イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2010/04/26

色取月ゆるゆる陸奥紀行
其の二
「天の声を訊き、深山の流れへ……!」

2009年9月某日
岩手の川×うぬまいちろう、伊藤秀輝
文=うぬまいちろう
写真=佐藤英喜

 大都市は大なる孤独の地である……。

 かように唱えた哲学者がいたが、正しくボクは大なる孤独の地で、陸奥の甘き水の流れに、ひたすら思いを馳せていたのである。

 そんなボクがかろうじて乾ききらずにいられたのは、陸奥のアニキこと、伊藤さんが絶え間なく熱きラブコールを送ってくれていたからだ。

 ボクは携帯からの熱きラブコールを聞くたびに、覚醒して興奮し、幾度となく暗き部屋の片隅で仰け反るのである。希望と絶望は表裏一体なのだ。

 果たして何十回、何百回と仰け反ったであろうか。いつものように、

「嗚呼~!」

と叫んでもんどりうつと、ココロの中で誰かの声がしたのである。

「行ってくればぁ……」

「おお! 夢か幻か……、か、神の声がぁ!」

 声の主はよく見ると、神は神でもカミサンであった……。

 山海塾の暗黒舞踊か、はたまたギリヤーク尼崎大先生の念仏じょんがらのように、ボクがあまりにもゴロゴロと仰け反るので、これ以上の乱心は困るということで、見るに見かねて許可が下りたのである。

 よく子供が、オモチャ売り場でゴロゴロしてだだをこねるが、齢(よわい)45にして、あれは効果的なんだなと悟った瞬間であった。

 かくして南船北馬の旅に出ようと思い立ったボクである。陸奥のアニキとの最強コンビ? は、ついに再起動の時を迎えたのである。

 迸る青春の日の思い、胸をざわざわとさせながら、十年一剣(じゅうねんいっけん)を磨く熱き思いの再開は、朝の6時にナナナン川のカカカン橋にて、いよいよ成就されたのである。

「いやいや~、よく来たねぇ、待ってたよぉ~!」

 陸奥の偉大なるアニキはいつ見てもアッパーで鯔背(いなせ)である。

 全身を振るわせて微笑み、相も変わらず素晴らしきオーラを発散しているアニキとしっかりと堅き握手を交わすと、手と手を介し、金枝玉葉(きんしぎょくよう)の熱きハートからコトバにはならない暖かなものが伝わり、ボクは目頭が熱くなるのである。(いっておくが、ボクには特別な趣味はございません……)

 ボクらは6年の歳月がまるでなにもなかったかのように、6年前と同じように朝の脆弱な光が漏れる緑の天幕をくぐり、少し冷たくなった流れに身を任せ、各々ビュン!とキャストを敢行。

「嗚呼……、やっぱりいいっすぅ~♪ むふむふ~♪」

 ただ水に浸かり、キャストを繰り返すだけで、脈絡無く幸せが溢れてくる。思わず笑みがこぼれてしまうボク。

 これが陸奥の甘き流れのマジックなのである。山の木々が育んだ豊かなる水に浸かると、誰でもココロの奥にあるスイッチが起動してこうなるのだ。

「アハアハアハァ~!」

 隣ではアニキが高らかに笑っている。アニキは水に浸かりながらいつもこうやって、決まって高らかに笑うのである。この、

「アハアハアハァ~!」

も、6年前とまったく同じでなにも変わっていない。

 変わってしまったものがあるとしたら、ボクの髪の毛に白いものが目立ってきたことくらいかな……?なんて思ってたら、

「この6年で、川も随分と変わったよぉ~。どこもかしこもヒトがいっぱいになって、ゆるくないねぇ~」

と、アニキがこぼす……。

 う~ん、そうであったか……。いわれてみると川岸のサンドバーはヒトの足跡だらけである。そろそろ漁期も終わりということで、酔狂な御仁達の置きみやげの数は、尋常ではないのだ。というわけで、蛙鳴蝉噪(あめいせんそう)の河原を後に、ボクらは別の流れへ移動することと相成った。

 さて、前を行くのは、3.0L V6ガソリンエンジンを搭載したアニキの愛車である。大柄なボディーであるが、フロント、リアのオーバーハングが極端に短いため、なかなかあなどれない走破性を持っており、山猫の如くしなやかにボディーを振るわせて、細き軽トラ道をしなやかに進んでいく……。

 一方ボクのT-4ウェスティーも負けてはいないのだ。FFなのでもちろん走破性はヨンクに及ばないが、リアのサス・ストロークは下手なヨンクより長く、高いドアシルの位置もあって、トラクションが伝わらない泥や細かな質の砂を除き、意外な走破性能を見せてくれるので、釣りの足としてもなかなか重宝するのだ。

 オーストラリアの熱帯雨林でも、モンゴルの辺境でも、何故かこのクルマをよく見かけた。ワゴンからトラック、そして兵員輸送車と、ボディーの仕様も多く、その汎用性の広さは、まさに偉大なる下駄といったところである。世界中何処へ行っても見かけるのは、この独逸国のT-4と、我が国が誇るトヨタのランクル70(ナナマル)だけなのである。

 なんて我が愛車を溺愛し、自画自賛しているボクなのだが、その異常な愛情と驕り高ぶる気持ちが油断を招いたのか、

「パン!」

という激しい音とともに、間髪を入れず、

「シュゥウウウウウウウウウ~!」

となって、そして座礁した船のように傾いて停止してしまったのである……!


(ぴっ、ピンチ!っつ〜わけで、またしてもITO.CRAFTのコラム初、おサカナの写真無しのまま次回に続く……、再び許せ!&好ご期待!)


 良き釣りと良き旅を……。

 ラヴアンドピース!

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510UL/ITO.CRAFT
REEL Luvias 2000/DAIWA
LINE Applaud Saltmax Type-S 4Lb/SANYO NYLON
LURE Emishi 50S & 50S Type-Ⅱ/ITO.CRAFT

ANGLER


うぬまいちろう Ichiro Unuma


イラストレーター

1964年、神奈川県生まれ。メインワークのイラスト制作のほか、ライター、フォトグラファーとしても各メディアで活躍中。日本各地をゆるゆると旅しながら、車、アウトドア、食、文化風習などをテーマにハッピーなライフスタイルを独自の視点から伝えている。釣りビジョン「トラウトキング」司会進行。モーターマガジン誌の連載「クルマでゆるゆる日本回遊記」では、キャンピングカーで日本一周の旅を敢行中。