イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2012/05/24

渓流のスタンダード

2011年8月下旬

アングラー=菊池 久仁彦
文と写真=佐藤 英喜

濃密なブッシュの奥へ、オレンジ色のラインがきれいに伸びていく

 去年の晩夏、菊池久仁彦と岩手の山間でヤマメ釣りをしていた。


 広葉樹が生い茂り、虫が飛び交う豊かな森の中を川が流れている。人によってはゲンナリするような、しかし出来る人にとっては心躍るオーバーハングがずっと上流まで、えんえんと続いている。


 そんな渓流のややこしいオーバーハング群を、正確に、なおかつ手返しよく攻略していく釣り人のキャストは、決まって弾道が低く、水面とほぼ平行にラインが伸びていく。菊池のキャストももちろんそうだ。頭上にオープンスペースのあるポイントであっても、オーバーヘッドでキャストすることは少なく、サイドハンドやバックハンド、もしくはそれより低い位置からティップを振り抜いてルアーを飛ばしている。そうでなければ物理的に、ハングした枝の奥深くへルアーを投げ入れることはできないし、ラインの弾道が低いほどルアーが着水した直後の糸フケも少ないわけだから、着水と同時に誘いをかけることもできる。また何より、ボサのない開けた場所であってもサイドやバックで投げるのは、単純にオーバーヘッドキャストよりも一回のキャストで消費するカロリーが少なくて済むからだ。ピックアックから次のキャストへ、よりスムーズに移行することもできる。つまり、全てがラクなのだ。


「渓流のルアーフィッシングは一日のキャスト数が極端に多い釣りだから、突き詰めていくと必然的に、そうした無駄のないキャストが自然と身に付いていく。それとね、サイドやバックで低い弾道で投げる理由としては、キャストした時にラインの軌道がしっかりと見えるから、というのも大きい。ショートキャストでは特にこのことが重要で、目標物を目で捉えながら、その視界の中にラインの軌道が収まりやすい。それによってリリースから着水までのわずかな時間をより有効に使うことができる。つまり、ラインコントロールやサミングといった瞬時の操作を余裕をもってこなすことができるんだよ。そして個人的には、ラインの軌道が見やすいというのは、キャスティングの楽しみでもあると思う。オーバーハングの奥にラインがすーっと入っていく様子は、見てるだけでほんと楽しくなるからね。渓流釣りは魚を釣ることももちろん面白いけど、それ以外の部分にもワクワクすることがいっぱいある。だから好き」

 その言葉どおり、見るから楽しそうにキャストを決めていく菊池のこの日の相棒は、EXC510UL。渓流のスタンダードロッドだ。ティップからベリーにかけて張りを持たせ強化した「ULX」とのフィーリングの違いを、菊池にあらためて聞いてみた。


「キャストフィールに関しては、ULの方がティップの返りが遅い分、ルアーのウエイトを乗せやすいから、やっぱりコントロールしやすいよね。リリースポイントを探す余裕がある。ULXはその余裕が少ない分、振り切るのが怖いっていう人もいるんじゃないかな。そういう意味でULは、ブランクの性能を引き出して投げるキャストの基本を、体で覚えるのにも最高のロッドだと思う」


 ルアーの操作性に関してはどうだろう。


「ULはティップの適度なしなやかさが、ルアーの泳ぎに上手く追従してくれるから、ミノーの浮き上がりをオートマチックに抑えてくれる。連続的にトゥイッチしながらミノーのタナをキープするっていうのは、すごく大事なことで、ULはロッド自体がその役割をある程度担ってくれるんだ。必要以上に引っ張り過ぎないから、ルアー本来の泳ぎを引き出しやすい。もちろん、じゃあロッドは軟らかい方がいいのかと言うと、単純にそうじゃないよね。そこがエキスパートカスタムのテーパーの妙でさ、ULであってもベリーは絶妙にシャキッとしてるから、トゥイッチで思い通りにミノーをアクションさせることができる。それに、感度もいい。魚のシビアなアタリ、ミノーの泳ぎをきちんとロッドが伝えてくれる」


 この日は、少し風があった。


 菊池が蝦夷50Sを、細長い淵の先端、絞りの落ち込みを目がけてキャストした。蝦夷50Sは飛距離に関して風の影響が少なく、菊池の言葉を借りれば「何回投げても同じ飛距離が出る」ミノーだ。泳ぎについても、アップ、サイド、ダウンを問わないスタンダードな性能を有している。


「蝦夷50Sはシンキングでありながら、フロート質の強いミノーだから、ルアー任せでもきっちり泳いでくれるし、トゥイッチでのヒラ打ちもレスポンス良くこなしてくれる。瀬も淵も、ラクに探れるよね。自分の場合は、リーリングで泳がせて、おまけ的にトゥイッチを付け足す感じの使い方が多いかな」


 勝負はその1投で決まった。糸フケもなく正確に落ち込みへと届けられたミノーが、着水と同時に泳ぎ始めると、白泡から現れたヤマメが蝦夷50Sのテールフックを一気にくわえこんだ。咄嗟に菊池はスイープ気味に、身体をひねるようにしてアワセを決めた。


「ロッドがULXの時はスパンッ!と瞬間的にアワせるけど、今回はULだから、ティップのしなやかさがフッキングパワーを吸収する分、アワセのストローク幅を長く取って、バットまでしっかりテンションを乗せてフックポイントを深く突き刺す。そしてラインスラックを素早く巻き取ってから、魚とやり取りする。ULとULXとでは、アワセ方が微妙に変わるね」


 菊池のネットには、綺麗な尺ヤマメが収まった。

きりっとした表情、美しい色合い。素晴らしい尺ヤマメが躍り出た

  1. 渓流の尺ヤマメを手に。「疲れも一気に吹き飛ぶね」

「珍しく、あっさり釣れちゃった(笑)。まあ、ルアーの操作とか食わせ方にはいろんなパターンがあって、難しいこともいっぱいあるけど、まずは道具の選択、そしてキャストからの流れをソツなく手順どおりにこなすことが大切なんだよね。それをあらためて感じた一匹だったし、一発できれいに決まって、それまでの疲れが吹き飛ぶ瞬間だったよ」

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510UL/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3/ABU
LINE Super Trout Advance Sight Edition 5Lb/VARIVAS
LURE Emishi 50S/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


菊池 久仁彦
Kunihiko Kikuchi

イトウクラフト フィールドスタッフ

1971年岩手県生まれ、岩手県在住。細流の釣りを得意とする渓流のエキスパート。大抵の釣り人が躊躇するようなボサ川も、正確な技術を武器に軽快に釣り上っていく。以前は釣りのほとんどを山の渓流に費やしてきたが、最近は「渓流のヤマメらしさ」を備えた本流のヤマメを釣ることに情熱を燃やしている。サクラマスの釣りも比較的小規模な川を得意とする。