イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2013/05/31

自分だから
立てる場所

2012年6月1日、秋田県

アングラー=吉川 勝利
文と写真=佐藤 英喜

 写真で見ても伝わるかもしれないが、実際に向き合ってみると改めて吉川さんは背が高い。185cmもあるのだ。赤川の三段とか、混み合うポイントでもその姿はすぐに発見できる。

 そして彼は、川歩きがとても達者だ。一緒に本流の釣り場へ出掛けると、ディープウェーディングを駆使しながら次々とポイントを叩いていくその背中が、どんどんと遠ざかっていく。ついていくのに何度も冷や汗をかくのだ。

 その身長の高さと川歩きの経験をフルに生かして、他の釣り人が行きたくても辿り着けない立ち位置を彼は平然と確保してしまう。ルアーをキャストする以前の、ポイントに立つというスタート地点からして大きなアドバンテージを有していることは間違いない。

 そんな吉川さんだからこそ釣れる魚が当然いる。

 2012年、秋田解禁で釣ったサクラマスもそうだった。

 多くの釣り人が行き交う解禁日の川は、朝が過ぎるとあっという間にハイプレッシャー河川へと変貌してしまう。だから朝、どのポイントの、どの位置に立つかがとても重要であることは言うまでもなく、そのポイントに辿り着くまでの過程にこそ僕はドラマがあると思う。

 今、ルアーに口を使うサクラマスはどのスポット、どの筋に入っているのか。この短期決戦で毎年コンスタントに結果を出している釣り人は間違いなく、「川を見る目」に長けている。

 川と魚を読む。ポイントを探しながら吉川さんはその推理を純粋に楽しんでいる。

「同じ場所でも、川の流れはその時その時によって違うんだから、マスの着き場だって変わるでしょ。それに水量が前年とほぼ変わらないにしても、その2週間前、3週間前からの推移の仕方でも状況は違ってくる。もちろん、毎年魚の着くポイントもあるにはあるけど、そこにばっかり立つっていうのもそれはそれでつまらないんだよね(笑)」

 解禁日の朝、吉川さんが選んだのは瀬絡みのポイントだった。

「大場所ではないけど、解禁日の秋田であれば十分にマスの着く流れに見えた。それとまあ、解禁の朝でもここなら混雑しないかなっていうのも、この場所を選んだ理由ではあるけど」

 おそらく普通の釣り人からしたら、このポイントには大きな問題が見て取れるに違いない。裏を返せば、それが吉川さんにとっては「混雑しない」と判断できる根拠になっていた。その問題とは、このポイントを釣るためには対岸に渡らなければならないということ。吉川さんだからこそ渡れる押しの強い瀬の流れが、他の釣り人を固く拒んでいたのだ。

 建前なしに、釣りは安全第一である。絶対に無理をしてはいけない。

 しかし、吉川さんは普通の釣り人とはちょっと違う。いや、だいぶ違うのだ。

 彼の上背と川歩きの経験があればこそ可能な選択だった。僕だったら断固お断りの瀬の中を、吉川さんは慎重に、しかし臆することなく一歩一歩進んでいった。

「まず俺ぐらいの身長がなきゃ、ここは渡れないよね。水面の波の微妙な光り方を見ながら、川底の状態や水深を判断して、より安全な所を選んで進んでいく。それも経験さ。ただ、やっぱり無茶をしてはいけないよ。どんなに慣れてる人にとっても、川がとてつもない危険をはらんだ場所であることには変わりないんだから。どんな時でも過信は絶対に禁物」

 瀬を渡り終え、対岸の河原に足を乗せた時、すでに吉川さんの秋田解禁はクライマックスを迎えていた。頭にあるのはヒラを打たせたWOOD85にサクラマスがガツンっとバイトしてくるイメージだけ。だからこそ、このきつい瀬を渡ったのだ。

「トロ瀬になっている部分を30分くらい叩いたところで1本目が来て、で、2本目が釣れたのは、俺からしたら渡れるくらいの水深の瀬。流れの速いさらっとした瀬だけど、ちょうどいい大きさの石が点在してて、それに着いてた。まあ、狙い通りだね(笑)。遡上期のマスと違って、ほぼ単独でポイントに居着いてる個体に関しては、もうヤマメを釣る時とポイントの見立て方は一緒だから」

イトウクラフトのフィールドスタッフ吉川勝利が釣ったサクラマス

2012年の秋田解禁日、吉川さんのネットには2本のサクラマスが収まった

 川を読み、魚の着き場を推理する。釣り師としての経験を集約し、勘を働かせて勝負する。そんなマス釣りを愛する吉川さんの解禁日は、心からの満足と共に幕を閉じたのだった。

イトウクラフトのフィールドスタッフ吉川勝利が釣ったサクラマス【付記】

今回は、吉川さんの身長の高さとそれを生かした川歩きにスポットを当てましたが、何度も言うように、皆さん絶対に無理はしないでください。魚釣りで何よりも優先されるべきは、やはり『安全』です。自分の技量も含め、状況を冷静に判断し、時には退く勇気も大事です。
特に今年の秋田解禁は例年になく水が高いので、いつも以上に安全面へ配慮しながら、とにもかくにも無事に帰宅することを最優先でマス釣りを楽しみましょう。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC780MX/ITO.CRAFT
REEL LUVIAS 2506/DAIWA
LINE Super Trout Advance Big Trout 12Lb/VARIVAS
LURE Wood 85・18g/ITO.CRAFT

ANGLER


吉川 勝利
Katsutoshi Yoshikawa

イトウクラフト フィールドスタッフ

1965年福島県生まれ、福島県在住。生まれ育った福島県浜通りの河川を舞台に、数々の大ヤマメを釣り上げてきたが、東日本大震災および原発問題によりホームリバーを失い、現在は中通りに居住する。サクラマスの経験も長く、黎明期の赤川中流域を開拓した釣り人のひとりである。