イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2014/04/14

川で過ごした時間

2013年5月

アングラー=吉川 勝利
文=佐藤 英喜

■赤川での経験

 吉川さんにとってサクラマス釣りは、100%遠征の釣りだ。

 古くからの主戦場である山形県赤川にしても、あるいは岩手や秋田の川にしても、福島からの遠征者である吉川さんの釣りには常に制約が付きまとう。

 例えば、確実に魚をストックしているだろう一級ポイントに足繁く通い詰めることは出来ないし、また刻一刻と変化する川の状況にぴったり合わせて釣行することも出来ない。

 遠征の釣りには、「効率の良さ」という意味でどうしても限界がある。それを言っても仕方がないのだが、活性の高い魚との遭遇に頼ってばかりではなかなか勝負にならないのだ。

 吉川さんがマス釣りを始めた頃から大事にしてきた経験は、もっと地道なものだった。

「赤川で言えば、人が集中する下流域だけじゃなくて、とにかく川全体をいろんな角度から見ることに徹したね。せっかく片道5時間も掛けて釣りに行ったのに、増水とか濁りで竿が振れない日もあったよ。そんな時でも、川を見て歩く時間が経験になる。そう信じてとにかく川に行った。赤川に通い始めた頃は川の地形を見るために、わざわざ正月に出掛けたりね(笑)。冬は渇水してるし、水も澄んでるでしょ。いろんな状況でじっくり川と魚を観察して、マスの着き場や習性を学んで、遠回りかもしれないけどそういう経験の積み重ねで少しずつ魚に近付けるものだと思うんだ」

 吉川さんの釣りを見ていて改めて感じるのは、価値あるサクラマスを手にするのに、都合のいい近道はないということだ。

 河口からゼロ段堰堤を抜け中流域へ向かうと、赤川は途端に釣り人の影がまばらになる。当然魚の気配も薄くなるわけだが、それでも吉川さんは周囲の実績や情報にとらわれず、川を読む目と足を頼りにサクラマスを探し、そうして釣り上げた価値ある1本に心底感動してきた。

 そして、そんな地道な遠征釣行を長年繰り返してきた経験があるからこそ、どこの川に遠征しても決して釣りがブレない。赤川で過ごした時間が、吉川さんのマス釣りを支える土台となっているのだ。


■サクラマスのスイッチ

 さて、写真で紹介している魚も吉川さんがとある遠征先で釣り上げた1本である。

イトウクラフトのフィールドスタッフ吉川勝利が釣ったサクラマス

ハイプレッシャー河川のサクラマス。釣り人の経験がこの一尾に凝縮している

 2013年5月、舞台は新緑の輝く中規模河川。遡上したサクラマスが広く散らばって、どのポイントにも可能性がある半面、早春から続くプレッシャーの蓄積が釣りを難しくしている。

「どうしたってサクラマスは、ルアーにスレやすい魚だからね」

 水の条件や時期にも左右されるとはいえ、もしプレッシャーの掛かっていない手付かずの状況であれば、サクラマスはルアーに対してもっと積極的に反応する魚だと言う。もともとサクラマスには攻撃的な性質が備わっていると、吉川さんは経験的に感じている。しかし、あっという間にスレてしまうのだ。水中の異物に対する敏感さが見切りの早さにも繋がっているのか、まるでスイッチが切れたように一気に反応が鈍くなる。それがサクラマスという魚の悩ましい所だ。

 では、プレッシャーのきつい川で吉川さんがイメージしている攻め方とはどんなものだろう?

「絶対に口を使わない魚も少なからずいるわけだけど、かと言って食い気満々の魚だけを探していても釣りにならない。着き場をしっかり読むことは大前提で、スレている魚にもどこかにスイッチがあると考えて、それを探るように誘いを掛けるよね。こうやってこうやれば釣れる、っていう単純な答えはないよ。流れによっても、魚一匹一匹によってもそれは違う。いいポイントであるほど大事に、目先を変えながら、いろんなヒラの打たせ方でトライしてみる。WOOD85ならそれができる」

 サクラマスが本来持っているはずの攻撃性を少しでも引き出す。そのためのスイッチをWOOD85のヒラ打ちで探す。脳裏にあるイメージは、賢くて警戒心の強い大きなヤマメを釣る時と一緒だと言う。それが吉川さんのひとつの経験則。

 長いチャラ瀬の下流にあった、ちょっとした深みにマスの気配を感じた吉川さんがWOOD85の18グラムを送り込んだ。水深や押しの強さを見て、やるべき操作はすでに体が知っている。ロッドワークとリーリング、リップの水噛みや糸フケの量、様々な要素を組み合わせて、思い描いたパターンを正確に当てはめていく。頭に入っている知識だけじゃなく体が覚えている操作にも経験が凝縮している。時に同じ誘いを繰り返し、時に誘いの表情を変える。水中のミノーを完璧にコントロールしているからこそ、狙い通りの誘いが表現できるのだ。

 神経を研ぎ澄まし、そのピンスポットで絶妙にステイさせながらヒラ打ちを操作すると、ドシンッ!という重々しいアタリが吉川さんの手元に伝わった。

イトウクラフトのフィールドスタッフ吉川勝利が釣ったサクラマス

川で過ごした時間は嘘をつかない。経験が導き出した答え

「川で過ごしてきた時間は嘘をつかない。その努力は必ず報われるんだよ」

 全てのヒットの陰には、これまでマス釣りに費やしてきた長い年月が生きているのだ。

 自分の経験を信じた先に、サクラマスは待っていた。


【付記】

サクラマスを釣るのに分かりやすい攻略法はないけれど、コンスタントに釣り上げている人は確かに何かを知っているのだと思います。川で過ごしてきた長い時間のなかで、川と魚からじかに教わったこと。言葉にできるのはほんの一部かもしれませんが、釣り人自身にとってこれ以上信じられるものはありません。吉川さんには吉川さんだけの経験則がある。だからこそ釣れるサクラマスがいる。
その経験と情熱を糧に、今シーズンはどこの川でどんな鱒を釣り上げるのか楽しみです。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC780MX/ITO.CRAFT
REEL LUVIAS 2506/DAIWA
LINE Super Trout Advance Big Trout 12Lb/VARIVAS
LURE Wood 85・18g/ITO.CRAFT

ANGLER


吉川 勝利
Katsutoshi Yoshikawa

イトウクラフト フィールドスタッフ

1965年福島県生まれ、福島県在住。生まれ育った福島県浜通りの河川を舞台に、数々の大ヤマメを釣り上げてきたが、東日本大震災および原発問題によりホームリバーを失い、現在は中通りに居住する。サクラマスの経験も長く、黎明期の赤川中流域を開拓した釣り人のひとりである。