FROM FIELD
菊池 久仁彦
FIELDISM
Published on 2014/08/11
止まらない夏ヤマメ
2013年8月、岩手県
アングラー=菊池 久仁彦
文=佐藤 英喜
写真=菊池 久仁彦
昨年8月、夏真っ盛りの渓で、菊池のネットに収まった36cmのヤマメ。この一匹に、彼が感じる夏のヤマメ釣りの面白さが詰まっていた。
その日、まったく反応がない本流に見切りを付けた菊池は、とある支流へ向かった。局地的なゲリラ豪雨が相次いで被害をもたらした昨夏、この地域も数日前に雨量がかさみ、大水の出た本流はまだ回復していなかった。
いっぽう、夏の支流は水が抜けるのが早い。実際目当ての支流に着いてみると、すでにイワナの水からヤマメの水へと切り替わっている。
菊池の印象では普段はあまりぱっとしない支流なのだが、本流とつながっている以上、少なからず本流から入ってくる魚が期待できる。その本流差しのヤマメがこの時の狙いだった。
ポイントは絞りからの開き。一見変化に乏しい平面的な流れではあるものの、菊池が「ヤマメ的にちょうどいい」と言う流速が30mほど続いている。
「個人的にそれほど実績のあるポイントではないんだけどね、でも、いつかのタイミングで、絶対にいい魚が着くと思ってた」
本流から差し込んでくる魚は、その足取りをつかむ作業がひとつの難しさであり、またそれが釣りの面白さでもあるわけだが、菊池によればとりわけこの水系の本流差しは、その動きを読み切るのが簡単じゃないらしい。
「ひとつの場所に魚が居着かないんだよ。忍者みたいに、居場所をつかんだと思ってもすぐにいなくなってしまう。ここの魚は特にその動きが速い。どんどん上流に上っていくとも限らなくて、水位や透明度の変化で、水が合わなくなったら下流に、つまり本流にまた戻る個体も多いんだよね。大淵でもあれば止まるんだろうけど、そんな場所もない。秋の遡上期になればまた話は変わってくるけど、夏場は水の条件に合わせて常に魚が動いてる感じ」
水面下の魚の動きと、一時的に定位するスポットや流速を読む力がシビアに求められる釣りなのだ。
核心のスポットまではちょっと距離があるが、慎重に釣り進んでいく。本流も支流も釣り人が多く、魚は日常的にスレている。
「静かに、ミスなく釣る、っていうのは、もう大前提だよね」
サイドクロスで対岸のキワへぴたりとルアーを落とし、誘いを掛ける。と、ほどなく9寸サイズのヤマメがヒットした。
釣り上げてみると、この支流の居着きヤマメとは明らかに異なる、やはり本流から差し込んできたと思われるヤマメだった。狙うサイズではないけれど、このタイプの個体が今ここにいるということは何よりもの好材料だ。
いよいよ核心部へ。ルアーはボウイ50Sを結んでいる。
「アップストリームで細かく誘えるルアーでありながら、例えば流速のある瀬で、ドリフトだけじゃなく、アクションさせながらクロスでしっかりと引ける。引き重りもない。これはもう間違いなく、ルアーが持つ基本性能の高さだよね。瀬の中で止めて誘うことも、引いて誘うことも、ひとつのルアーで思いのままに出来てしまう」
狙いは、対岸の柳のシェード。出たとしても、きっとワンチェイスで終わる魚だ。菊池はそう考えていた。
「どんなに水が動いたとしても、それまでのスレは確実に残ってる」
着水したボウイがヒラを打ち始めると、水中に大きな影が現れ、チェイスを始めた。
「ルアーを食いたがってるんだけど、でも、怖い、逃げたいっていう気持ちも見える。ルアーに近づいては離れ、また近づいては離れて、あと10cmが詰まらないまま追ってくる。そういう追い方だから、できるだけ自分の見える所で勝負できる立ち位置を取りたかった。もちろんこっちの気配は魚に気づかれずにね。魚の様子が見える見えないでは、使える技の幅が違うでしょ。チャンスは一回きりだし、完璧に口を使わせたい」
そしてその一投で菊池は、本流差しの、36cmのヤマメを釣り上げたのだった。
頭にイメージした道筋をひとつひとつ辿っていった先に、そのヤマメは待っていた。まさに釣るべくして釣った魚だ。
「やっぱり夏には夏の楽しさがあるよね。汗をかきまくって川を歩いて、魚の動きをバチッと読み切った時の爽快感はたまらないものがあるし、ヒットしたヤマメもがんがんファイトしてくれる。一匹のヤマメで、ほんと暑さも疲れも全部吹き飛んでしまう。この楽しさを知ってるから、どんなに暑くても川に向かってしまうんだよね」
TACKLE DATA
ROD | Expert Custom EXC510ULX/ITO.CRAFT |
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REEL | Cardinal 3/ABU |
LINE | Super Trout Advance VEP 5Lb/VARIVAS |
LURE | Bowie 50S[PYG]/ITO.CRAFT |
LANDING NET | North Buck/ITO.CRAFT |
ANGLER
1971年岩手県生まれ、岩手県在住。細流の釣りを得意とする渓流のエキスパート。大抵の釣り人が躊躇するようなボサ川も、正確な技術を武器に軽快に釣り上っていく。以前は釣りのほとんどを山の渓流に費やしてきたが、最近は「渓流のヤマメらしさ」を備えた本流のヤマメを釣ることに情熱を燃やしている。サクラマスの釣りも比較的小規模な川を得意とする。