FROM FIELD
吉川 勝利
FIELDISM
Published on 2012/05/30
深淵の底からヤマメが湧いた理由
2011年9月
アングラー=吉川 勝利
文=佐藤 英喜
振り返ると、蝦夷50Sの初期型が発売されたのは2002年、今からもう10年も前のことだ。2004年に一度姿を消したのち、2008年に蝦夷50Sファーストとして復刻されてから現在に至るまで、このミノーが今なお渓流のヤマメたちを魅了し続ける理由は、一体何だろう。
「これ、すっげえルアーだなあ…」
2002年の発売前、初期型蝦夷のプロトを地元河川で使った吉川さんは、心底驚いた。
「当時は蝦夷みたいに薄くて体高のある、フラッシング面積の大きなミノーはなかったし、何より実際に使った時のアクションが、本当に理にかなってると思った。ヤマメの反応がさ、他のルアーを使った時とまったく違ったからね」
吉川さんのかつてのホームリバー、福島沿岸を流れる高瀬川にはドン深の淵がいくつも連続してあった。そして、大きな口を開けて釣り人を待ち構えるその深淵には、スレッカラシの手強いヤマメがいた。大物の雰囲気を漂わせる渓相は魅力たっぷりだが、それだけに人為的プレッシャーがきつく、そこにいるヤマメたちは強い警戒心を抱いていた。素晴らしい渓相の割に、魚は釣れない、それが高瀬川を訪れた多くの釣り人の率直な感想ではなかっただろうか。
「それが初期型蝦夷を使ったらさ、淵の底から、ヤマメがブワッ、ブワッと湧くように出てきたんだ。とんでもない高活性時は別として、ああいうヤマメの反応は見たことがなかったよ。その日は特別活性が高いわけでもなかったし、他のルアーを使って全然釣れない淵でも、蝦夷を使うとヤマメが出てくる。明らかに、蝦夷の動きにヤマメが興奮してるのがわかった」
その後吉川さんは同じような経験を何度もした。
なぜ、それほどまでにヤマメの反応が変わったのか?
つまりその理由が、初期型蝦夷に与えられた性能にあったのだ。
「初期型蝦夷、今で言うファーストの最大の特徴は、やっぱりあのヒラ打ち、フラッシングだと思うんだけど、アップストリームで『ビラッ、ビラッ、ビラッ』と派手にヒラを打たせることができて、なおかつ、狙ったスポットにルアーを長く置いておけるんだ。大きくヒラを打たせつつ、止めておける。まあ実際には止まってはいないんだけど、ワンアクションごとの移動距離を短く短く抑えられる。感覚的には、ミノーがヒラを打った時に体高のあるフラットボディが水の抵抗を受けることでブレーキが利いてる感じ。だからヤマメの目の前で効果的にルアーをアピールして、じらすことができる。それが、このミノーが多くのヤマメを引き出す一番の理由だよね」
ブレーキの利いたヒラ打ちで、ヤマメの目の前で大きなフラッシングを連発させる。初期型蝦夷のこのアクションが、渓流のヤマメ釣りを大きく進化させたのは言うまでもないけれど、では蝦夷が登場する以前、吉川さんはどんな釣り方をしていたのだろう。
「蝦夷を使い始める前は、ヒラ打ちじゃなく、トゥイッチでミノーを無理やり左右にダートさせて誘いをかけてた。当時のルアーはそれしかできなかった。それに、魚の目の前でできるだけ長く、時間を掛けて誘うことが有効だってことは知っていても、そういう釣りができるミノーがなかったから、必然的にクロスの釣りになることが多かった。少しでもリップに流れを絡ませて、誘う時間を稼ごうとしてたんだ。でもね、これも初期型蝦夷を使ってハッキリ分かったことだけど、アップストリームじゃないと反応しないヤマメって、やっぱりいるんだよ。何かヤマメの中にそういうスイッチがあるんだと思う。アップで投げても、ミノーが手前に寄って来るのをぎりぎりまで抑えながらヒラを打たせられる蝦夷だから釣れる。手前に押し流されてくるミノーを、できるだけ我慢させて、糸フケを利用しながら微妙なラインテンションの操作でヒラを打たせる技術も、初期型蝦夷を使って学んだね」
あれから10年。高瀬川を沸騰させた初期型の蝦夷は、蝦夷50Sファーストとして今なお素晴らしいヤマメを吉川さんにもたらしている。ミノーの形状やアクションが魚にとって新鮮だから、という理由だけではこれほど長くヤマメたちを魅了し続けることはできない。年々シビアになるフィールドで結果を出し続けているというのは、それだけヤマメの性質を理解し、核心をズバリ貫いた性能を有しているからこそに他ならない。そしてまた、進化を続ける釣り人の技術に追従し続ける奥の深い対応力も、初期型蝦夷には備わっていたのだ。
ここに写真を紹介しているヤマメたちが、その事実を証明している。
今シーズンもきっと蝦夷50Sファーストの強烈なフラッシングは、流れの中の狡猾なヤマメたちを誘い出してくれるに違いない。
【付記】
道具というのはもちろん使い手の操作次第、ではありますが、アップストリームであるにも関わらず流れの中で止まっているようにして、ドバッ! ドバッ!と大きくヒラを打つ滞流時間の長い独特のフラッシングが、ファーストモデルの根強い人気の源だと思います。「あのヒラ打ちはヤマメを強く刺激する」と吉川さんは言います。
ちなみに今回紹介しているのは昨シーズンの釣果の一部で、山形の渓流で手にした尺ヤマメです。「初めての川だから、内容的には満足だよ」と吉川さん。川読みも含めた釣り人の純粋な技量と、道具の性能を如実に表す釣果だと思います。それにしても、一日に4本の尺ヤマメって…、1本ぐらい僕に分けてほしいんですけど。
TACKLE DATA
ROD | Expert Custom EXC510ULX/ITO.CRAFT |
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REEL | Cardinal 3/ABU |
LINE | Super Trout Advance series 5Lb/VARIVAS |
LURE | Emishi 50S 1st/ITO.CRAFT |
LANDING NET | North Buck/ITO.CRAFT |
ANGLER
1965年福島県生まれ、福島県在住。生まれ育った福島県浜通りの河川を舞台に、数々の大ヤマメを釣り上げてきたが、東日本大震災および原発問題によりホームリバーを失い、現在は中通りに居住する。サクラマスの経験も長く、黎明期の赤川中流域を開拓した釣り人のひとりである。