イトウクラフト

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FIELDISM
Published on 2010/03/23

山夷50を持て

2009年8月21日

アングラー=菊池 久仁彦
文と写真=佐藤 英喜

釣りの前に山夷問答


 この川、普段から押しが強くて歩くのが大変だけど、今日は余計足にきそうですね。


「ちょっと水が高いからね。でも大丈夫。濁ってないし、釣りにはなるよ」


 表層の流れがすごくて、釣りづらそうだなあ。


「まあ山夷50を使って、釣り下りながら探ってみるよ。魚は入ってるはずだから」


 狙うタナが深そうなんで何となく蝦夷のタイプⅡかと。


「山夷はとにかく流れに強いからね。どんな流れでも平気で泳いでくる。今日みたいに水かさが上がってるときって、単純にいつもより流れが強いわけだし、それにもともとあった筋が壊れて、何て言うか、流れが雑になるでしょ。そういう川でもバランスを崩さずに、しっかり泳いでくれる。なお且つ、レンジを上手くキープしてくれるから、浮き上がりを抑えながら足下まできっちり誘えるのも大きなメリットだよね。特に増水気味の川では、絶対的な信頼感があるよ」


 確かに、そう聞くと山夷の性能を放っておくのはすごくもったいない。


「そう。もちろん蝦夷のタイプⅡも使うけどね」


 増水時以外も山夷は使います?


「使う使う。流れに対する強さ、泳ぎの安定性はもうバルサにかなり接近してるものだし、ほとんどシチュエーションを選ばない。例えば濁りが入ってたり、マズメ時で暗かったり、あとは狙うスポットまで距離があったり、そういうルアーが見えにくい状況でも安心して使えるよね。この安心感が、釣りをしていてすごく大きい。それと、釣り人がさほどコントロールしなくてもルアーが自動操縦で泳いでくれるから、ひと言で言って疲れない。本流の釣り場を広く探るときなんかは持って来いだよね」


 渓流のアップストリームではどうスか?


「使うよ。夕方とか、ちょっと楽したいなあってときとか(笑)」


 えっ、じゃあアクションに関しては、ホントに自動操縦なの?


「基本的にはそう。蝦夷とはまったく分けて考えてるよ」


 意外だなぁ。久仁彦さんって、どうしてもトゥイッチのイメージが強いんで。


「使い方は人それぞれだけどね、自分が山夷を使うときは、まずはルアー任せと言うか、ルアーそのものの泳ぎを生かしてやって、その泳ぎが緩慢になりかけたところをロッドアクションで補ってあげる感じ。状況によっては、ヘタなアクションが魚に嫌われることってあるでしょ? 山夷の泳ぎはそれが少ないんだよね。チェイスを引き出す能力って言うのかな、魚がナチュラルについてくる。で、さっきも言ったけどレンジを外さずに泳いでくれるから、そのまま違和感なく追わせやすい」


 でも、すーっとヤマメがミノーについてきたとして、そのあとが難しくないですか?


「難しい(笑)。腕の見せ所。自動操縦のまま食うこともあるし、トゥイッチで食わせることもあるよ。レスポンスのいいミノーだから、もちろん糸フケを叩いて、ギラギラッとヒラを打たせることもできる。そのへんは魚の動きを見ながら臨機応変に、だね。」


 なんかこれ1本で、すごく釣りの幅が広がりそうですね。


「うん。それとね、ルアー本来の泳ぎとか、魚の動きとか、流れに合わせたリーリングとか、基本っていうか、集中すべきところに集中できるでしょ。だから、釣りを覚えるのにもいいミノーだと思う。ロッドワークに夢中になり過ぎると、どうしても周りを見る余裕がなくなっちゃうしね」

尺ヤマメを読む


 実際に流れに立ちこんでみると、予想以上の水圧にびっくりした。


 高低差の少ないフラットなエリアを釣り下っていた僕らは、そこだけガクンと、川幅全体が一段掘れている場所に来ていた。水深は胸の高さほど。3g後半のシンキングミノーをフルキャストしてギリギリ届く対岸付近は、さらに深く掘れている。


 対岸のキワにタイトに着いたヤマメを川の真ん中辺りまで引っ張り出し、そこで口を使わせる。菊池はそんなイメージを描いていた。

 

クロスダウンで丁寧に釣り下っていく。対岸のキワに正確にミノーを落とし、魚をじらすようにゆっくりと流れを横切らせる

「距離もあるし、押しも強いし、対岸で無理やり食わせるよりは、ある程度ミノーを追わせて、魚を確認してから掛けた方がここはいいと思う」


 山夷50シンキングを、対岸のキワにぽとりと落とした。


 やはりロッドアクションは控えめで、主にリーリングでミノーを泳がせていく。派手に、連続してヒラを打たせるのではなく、ルアー本来の泳ぎを引き出すためのテンションをコントロールする。


 対岸のキワの深みから、すーっと白っぽい影が山夷の後ろについてきたのは2投目のこと。


「いいサイズだよ」


 ミノーとヤマメとの距離は約50cm。そのまま食う感じでもありつつ、深みに戻りたいようでもある。好奇心と警戒心の間で揺れながらも、ヤマメは川の中央まで追ってきた。


 菊池はとっさに、リーリングスピードを落とし、竿先のトゥイッチでミノーを泳がせた。明らかにアクションを切り替えると、次の瞬間、ヒュンっと加速したヤマメがそのままの勢いで山夷50を食うのが見えた。すかさずフッキングを決めると、幅広の魚体がギラッと反転した。


「チェイスしてる魚の泳ぎって、やっぱり単調ではないし、見てると加速する瞬間っていうのが分かるんだよね。そこで、違和感なく食い込ませるためのアクションを入れる。言葉で説明するのは難しいんだけど、魚をさらに興奮させるアクションとは違うんだよ」

この日、菊池が山夷50Sで釣り上げた素晴らしいヤマメ。サイズは33cm

  1. この色。見る角度を変えると、ハッとするほど鮮やかにピンクが浮かび上がる

 ネットに収まったのはこの日一番の素晴らしいヤマメ。迫力と美しさを兼ね備えた33cm。今日はこの魚が見たかったのだ。


「山夷の力で持ってきた感じだね」


 このミノーを手放せない理由がハッキリと分かった。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3/ABU
LINE Super Trout Advance 5Lb/VARIVAS
LURE Yamai 50S[YTS]/ITO.CRAFT

ANGLER


菊池 久仁彦
Kunihiko Kikuchi

イトウクラフト フィールドスタッフ

1971年岩手県生まれ、岩手県在住。細流の釣りを得意とする渓流のエキスパート。大抵の釣り人が躊躇するようなボサ川も、正確な技術を武器に軽快に釣り上っていく。以前は釣りのほとんどを山の渓流に費やしてきたが、最近は「渓流のヤマメらしさ」を備えた本流のヤマメを釣ることに情熱を燃やしている。サクラマスの釣りも比較的小規模な川を得意とする。