慌しいからね。カスタムのハチニイなら下流から中上流まで幅広く探れるし、ショートリップのミノーを軽快に動かすことも、重い流れでディープを躍らせることも、何でもできる。無理のきくロッドっていうのかな。トルクがあるから、でかい魚を掛けてもこっちがひるむことはない。それでいて、極端な話、6cm台のミノーだって投げられる。じっさいには投げないけどね(笑)」
ハチロク譲りの強靭なバットと、ナナハチ譲りの繊細なティップを、精巧に融合させた結果がエキスパートカスタムのハチニイなのだ。ブランクには他のモデル同様、40t超高弾性カーボンを使用し、アクションはファーストテーパーが特徴のカスタムにあって、ダブルハンドモデルの中ではもっとも調子が先に設定されている。本流のパワフルな釣りにも、中規模河川の機敏な釣りにも、釣り人の意思のままに対応してくれるギリギリのバランスがデザインされている。つまり、エキスパートカスタムのサクラマスロッドを知るなら、まずはこのハチニイなのである。
ロッドについてもう少し触れると、エキスパートカスタムの特徴に関して菊池は、「シャープ」という表現を繰り返し使う。硬いロッドとシャープなロッドは必ずしもイコールじゃない、と言う。具体的にシャープなロッドとは、どんなロッドなのだろう。
「小さなキャストでルアーを遠くに飛ばせるし、ブレもネジレもないから、シビアにコントロールできる。抜けが良くて、戻りが異常に早い。これがカスタムの特長だよね。どんなに曲げても、止まってほしい瞬間にピタッと止まるから、ミノーも自在に操れる。それとカスタムを使ってる人なら分かると思うんだけど、8ft台のモデルでもティップまでの長さがワンランク短く感じる。逆にダルいロッドって、なんか長く感じるでしょ?」
シャープなブランクには、ロングロッドの長さを感じさせない軽快な操作性がある。数少ないアタリを待ちながらミノーをアクションさせ続けるサクラマス釣りでは、このメリットがとても大きいのだ。
前日の下見の結果、菊池は中流域の岩盤地帯を釣り場に選んでいた。
上流から一通り見て回ると、数年前の水害により河川改修が進み、つぶれてしまったポイントも目に付いた。良さげな有名ポイントはすでに釣り人で一杯。それでも長年この阿仁川に通って、川全体を釣り歩いてきた菊池には引き出しが残っている。ここは毎年魚の着く、菊池の好きなポイントのひとつだ。
夜明けと共に釣りを開始したが、朝イチは全くの無反応。釣るべき範囲をひと流しし終えると、空は完全に明るくなっていた。
しかし、こうした岩盤のポイントでは特に、明るくなってからヒットするパターンがよくあるらしい。あらかじめそれが頭に入っているから、ひと流し目は足を止めずに、魚を余計にスレさせないよう意識しつつ菊池は釣りをしていた。
「それに釣り慣れたポイントとはいえ、1年振りだからね。まだ薄暗い時間帯はちょっとした水量の違いでも、ぴったりとは合わせられない。シビアに言うとね。完全に状況が分かる明るさになって、流れの押しや波を見て、釣りを微妙に修正してのふた流し目」
いったん手を休め、近くで釣りをしていた知人と会話をかわし、再びポイントに入ってすぐのこと。菊池のミノーにサクラマスがヒットした。いいサイズだった。菊池はロッドのパワーをフルに活かして力比べをしたが、20Lbのリーダーも岩盤のエッジに触れてはひとたまりもなかった。ラインブレイク。
手早くリーダーを組み直し、釣りを再開。すると間もなく、また別の魚がミノーに反応した。ミノーの向こうに、ギランッギランッと派手なフラッシングが見えた。
「もうヤマメみたいな感じ。あれを見て、こっちもテンション上がった。上がり過ぎた。だって、ほら、1年振りだから(笑)。喰えっ、喰えって、がんがんトゥイッチ掛けたら、手前5m位のところでフッといなくなった。真下に潜ったのか、とにかく戻った位置は見えなかった。これはマズイなと」
もちろん、ここからは冷静だった。その魚に狙いを定め、菊池は誘いを変えた。
やや上流にキャストした山夷95MDを、それまでのU字の軌道ではなく、ほぼ直線的に引いてくるイメージ。U字の釣りよりはリトリーブスピードは速くなるが、ロッド操作で絶妙にルアーを止めながら、喰わせのタイミングを作る。直線的なトレースラインのなかで、岩盤帯の複雑な流れに合わせ、アクションで見せるところは見せて、止めるべきところで止める。
「山夷のMDならそれができる。すでに強いアピールの泳ぎを見せてしまっているから、チェイスする魚の仕草をよく見て、ここ!っていうタイミングでミノーの動きを微妙に抑えた。見えるがゆえの駆け引きだよね。こういう釣りがやっぱり楽しい」
ロッドもシャープだが、釣り人も鋭敏だ。
追わせて、見て、掛ける。その瞬間に最高の興奮が詰まっている。1年振りのサクラマスは58cm。岩盤で切られた魚に比べればサイズは落ちるが、釣り人は心からの満足と共に竿を畳んだ。初夏の日差しのなかゴーイチを手に、気分良く渓流へと向かったのだった。
TACKLE DATA
ROD | Expert Custom EXC820MX/ITO.CRAFT |
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REEL | Certate Hyper Custom 3000/DAIWA |
LINE | Super Trout Advance Max Power PE 1.5/VARIVAS |
LEADER | Shock Leader 20Lb/VARIVAS |
LURE | Yamai 95 MD[YTS]/ITO.CRAFT |
ANGLER
1971年岩手県生まれ、岩手県在住。細流の釣りを得意とする渓流のエキスパート。大抵の釣り人が躊躇するようなボサ川も、正確な技術を武器に軽快に釣り上っていく。以前は釣りのほとんどを山の渓流に費やしてきたが、最近は「渓流のヤマメらしさ」を備えた本流のヤマメを釣ることに情熱を燃やしている。サクラマスの釣りも比較的小規模な川を得意とする。