イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2013/05/10

尺ヤマメを釣るために

2012年7月、岩手県
文と写真=佐藤英喜

 年々高まり続ける人為的プレッシャーの中で、警戒心を強めるスレた魚を釣り上げるには、その状況に応じた「繊細さ」が求められるのは言うまでもない。例えば立ち位置ひとつを取ってみても、普段その釣り人がどんな魚を相手にしているか、釣りをどこまでシビアに捉えているかがそこに表れる。

 すでにルアーや釣り人の存在を知っているヤマメ、イワナに対して、どうアプローチするか。今時の渓流における「立ち位置」の重要性について、伊藤大祐が考えていること。



――次々と異なるポイントが現れる渓流では毎回毎回立ち位置を頭で考えるわけじゃなく、実際にはこれまでの経験によって、水深や流速、魚の着き場、スレ具合などから体が自然と反応して立ち位置は決まるものだけれど、その中でも特に重視していることは何だろう。


「いろんな要素が複雑に絡み合って一概には言えないけど、まずスレている魚が相手というのが前提なので、たとえ最初のチェイスで食わなくても、2度目、3度目のチェイスに可能性を残せる立ち位置というのは必ず考える。はじめから警戒している魚に対して、少しでも自分が優位に立てる場所だよね。ルアーを追ってきた魚がUターンしても、そこで釣り人の存在には気付かない、且つ釣り人側からは魚の動きがしっかりと見える立ち位置。もちろん、1投目ではバイトに至らないことも、Uターンさせる場所も、最初から想定してキャストするよね」



――ということは、1投目は探りのキャスト?


「うん。もし魚がスレてなければ最初のチェイスで食わせるけど、最近のプレッシャーのきつい渓流ではなかなかそうはいかないことも多いでしょ。だから、あらかじめ最初のチェイスでは食わせ切れなかったことを考えての立ち位置が大切だと思う」



――基本的に、魚のスレ具合をじかに見て釣りを組み立てるということ?


「チェイスしてきた魚のスピード感とか、ルアーとの距離を見て、そのまま食わせるのか、それとも次のキャストに勝負を持ち越すのか、より確率の高い方を瞬間的に選択する。あらかじめ想定してた食わせのスポットを過ぎたら、もうそれ以上は追わせない。魚に余計な警戒心を与えないように、追うのをあきらめさせる。もしその時に、カケアガリのすぐ手前に立ってたら、魚に気付かれて次のチェイスは望めない。魚がスレてる状況であればあるほど最初の立ち位置が重要になるし、あとは周りの岩や木と同化して、いかに無駄な動きをせずに釣るかだよね。一平じいさんのように(笑)」



――なるほど。一平じいさんがお手本か。


「そうそう。それと、毛バリ山人の石化けの術とかね。やっぱり心得として、自然の中に溶け込むっていうことが一番大事だと思うから」



――では、最初のチェイスで、魚がヤル気のない感じだった場合の対処法は?


「まず必要以上に追わせすぎないこと。そして追うのをあきらめさせる時に、へんな違和感を与えたり、ルアーを見切られたりしないように操作することを心掛ける。もちろん毎回そうするんじゃなくて、追ってきた魚が尺を超えてるなって時ね。ミノーは、ヤマメやイワナにとってやっぱり小魚だと思うから、本物の小魚らしさ、生命感というものを、食わせる時もUターンさせる時もすごく意識して操作してる。人によってはそこまで神経質にならなくても、と思うかもしれないけど、例えば、魚をUターンさせる場所に石がゴロゴロあったら、その石に沿って隙間を探すように小魚が逃げる様子を竿先の動きとリーリングで演出したり。ほんの一瞬のわずかなことでも、できるだけ『これは小魚なんだ』っていう印象を残してUターンさせたい。捕食や威嚇の対象になってる小魚の様子を思い描きながら、どうしたらそれに近づけることができるのかを考えてる。結局のところ、そういう細かいことの積み重ねが、シーズンを終えての結果を左右すると思う。自分もまだまだ未熟ですけど、これからいろんな魚と出会って、経験を重ねて、一平じいさんや毛バリ山人の境地に少しでも近付けたらいいね」



【付記】
これまでいろんな人の釣りを見させていただいて、個人的につくづく思うのはキャストやルアーの操作以前に、立ち位置ひとつにその釣り人の思考や経験が垣間見えるということ。そして深い経験を持つ熟練者ほど、その姿が川や風景に馴染んで見えるということ。川で浮いて見えないというか、周りの自然と見事に調和して見える。例えば、森の中でその辺にいるはずの野生動物を見つけることがそう簡単じゃないように、熟達した釣り人ほど気配を感じさせません。そばにいるのに気付かないこともあります。つまりその神髄が、懐かしの「石化けの術」なんでしょうね。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 33/ABU
MAIN LINE Super Trout Advance Double Cross 0.6
LEADER Trout Shock Leader 4Lb/VARIVAS
LURE Bowie 50S /ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


伊藤 大祐 Daisuke Ito


イトウクラフト スタッフ

1982年岩手県生まれ、岩手県在住。幼少期から渓流の釣りに触れる。「釣りキチ三平」の影響も大きく、エサ釣り、テンカラ、フライ、バス釣りなど様々な釣りを経験する。工業デザインやCGを学んだあと、デザイン会社での経験を経てイトウクラフトに入社。自社製品の製作を手掛けるかたわら、商品開発/試作/テスト/ウェブ/各種パッケージ/広告/カタログ/などのデザインも行なっている。