イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2010/02/22

夏の本流を駆ける

2009年7月16日・8月6日、長野県
アングラー・写真=小沢 勇人
文=佐藤 英喜

 朝。小沢勇人は釣り支度を済ませ、山並みの向こうに太陽が顔を出すのを今や遅しと待っている。今日はスーパーヤマメを狙って、とある本流に朝駆けをしていた。すぐにでもルアーを泳がせたいところだが、ここは焦らない。深く息を吸い込んで気持ちを落ち着かせた。


 本流の釣り場では特に、川の状況が把握できないまま不用意にキャストすることを小沢は避けている。なぜかというと、流れの筋、ヨレをしっかりと見て、そのポイントの一番のラインを通したいから。本流の大場所を釣るからといって雑な釣りはしないのだ。


「同じポイントでもちょっとした水量の違いで、魚の着く筋は変わってくるからね」


 空が明るくなり川の様子がハッキリと見渡せる時間になった。天気は晴れ。気持ちのいい朝だ。


 この日この朝、ここへ車を走らせたのはひとまず正解に思えた。本流は数日前に増水した流れが平水へと戻る、ほんの少し手前の状態にあった。水色は薄く濁りが残っている。


 朝イチのポイントは水通しが良く、且つ水深のある大淵。確実に大物が着くだろう大場所だ。流れ込みの筋をひとつひとつじっくりと見定めてから、小沢がミノーをキャストする。


 ロッドはEXC600ULX。本流のアマゴやヤマメを釣るうえで、この取り回しの良いロクマルが小沢にとって欠かせない存在になっている。不意にサクラマスがヒットしても、がっちりフックアップして問題なくランディングまで持ってくるトルクと、キャストやトゥイッチを渓流感覚で軽快に行える、シャープな操作性がデザインされた6フィートだ。


「30cm後半~40cmクラスの魚を釣って一番楽しいロッドだと思う。本流で、ゴーイチ感覚で振れるから、面白いし疲れないよね。それと、とにかく魚がバレない。フッキングが決まるし、溜めも利くから。でかい魚を掛けたときは特に違いが出るよ」


 ラインはナイロン5Lb。その先には蝦夷50SタイプⅡを結んでいる。それをアップクロスにキャストし、中層よりも深く沈めて、ぎらぎらとヒラを打たせる。


 5投目。そのヤマメは突然火が点いたようにミノーをチェイスし、釣り人の足下でヒットした。ギリギリのところでうまく口を使わせた。バレやすい掛かり方だが、これまたうまくロッドの溜めを生かして、暴れる魚をいなした。ネットにすくったのは38cmの、文字通りスーパーヤマメ。活性に関わらず大きい魚はやっぱり賢いと小沢は言う。そうでなければ1投目に、もっと簡単に釣れたはずだから。その5投は正確に、ぴったり同じラインを通したのだった。

朝イチの淵で、読み通りのラインからミノーをチェイスした38cm。ルアーは蝦夷50SタイプⅡ

 まだ時間がある。次に向かったのも、いかにもな大場所だった。瀬から続く流れが絞られ、1本の太い流れになっている。厚みはあるが、ルアーを横切らせる幅がない。しかも大きな岩が立ち位置を制限し、ダウンの釣りしかできない。


 ルアーケースから蝦夷50ディープを取り出した。ダウンで送り込んだミノーを、ロングリップで一気に潜らせ、底のレンジをキープしながら派手にアクションさせるための選択。


 白泡が切れる辺りに狙いを定め、潜らせたディープがそこでもっとも魅力的な泳ぎを演出するよう操作する。そうして小さなスポットを丹念に、しつこく攻めると、ロクマルにドンっと重さが乗った。またしても大物。2本目のスーパーヤマメは37cmあった。


 まだ朝の爽やかな空気が残るなか、ひとかたならぬ情熱を燃やして、ひとり黙々と川を歩き続ける釣り人のネットに、2本の素晴らしいヤマメが収まった。ポイント、タイミング、タックル、ルアー、アプローチからヒットに至るまでの過程。狙う魚へ辿り着くまでの道筋が、ハッキリと見えていた釣り人のまさに会心の2本だった。

昨年7月16日、小沢のネットに立て続けに収まった2本のスーパーヤマメ。手前が38cm、奥が37cm

 また後日。別の本流で、小沢勇人はさらにとてつもないヤマメを釣り上げていた。「いままで釣ってきたヤマメのなかで一番かもしれない」と言うその本流ヤマメは、なんと42cm。鼻が曲がり、いかつい顔をした雄だ。体高や太さにも目を見張ったが、なにより、この大きさにして鮮明に浮かんだパーマークが釣り人を興奮させた。

8月6日、別の河川で釣り上げたパーフェクトな42cm。鼻曲がりの雄。ものすごい体高だ

 釣ったのは8月6日。ルアーは翌月に発売を控えていた蝦夷50Sファースト・タイプⅡ。圧倒的な飛距離と、本流の分厚い流れを突き破る沈下速度、そして狡猾な大物に口を使わせる、ファースト特有の強烈なヒラ打ちアクションを併せ持った新型ミノーが、威力を発揮した瞬間でもあった。


「この魚は2週間位前に見つけてた。目の前で3回ジャンプしたんだよね。そのときにパーマークもばっちり見えてさ。でもルアーには反応しなくて次のタイミングを待った。釣ったのは、最初に見つけた場所よりも上流のポイントで、長いトロ瀬が終わるカケアガリ。最初、すかすかっと抜けるような前アタリがあって、それから粘ったんだけど、20投目位かなぁ。ミノーにジャレついているのか、反転したときに起きる水流によるものなのかは分からないけど、また同じ場所で、すかっとテンションが抜けた」


 咄嗟に、その場にミノーを止めるようにして竿先を激しくトゥイッチした。もう一段興奮させて、すっと送り込んだ直後、ミノーにかじり付く魚の手応えが伝わり、遠くの水中で銀色の魚体が翻った。

この何とも言えない色艶。大きさだけじゃなく、とにかく美しい魚だった

 小沢は最高の魚で夏の釣りを締めくくった。しかし彼の渓流シーズンはここから秋に向けて、さらにヒートアップする。夏の本流とは別の難しさと面白さが詰まっている秋の渓流。そこにもぞくぞくするような魚との熱い駆け引きがあったわけだが、その話はまた次回。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC600ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3/ABU
LINE Super Trout Advance Sight Edition 5Lb/VARIVAS
LURE Emishi50S Type-Ⅱ/ITO.CRAFT
Emishi50Deep/ITO.CRAFT
Emishi50S 1st Type-Ⅱ/ITO.CRAFT

ANGLER


小沢 勇人
Hayato Ozawa

イトウクラフト フィールドスタッフ

1965年長野県生まれ、長野県在住。茅野市在住のトラウトアングラー。野性の迫力を感じさせる渓流魚を追って、広大な本流域から小渓流まで、シーズンを通して釣り歩き、毎シーズン素晴らしい魚達との出会いを果たしている。地付きの魚であり、少年時代からの遊び相手であるアマゴに対してのこだわりも強い。