イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

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FIELDISM
Published on 2010/12/06

本流で、パーマークに思うこと

2010年6月22日・7月9日、長野県
アングラー・写真=小沢勇人
文=佐藤英喜

尺前後だが、パーマークが鮮明に浮かぶ将来有望な個体。「これは大きくなってもパーマークがしっかり残るタイプだと思う」。ルアーは山夷68SタイプⅡ

1. ヤマメやアマゴのパーマークについて、小沢勇人はこんなことを考えている。


「本流の魚って、基本的にパーマークが薄いでしょ。それに大型化するほど見えづらくなる。でも最近思うんだけど、その水域で飛び抜けて大きく育った個体、本流でもナワバリ意識を強く持った魚は、パーマークが割と鮮明に残る気がするんだよね」


 確かにヤマメやアマゴのパーマークは、周囲にその存在を溶け込ませ外敵から身を守るためのカモフラージュである一方、ナワバリ意識の象徴であるとも言われている。とすれば、小河川や源流部など、外敵の目に付きやすく且つエサも少ない厳しい環境下では、パーマークが濃く、成魚になってもしっかりとパーマークを残す個体が多いのも納得がいく。


 では、本流の魚はどうか。ダム湖や大規模な堰堤プールにも当てはまることだが、広範囲に移動しながら捕食活動を行なう魚達は、ナワバリ意識を捨て、それに伴いパーマークが薄れていく。また水量が豊富なため、パーマークでカモフラージュする必要性も少ない。


 もちろんそれは分かるんだけど、と小沢は話す。


「本流育ちの魚のなかにも、広くナワバリを持ち続ける個体がいるんじゃないかな。特にここ数年、そう感じるんだよね。例えば、37cmとか38cmっていうサイズだとほとんどパーマークが見えないのに、40cmを軽く超える飛び抜けてデカい魚に、パーマークがちゃんと残ってる。友だちが釣った魚を見たりしても確かにそういうことがあって、このパーマークはナワバリ意識の表れで、強い個体の証なんじゃないかって自分は思うようになったんだよね。そして決まってそういう個体は雄が多いんだよ。いまはそれが釣りたい。昔は正直、単に魚が大きければそれで満足だったけど」


 本流に通い、多くの魚を見ることで、パーマークについて深く考えるようになった。それがいま小沢の価値観の、重要な部分を占めているのだ。


2. 2010年6月22日、とある本流でアマゴを狙っていた。

39cmの本流アマゴ。太い流れで育った素晴らしい魚体

 その本流はアマゴの放流がなく、釣れる魚のほとんどは支流から下ってきた個体だ。それぞれの支流にそれぞれの特徴を持ったアマゴが棲んでいる。そのなかで、できるだけパーマークの濃いアマゴが期待できる支流を糸口にしてエリアをざっくり絞っていく。


 しばらく河原を歩いて、「おっ」と感じたのは、流れの強い瀬が川幅一杯に走っている場所。ぱっと見た感じではとても魚の定位する流れではないが、瀬のほぼ中央にドンっと直径1mほどの石が沈んでいる。その石の下手に、小さなカガミのスポットが出来ている。


「遡上してきた魚が小休止するポイントだね」


 ルアーケースを開け、迷わず山夷68Sを選んだ。


「こういうポイントで考えるのは、カガミのなかで食わせられなかった場合だね。緩流帯から一気に強い流れに入っても、浮き上がりを抑えつつ綺麗にアクションし続けるミノーじゃないとワンチャンスはモノにできないと思う。そのための山夷68S。流れに負けて上ずってしまうミノーでは上手くバイトに持ち込めないし、例え表層付近でバイトさせてもそういう魚はバレやすいよね。流れに強くて、レンジをキープしやすい山夷がここではベストだと思った」


 予想通り魚はカガミのスポットから出て、強い流れのなかでヒットした。「よし!」。気持ちは高ぶっても慌てることはない。ファイトはさすがに強かった。流れも強いし魚もデカい。無理にリールは巻かず、バットでしっかり溜める。強烈な首振りをなだめ、走りをかわし、魚をいなす。小沢が意識するのは、焦って魚を浮かせないこと。主導権は完全に釣り人だ。EXC600ULXの追従性と粘りが、緊迫した場面でも心に余裕を与えてくれると言う。


