FROM FIELD
吉川 勝利
FIELDISM
Published on 2015/04/10
最後の
6月1日解禁日
2014年6月、秋田県
アングラー=吉川 勝利
文=佐藤 英喜
「サクラマスが釣れて、俺も相当興奮してたんだね。タックル一式を川に置き忘れて、そのまま家に帰っちゃったんだから(笑)」
吉川にもそんな初々しい時代があったのだ。
1997年6月のこと。初めて挑んだ秋田解禁は、初日、2日目と空振りに終わり、3日目の正直で遂に米代川のサクラマスが微笑んでくれた。それはもう、買ったばかりのロッドやリールが頭から消し飛ぶくらい嬉しくて、その感激に浸ったまま釣りの疲れも忘れ、タックルのことも忘れ、高速道路をひた走り福島の自宅へと戻ってしまったのだ。
それから20年近くの間、吉川は6月の秋田解禁釣行をほぼ毎年続けてきた。
「もちろん解禁の遅さに不満はあったけど、サクラシーズンの最後の砦、最後のお祭りって感じで、思い出もいっぱいあるよね」
例年、山形を中心に遠征を繰り返し、新緑の時期の岩手にも足を伸ばしながら慌ただしく過ぎていく吉川のサクラシーズン。その締めくくりとして臨んできたのが秋田解禁である。
「6月にもなれば、群れを離れてすっかり淡水に馴染んだマスが相手だから、海からの遡上期とは着き場も狙い方もやっぱり違うよ。感覚としては、でかいヤマメを狙う時のイメージに近いかな。一気にプレッシャーが蓄積する解禁2日目以降は特にそう」
時間の許す限り、解禁前日から川をしっかりと見て、自分の経験を糧に、自分の目を信じてポイントを絞り込んでいく。サクラマスはとても希少な魚だが、吉川は『何となく釣れちゃった』というのでは満足できないと言う。
「確信を持って、自分の釣りで釣れた、っていう釣りがしたいんだよね。解禁日のポイント選びにしてもさ、毎年魚が着く所、高実績のポイントも確かにあるけど、川の流れは毎年変わるわけで、その時のベストなポイントを探し出したい。その作業が面白いんだ。釣りをしてる時も、魚の反応がなければないなりに、常に何かを試みる。その場のひらめきや工夫を大切にする。一番の手掛かりは何と言っても魚の反応だから、それを目指して何かしらのトライを重ねる。そうやって結果に結びつけることが、釣りを進化させていくってことじゃないかな。確率の低い釣りではあるけど、こういう時はこうだったな、っていう経験の引き出しを少しずつ増やしていくことが大事だと思うし、自分で答えを導き出すのが楽しいんだよね」
淡々と釣りを続けているように見えて、経験豊富な釣り人ほど実は一投一投にきちんと明確な意図が込められている。あえて同じ誘いを再現し続けることもあれば、ヒラの打たせ方、リズム、スピード、あるいはアプローチの角度を細かく変えながらひとつのポイントを攻め続けることもある。そんな吉川のマス釣りは『攻める』という表現がぴたりとハマる。 2014年の6月1日も、そうして彼は秋田のサクラマスを釣り上げたのだった。
釣り上げた本人がひょうひょうとしているから簡単に釣っているようにも見えるが、その1本のサクラマスの背後には濃密な経験と無数の試行錯誤が生きている。
ネットに収まり、まだWOOD85をくわえたままのサクラマスにメジャーを当ててみると、河原がなくて半分水没した草の上だから魚体がユラユラとして正確には測れなかったが、62か63cmといったところ。
サイズに関しては人それぞれに考え方があるけれど、いつも吉川はプロポーションのいい65cmをひとつの目標として思い描きながらロッドを振っている。
「太さはないけど、顔がいいな、このマス」
きりりとした顔付きの格好いい雄だった。吉川が笑みを浮かべる。
「振り返ってみると、秋田解禁はずっと相性がいいんだよね。6月解禁は時期的に後がなくて、一発勝負に近い状況だからどうしても釣り場が過剰に混雑するし、それによって魚との勝負というより人との戦いになりがちだけど、解禁さえ早まってくれれば魚のコンディション的にも活性的にも、楽しみがもっと膨らんで、釣り人的にはいい事尽くめだと思うんだけどな」
その解禁日については遂に今年2015年、そうした多くの釣り人達の願いが叶う形となった。ご存知の通り、秋田のサクラマス解禁日が4月1日に変更されたのである。
他の地域からみれば当たり前の時期に釣りができるようになったに過ぎないし、雪シロの影響を考えるとどうせならあとひと月くらい前倒ししてくれてもいいのに…とも思うけれど、4月解禁になり、良いシーズンを長く楽しめるようになったのは大変喜ばしいこと。
「やっぱり、太くて大きなマスが釣りたい。その欲望が尽きないからやめられない。秋田の解禁が早まって、その可能性が広がったことは確かだよね。赤川のマスも釣りたいし、閉伊川にも行きたいし、そこに秋田も加わったわけだから、盛期は忙しくなるよ」
これまで味わうことができなかった、秋田のサクラマス河川が秘める本来のポテンシャルとはいかほどのものか。答えを出せるのは川に立った者だけだ。
いま、新たな夢が川辺に広がっている。
TACKLE DATA
ROD | Expert Custom EXC780MX/ITO.CRAFT |
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REEL | LUVIAS 2506/DAIWA |
LINE | Avani Sea Bass PE 1.5/VARIVAS |
LURE | Wood 85・14g /ITO.CRAFT |
ANGLER
1965年福島県生まれ、福島県在住。生まれ育った福島県浜通りの河川を舞台に、数々の大ヤマメを釣り上げてきたが、東日本大震災および原発問題によりホームリバーを失い、現在は中通りに居住する。サクラマスの経験も長く、黎明期の赤川中流域を開拓した釣り人のひとりである。