イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2012/02/29

本流を切り開く
蝦夷65S 1st タイプⅡ

2011年4月、岩手県

アングラー=大和 博
文と写真=佐藤 英喜

 少しずつ春らしい陽気が増えてきた4月下旬の雫石。大和さんは雪シロ絡みで押しの強まった本流のポイントを、点々と釣り歩いていた。狙いは御所湖上がりの湖沼型アメマス。遡上が本格化するにはまだ春が浅いけれど、きっと気の早い個体がこの太い流れのどこかに潜んでいるはず。本流でのトルクフルなファイトを求めて、アメマスの大物狙いに没頭するのが大和さんの毎年欠かさない春の楽しみだ。


 山から吹いてくる冷たい風を切って、6フィートのシャープなロッドを振る。キャストしているのは蝦夷65Sファーストの赤バリ仕様、つまりタイプⅡだ。(この時点ではまだプロトだったが)この新たなヘビーシンキングが、大和さんの心を躍らせていたのは言うまでもない。


「流れの中で溜めを作りやすくて、上波の下層レンジで誘いを掛けながらゆっくり引いてくることができる。ファーストならではの強烈なフラッシングも格別だし、水深のあるポイントで使ってるとさ、底からブワっとデカイ魚が出てきそうでワクワクするよ。今日は全体に流れの押しが強いけど、ウエイトアップした分、サイドで流れを横切らせた時の安定感も増したね」


 もちろんアメマスに限らず、本流に潜むスーパーヤマメやサクラマス、サツキマスといった大物トラウトの鼻先で、魚のテンションを一気に盛り上げるヒラ打ちを自在に演出するためのセッティングだ。


 足場の高い所から見下ろすように水中を眺めていると、深トロの中層辺りで、65Sファースト・タイプⅡが量感のある水をかき分けるようにして軽快にヒラを打っている。淡い太陽光を扁平ボディが目いっぱい拾って、ギラギラと水中に拡散しているのが見える。大和さんはニューモデルの泳ぎにすこぶるご機嫌な様子で、とても楽しそうにロッドを操作しているのだった。


 朝からめぼしいポイントを丹念に叩いていき、そして遂に衝撃的なバイトがあったのは、降り注ぐ陽射しに暖かさを感じるようになった午前10時過ぎのこと。


 直線的に走ってきた瀬の流れが対岸のブロックにぶつかり、白泡を立てながら一度その勢いを緩め、恰好の深みを作っていた。じりじりと下流側から立ち込んでいって、開きの肩から細かく探っていく。少しずつ上流へ足を進めアップクロスのアプローチから、流芯の通る最深部にミノーを投げ込んだ。タイプⅡの自重がスッと上波を突き破り、中層の厚い流れに入ったところで竿先を弾きアクションを加える。流下するスピードをぎりぎりまで抑え、できるだけスローに、その場で溜めを作るようにしながら1つ、2つ、3つと大きくヒラを打たせた。立て気味に操作していたロッドが、ぐわんっと押さえ込まれた。反射的にアワセを入れ、さらに素早く糸フケを巻き取りバットパワーを使って鋭く追いアワセを入れる。ビンッと張ったラインの先に、巨大な獲物の重さをはっきりと捉えた。「でかいぞ!」。明らかな大物の手応えに大和さんの表情が一瞬にして厳しくなった。


 一拍置いて、魚が『グンッ、グンッ』と重々しく頭を振り始めた。アベレージサイズのものとはまったく異なるトルクが、ラインとロッドを介して手元に伝わる。


 流れに乗って魚がゆっくりと下ってきた。今度は下流へ吸い込まれていく流れの押しを見方につけて、さらにロッドを絞り込む。ものすごいパワーだった。ベリーとバットで持ちこたえると、大きな身体を持て余すように激しくのたうちまわった。水中で銀色の魚体が翻るたび、緊張が高まった。


 しかし必死の抵抗を続けた魚も、慌てずやり取りする大和さんに徐々に体力を奪われていき、遂に途轍もないアメマスが、本流の岸辺にでんっと横たわったのだった。


 まるでワニのような威圧感をたたえた厳つい雄。釣り上げられてなお、ギリギリとこちらを睨んでくる。メジャーを当てると53cmもあった。力のみなぎった堂々たる魚体。これが釣りたいがために大和さんは春の本流を毎シーズン駆けているのだ。

 アメマスの口元には、65Sファースト・タイプⅡが誇らしげにきらめいていた。


「本当に、このルアーがあったからこそ攻め抜けたね。大場所の分厚い流れをとらえて、大物の捕食範囲内でじっくり誘いを決められる。絶対に手放せないルアーがまたひとつ増えたよ。今回釣った53cmっていうのは、ここのアベレージから言えばマックスに近い大きさだけど、釣れてないだけで60cmというのも必ずいると思うんだ。もっとすごいアメマスを、俺はやっぱり地元の雫石で釣りたい。この65Sファースト・タイプⅡが出来たことで、夢の魚にまた一歩近づいたよ」

威風堂々という表現がぴったりの素晴らしい魚体

  1. 魚類というより巨大な爬虫類を思わせる迫力

 今年もまた、雫石にアメマスの季節が巡ってくる。ルアーケースに新たな武器を加え、大和さんのアメマス熱はさらに高まっている。まだ見ぬ大物を追って本流に挑む季節がもうすぐやって来る。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC600ULX /ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3 /ABU
LINE Super Trout Advance VEP 6Lb /VARIVAS
LURE Emishi 65S 1st Type-Ⅱ proto model /ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


大和 博
Hiroshi Yamato

イトウクラフト フィールドスタッフ

1958年岩手県生まれ、岩手県在住。岩手県の雫石町で、濃密な自然に囲まれて育った釣り人。御所湖ができる前の驚異的に豊かだった頃の雫石川を知る生き字引でもある。山菜やキノコといった山の恵みにも明るく、季節ごとの楽しみを探しに頻繁に森へ通っている。川歩きと山歩きの長い経験が彼の釣りの基礎を形成する。