イトウクラフト

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FIELDISM
Published on 2013/06/18

蝦夷50Sファーストの衝撃

2012年7月初旬
アングラー・写真=小沢勇人
文=佐藤英喜

 初期型の蝦夷50S(現モデル名、蝦夷50Sファースト)が世に出たのは2002年。現在に至るまでの渓流ミノーイングというジャンルの進化は、このミノーによって道筋を付けられたと言っても過言ではない。「アップストリーム」「ヒラ打ち」「シンキングミノー」という現代の渓流ミノーイングには欠かせないキーワードを確固たる根拠のもとに提示し、初期型蝦夷は新たな常識を作り出した。


 当時、初期型蝦夷を地元のアマゴ相手に使ってみた小沢勇人はこう振り返る。


「とにかく、それまで体験したことがないくらい魚が釣れた。魚が釣れる数にただただ驚いたね。正直、これは市販して欲しくないなって(笑)」


 他にはない薄型フラットボディ、その大きなフラッシング面積を最大限に生かしたド派手なヒラ打ちアクションが、渓魚を誘い出すのに非常に有効であることは一発で分かった。


「それまでも自分なりにトゥイッチはしてたけど、蝦夷のようにヒラを打つミノーはなかった。ワンアクションごとの移動距離が短くて、その場でギランッギランッと背中を倒してヒラを打つアクションが、こんなにもアマゴやヤマメに効くのかと、ほんと衝撃だったよ」


 その絶大な効果を小沢はどんどん試したくなり、様々な川に積極的に出掛けた。とあるヤマメの川と出会ったのもその頃である。


 その川のヤマメはもともとの系統によるものなのか、とにかく太く、パワフルな魚体が目立ったのだが、初めての釣行で小沢は、初期型蝦夷を使って38cmのヤマメを釣り上げた。「めちゃくちゃ体高があって、鏡餅みたいだった(笑)」と言うほどインパクトのある極太のヤマメだった。

 それから時が流れ、昨年7月初め、小沢からものすごい太さのヤマメの画像が届いた。すぐに電話で話を聞くと、釣り場は初期型蝦夷で38cmを釣った、あの川だと言う。


 その日のヤマメ達はいつもと違っていた。いつもなら格好の着き場となっている流れの芯は小型が反応するばかりで、良型のヤマメは決まって瀬の肩に着いていたのだ。狙い澄ましてミノーにヒラを打たせると、9寸~泣き尺の驚くほど肥えたヤマメがヒットしてくる。いち早くこのパターンを把握した小沢は胸を躍らせた。ざっと思い浮かべるだけでも大物の出そうな場所があと3ヶ所はこの区間にある。


 釣り上がっていくと、その3ヶ所の内のひとつ、深瀬のいい流れが続くポイントに出た。流芯付近はヤマメ的にちょうどいい押し具合で流れが通っている。その瀬が終わり、ガンガン瀬へと変わる一歩手前の肩の部分を小沢は迷うことなく慎重に狙った。釣り人によってはそこに立ってしまいそうな狭く浅い流れだが、その日の核心部は間違いなく瀬の肩にあった。


 すぐ下流はガンガン瀬になっているので、ルアーを追わせて食わせるのではなく、アップストリームでルアーを魚の目の前に、つまり捕食の範囲内に出来るだけ長く止めながらヒラを打たせて、一気に興奮させる。そのための性能が蝦夷50Sファーストには与えられている。


 ヤマメの着き場をきちんと見極め、そのスポットを完璧なシナリオ通りに小沢は釣った。ファーストにヒットしたのは35cmのヤマメ。筋肉質で背中が盛り上がり、豊富なエサを物語るように胴回りもとてつもない太さをしている。薄くパーマークを浮かべた雄のヤマメだった。

小沢さんが釣った夏ヤマメ、35cm。とにかく体高が素晴らしい

  1. ルアーは渓流アップストリームのスタンダード、蝦夷50Sファースト

  2. 背中が力強く盛り上がっている。魚体の厚みもすごい

7月初旬でこの日焼けだ。ひとかたならぬ情熱を物語っている

「この川らしいヤマメだよね」


 うだるような暑さの中、見事なヤマメがネットに収まった。渓魚を魅了するファーストの性能は、どんどんシビアになっているフィールドで今なお証明され続けている。10年前の衝撃は今も続いている。


「10年前に比べれば、釣り人が増えたり道具が進化したりして魚がすごく賢くなってるわけだけど、それでもやっぱりファーストのヒラ打ちは効果的なんだよ。それだけのポテンシャルがもともと備わってたってことだし、自分にとって言えば、このファーストは渓流アップストリームの原点だね。本当の意味でアップの有効性とか面白さを知ったのはファーストの存在がきっかけだった。きちんと左右交互に綺麗にヒラを打たせられるか、1トレースの中でどれだけ数多くヒラを打たせられるか、そういうルアー操作の基本も、このひとつのミノーから学んだ」


 今は状況によっていろんなルアーを使い分けるけど、とした上で、小沢は蝦夷50Sファーストを「やっぱり一番好きかもしれない」と語る。それほど彼にとっては思い入れの強いミノーであり、決して手放せない勝負ルアーのひとつなのである。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3 /ABU
LINE Super Trout Advance sight edition 5Lb /VARIVAS
LURE Emishi 50S 1st[YMP]/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


小沢 勇人
Hayato Ozawa

イトウクラフト フィールドスタッフ

1965年長野県生まれ、長野県在住。茅野市在住のトラウトアングラー。野性の迫力を感じさせる渓流魚を追って、広大な本流域から小渓流まで、シーズンを通して釣り歩き、毎シーズン素晴らしい魚達との出会いを果たしている。地付きの魚であり、少年時代からの遊び相手であるアマゴに対してのこだわりも強い。