イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2010/08/24

本流開拓

2010年6月8日・17日、長野県
アングラー・写真=小沢勇人
文=佐藤英喜

 とある本流で新たなポイント開拓に汗を流していた6月のある晴れた日、小沢の目に最高に魅力的に映ったポイントがあった。


 そこはそもそも魚影の濃い川ではなく、いい魚が着くだろうポイントを絞り込む必要があるのだが、なかでもそのポイントが小沢には抜きん出て良く見えた。目標の魚が目に浮かんだ。この本流を歩く小沢の目標は、ずばり40cmを超える雄のアマゴ。まだ、この川では出会ったことがない。


 ところが、結局小沢のランディングネットに収まったのは31cmのアマゴだった。

まだ顔つきの幼い31cmのアマゴ。この一尾が足がかりとなった。この日は支流も含め、くまなく歩いていたからロッドはEXC510ULX。蝦夷50Sにヒット

 断固としておかしい。


 釣り上げたアマゴと目の前のポイントを交互に眺める。本流育ちらしい太さのある魚だったが小沢は納得がいかない。このポイントから伝わってくるただならぬ気配と、31cmというサイズの間には大きなギャップがあった。


 小沢が立っていたのは、いったん絞られた瀬の流れが下流のプールへと開いていく場所で、水深は深い所でも1.5~2m程度。極端に深いポイントではないけれど、そこから上流と下流を見渡した時に、「ここしかない」と断言できるポイントだった。


「そのポイントの中でも、一番いい魚はやっぱり一番いい流れに着いてると思うから、そこをしつこく攻めてみたんだけどね。まったくの無反応。ナンにも出ない。で、あれー?と思いながら、完全に流れが開き切った所の脇、ハヤがいるような場所を通してみたら31cmが出た」


 ただ、この31cmが釣れたことでこんな希望的観測を抱くこともできた。一番の流れにはまだ一番強い魚が抜かれずに陣取っていて、だから一等地に入れないヤツがそんな所に着いていたのではないか。少なくともその可能性はある。小沢はこのポイントにこだわることにした。自分の読みと予感を信じて、また近いうちにここへ来ようと決めた。きっと一度の釣行で顔を見せてくれる相手ではないのだ。


 再訪する時間が取れたのはそれから9日後のこと。


「ここにいないわけがない」


 ポイントに立った小沢は改めて思った。ビンビンと感じるものがあった。天気はまたもや快晴だが水の条件は悪くない。


 アップクロスにキャストした蝦夷65Sファーストをドリフトさせながら、トゥイッチでギラギラと躍らせる。もちろん、必要以上に激しくティップを振ることはなくロッドワークは至ってソフトだが、蝦夷は大きく、なお且つ細かい間隔でヒラを打っている。ミノーを引く力にも放す力にも、全く無駄がないのだ。流れにミノーを乗せながらティップを揺らし、ヒラを打たせるための必要最小限の圧だけをミノーのリップに与える。そして、前回の釣行時からずっとイメージし続けている一番の流れでターンさせる。


 果たして、いるのか、いないのか。


 時折、誘いのリズムに変化をつけている。


「止めて、弾く、とか。そういう変化で反射的に口を使う魚もいるからね」


 アタリは、コツッ、という小さなものだった。まさにターンの最中、わずかに止めたミノーを再び跳ね上げた瞬間。迷わずアワセを入れるとズシリとした重みがロッドに乗った。


 ヒットした魚が太い流れの中層付近で必死にもがく。サーベルのような銀ピカの魚体を激しくギランッ、ギランッとくねらせてハリから逃れようと試みている。


 しかし、やり取りの主導権は完全に釣り人にあった。ヒットに持ち込んだ貴重な大物を確実にランディングする上で、改めてEXC600ULXの存在が大きいと小沢はいう。


「でかい魚が掛かった時も安心して、余裕を持ってファイトが楽しめるよね。とにかく追従性が抜群にいい。例えばさ、魚が水面近くまで浮いてくると、ダバッダバッダバッ!って頭を振ってよく暴れるでしょ。最後のひと暴れ。その時に一瞬糸フケが出て、それで外れるケースが多いよね。それをオートマチックに回避してくれるのがロッドの追従性で、機敏に曲がって、なお且つ戻りも早くないと魚の暴れる動きには対処できない。このロクマルはそれを完璧にこなしてくれるよね」


 重い流れに乗って魚が下流へ向かった時も、バットがどっしりとそのトルクを受け止めた。小沢は力強いファイトを堪能しつつ、大アマゴをネットへと導いた。


 手にしたアマゴは41cm、雄。これを釣りたいがために、この本流を歩き続けたのだ。

最高のポイントに最高の魚が入っていた。オス特有の険しい顔付きがまたいい

  1. ヒットルアーは今シーズン復刻した蝦夷65Sファースト

  2. 銀ピカのボディに可憐な朱点と、淡いパーマークが浮かぶ

「この魚、よっぽど何かを警戒して生きてたんじゃないかな。腹が薄いでしょ。想像だけど一回誰かの竿に掛かってバレたとか。そんな経験があって、エサすらまともに食ってなかったのかも」


 確かにエサをたらふく食べてパンパンに太っているかと思いきや、この時期の本流の魚にしては腹の膨らみが足りないように見える。旺盛なはずの食欲を、警戒心が上回っていたんだろうか。とはいえ、鼻の先から尾ビレまで、十分に感動できる美しい魚体である。

ロッドはEXC600ULX。渓流用のショートロッド感覚で操作できる軽快な6フィートだ

「この川で釣る40cmの雄っていうのは、どうしても自分の中でクリアしておきたい魚だったし、それを自分の足で釣ったことに満足、だよね」


 小沢の釣りは地道な釣りだ。自分の足を目一杯使って魚を探す。釣りの度に学んで、また歩いて、考えを巡らせる。いつもそうやって少しずつ魚に近づいてきた。だから、釣れる。


 広大な本流を納得いくまで歩いて、読みを働かせて小沢は目標のアマゴに辿り着いた。こういう魚こそ、価値ある一尾、と呼ぶのだと思う。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510ULX & 600ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3/ABU
LINE Super Trout Advance 5Lb/VARIVAS
LURE Emishi 50S & Emishi 65S 1st/ITO.CRAFT

ANGLER


小沢 勇人
Hayato Ozawa

イトウクラフト フィールドスタッフ

1965年長野県生まれ、長野県在住。茅野市在住のトラウトアングラー。野性の迫力を感じさせる渓流魚を追って、広大な本流域から小渓流まで、シーズンを通して釣り歩き、毎シーズン素晴らしい魚達との出会いを果たしている。地付きの魚であり、少年時代からの遊び相手であるアマゴに対してのこだわりも強い。