 銀色の太い魚体が危なげなくネットに収まった。すぐにパーマークを探す。つまり、探さなければ見えないほどパーマークは薄かった。角度によって見えたり見えなかったり。魚が落ち着いたところでメジャーを当てると、39cmのアマゴだった。

パーマークは角度によって見えたり見えなかったり。さらに飛び抜けた大物は、パーマークがしっかりと残る。そう小沢は考えている

「いい魚だけどね。雄だし。ピンポイントで狙い通りに釣れたという意味でも嬉しかった。でも、もうちょっとパーマークがハッキリしてればねえ(笑)。思惑通りには行かないのが釣りだよね」


3. 7月9日、また別の本流で。

7月9日の37cm。幅広の本流ヤマメだ。ヒットルアーは蝦夷65S

 崩れ堰堤の下流。堰堤から落ちた水が複雑な流れを作っている。幾本の押しの強い筋があり、その筋と筋の間にある、わずかな弛みに目がとまった。


 隣りの速い流れにミノーが拾われないよう、その弛みをアップストリームで探る。


「ここはこの攻め方しかない」


 使うミノーは蝦夷65S 1st。体高のあるフラットボディで派手なヒラ打ちを演じ、アップストリームや止水域の釣りで強いアピール力を発揮するミノーだ。


 イメージは出来ていた。魚はきっと流れ出しの石の頭に着いている。アップでトゥイッチを掛けながら魚の興味を誘い、石の頭で食わせのタイミングを作るのだ。流下速度を抑えながらミノーにヒラを打たせ、魚の捕食圏内に入ったらさらにスローダウンさせて口を使わせる。そうした頭のなかのイメージを忠実に再現してくれるルアーが、ここでは蝦夷65S 1stだった。


 読みに狂いはなかった。思い描いた通りの場所で、ギランッと幅広の魚体が反転した。咄嗟にアワセを決めると、魚を流れに乗せてそのまま下らせた。その場でやり取りすることもできたが、小沢はすでに次の魚のことを考えていた。まだいるだろう残りの魚に余計なプレッシャーを掛けないよう、ガンガン瀬を越えた下流でランディング。この冷静な判断が2本目のヒットにつながった。


 ハタからは簡単に魚を釣っているように見えるかもしれないが、そうではない。大切なのは、とにかく川を歩くこと。そのなかで、なぜ釣れたのか、なぜ釣れなかったのか、必死に考えを巡らせてきた濃厚な経験が、ポイントの読み、ルアーの選択や使い方、魚とのやり取り、その1つ1つに凝縮しているのだ。一尾の背後には数えきれない試行錯誤があることを、僕らは忘れてはいけない。


 結局小沢は、その小さな弛みから37cmのヤマメと40cmのイワナを引き出した。

同じ筋からミノーを追ったのはイワナ。これも本流育ちの太い魚体

「このヤマメも、パーマークが薄いんだよねえ(笑)。去年この川で釣った42cmはパーマークがバッチリ見えたでしょ。あれがここの大将っていうか、ナワバリを持った魚だと思う。まあ本当に数が少ないからこそ、自分としては価値があるんだけど」


 その42cmのヤマメはこのウェブサイトで紹介しているが、確かに驚くほど鮮明なパーマークを浮かべていた。それが果たしてナワバリ意識の表れなのかは分からないが、ギンケの個体群の中でも、突き抜けた魚はパーマークが残りやすいという小沢の考えを裏づける一尾だ。


 自分にとって価値ある魚を追い続けたい。と、小沢は考えている。釣り人のロマンを掻き立てるのは魚のサイズだけではないのだ。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC600ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3/ABU
LINE Super Trout Advance 5Lb/VARIVAS
LURE Yamai 68S/ITO.CRAFT
Yamai 68S TYPE-Ⅱ/ITO.CRAFT
Emishi 65S 1st/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


小沢 勇人
Hayato Ozawa

イトウクラフト フィールドスタッフ

1965年長野県生まれ、長野県在住。茅野市在住のトラウトアングラー。野性の迫力を感じさせる渓流魚を追って、広大な本流域から小渓流まで、シーズンを通して釣り歩き、毎シーズン素晴らしい魚達との出会いを果たしている。地付きの魚であり、少年時代からの遊び相手であるアマゴに対してのこだわりも強い。