FROM FIELD
吉川 勝利
FIELDISM
Published on 2012/04/11
未知なる川で、本流マスを釣る
2011年7~8月
アングラー=吉川 勝利
文=佐藤 英喜
初めての川を釣る時、釣り人の経験というものはよりくっきりと浮かび上がるものだと思う。魚の着き場を見極める目、理想的な立ち位置、その魚に口を使わせるためのルアーの操作の仕方など、それまで身に付けてきた知識や技術が浮き彫りとなって現れる。
昨年の夏、吉川勝利は未知の本流に立っていた。
吉川は手始めに、釣り場の全体図を把握するために一通り川を歩きながら、ざっとポイントを見て回った。そして、経験の引き出しを開ける。これまで攻略してきた数々の川の中から近似した釣り場を思い浮かべ、その川へと当てはめてみる。モデルとなる釣り場がたくさん頭の中にあるからこそ、吉川は初めての川でも全くまごつくことがない。魚が入っている流れ、その攻め方がぱっと思い浮かぶ。経験の明かりが見知らぬ川の闇の中で、魚までの道筋をはっきりと照らしてくれるのだ。
「まず一通り川を見たら、エリア的に川を区切って釣りを組み立てるね。今回の川でいうと始めに、堰堤とかの人工構造物や渓相によって、大きく5つのエリアに区切って考えた。そのそれぞれのエリアを、地元河川のどこかのエリアと重ね合わせてみる。ここはあの川の、あの区間と似てるな、とかね。過去に釣ってきた川からヒントを拾っていけば、ただ闇雲に探るよりもずっと効率がいいよね」
もちろん、全く同じ川は存在しない。川の状況も刻一刻と変化する。だから、現場での状況判断、川を見たまさにその時の直感を加味しながら釣りを微調整していく。そうやって新しい川を解読していく作業がたまらなく楽しいのだと吉川は語る。
最初の釣行時、吉川はひとつのエリアが気になった。ある区間でヒットした1匹が、この川へ通い詰めるきっかけになった。
それはすっかりギンケした大物で、40㎝を優に超えたサイズ、魚体の太さ、そして押しの強い流れで繰り広げられるその強烈なファイトに無性に惹きつけられた。
「やっぱり、でっかい魚を釣りたいっていう気持ちは釣りをしていれば常にあるわけでさ、その欲望を刺激されたね。最初の1匹を釣って、この川と魚をもっと深く知りたい、攻略したいって思った。ロッドはEXC600ULXを使ったんだけど、ロクマルでサクラマスと同じようなトルクのファイトを楽しめるんだから、そりゃあ面白いよね。もちろん、そんな大物が掛かってもロッドはぜんぜん負けてない。渓流ロッドのような軽快なブランクでありながら、じっさい50㎝オーバーの魚がダウンでヒットしてもバットはピタッと止まって持ちこたえてくれるんだ。しなるんだけど、そこからの強い粘りでロッドが魚を寄せてくれる感じ。このロッドがあるからこそ余裕を持って大物とのファイトが楽しめるんだよね」
吉川は何度も釣り場へ足を運びながら、着実に川と魚の特徴を把握していった。
まず、最初に釣れた1匹が、偶然の魚ではないことがわかった。その後吉川は、とてつもない太さをした40~50㎝超の驚くべき大物を俄かには信じがたいペースで釣り上げていったのだ。
一体この魚達は、どのようにしてそれほどの魚体を持つに至ったのだろうか。
吉川はこう推測する。
「そこそこ流程のある本流とは言っても、これだけのサイズが育つポテンシャルはこの川自体にはないと思うよ。川を一通り歩いてみて気付いたのは、河川規模の割に懐が少ないってこと。魚を大きく育てて、なお且つ魚をストックできる場所が少ないし、そのエリアも限られる。ただこの魚達は、下流からの遡上系ではあるとして、いわゆる海上がりのサクラマスとも異なる個体群なんだ。この川が流れ込む大本流に下って、そこで巨大化した魚。それが、自分が釣った範囲内での結論。根拠のひとつとしては、釣った後に口からエサをはき出した魚が何匹か確認できたんだ。ドジョウとかヤゴを食ってた。それにルアーの食い方も川に居着いたサクラマスとは明らかに違う。例えば俺の地元の沿岸河川には、河口周辺の汽水域や海水域で大きくなる戻りヤマメがいるでしょ。系統的にはそれと同じ。この川の場合は下流の大本流が魚を育てる器になってる。これは推測だけど、もともとはサクラマスの多かった川だったんじゃない? それが川のあちこちに堰堤なんかが出来たりしてさ、そういう環境の変化に順応した結果、ド本流の大場所でマス化する個体群になったんだと思う」
海を回遊してくるサクラマスとも違い、またもちろん居着きのヤマメとも異なる、こうした本流の大きな懐で巨大に成長した個体を吉川は「本流マス」と呼んでいる。
「マスというくくりと、ヤマメというくくりがあるとしたら、あくまで自分達の感覚としては、この本流マスも戻りヤマメもマスの部類に入るよね。やっぱりヤマメって言ったら、もっと色彩が豊かで、写真に撮った時にパーマークがちゃんと見える魚をヤマメだと思いたい。そういうこだわりはある。でも、魚の価値がどうこうじゃなく、今回釣ったような本流のギンケした大物も別の意味で楽しんでるよ。でっかい魚とやり取りしながら体に伝わってくる重々しい首振り、それを釣り上げた時の満足感っていうのは、ほんと時間を忘れて夢中になるものだからね。いかにも本流らしい、これはこれで魅力的な魚だよ」
本流の気持ちいい開放感、着き場を一人で絞り込んでいくプロセス、そしてヒットした後は押しの強い流れに乗って疾走し、極太の魚体がもんどりうつスリル満点のファイト。確かに面白くないわけがない。
そんな大物トラウトをネットに収めた瞬間の胸がスカッとする爽快感を、吉川はこの本流で、自らの経験を頼りに何度も味わった。またひとつ、魅惑の川を吉川は見つけたのだった。
TACKLE DATA
ROD | Expert Custom EXC600ULX/ITO.CRAFT |
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REEL | Cardinal 3/ABU |
Luvias 2506/DAIWA | |
LINE | Super Trout Advance series 5Lb, 6Lb/VARIVAS |
LURE | Yamai 68S Type-Ⅱ/ITO.CRAFT |
Emishi 50S 1st Type-Ⅱ/ITO.CRAFT |
ANGLER
1965年福島県生まれ、福島県在住。生まれ育った福島県浜通りの河川を舞台に、数々の大ヤマメを釣り上げてきたが、東日本大震災および原発問題によりホームリバーを失い、現在は中通りに居住する。サクラマスの経験も長く、黎明期の赤川中流域を開拓した釣り人のひとりである。