イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2013/04/26

増水の赤川
スプーンの威力

2012年5月、山形県

アングラー=吉川 勝利
文=佐藤 英喜
写真=大谷 武

「昔は良かった、というのは、その人間がそこで止まっているだけ」

 誰かがそんなことを言っていたが、確かにその通りだと思う。

 吉川さんの大好きな赤川の中流域も、ここ数年で随分と様変わりした。河川工事が進み、表情豊かで健康的な川の姿は徐々に失われつつあると言う。

 赤川で、僕が初めて吉川さんと会ったのは今から11年前のこと。

 周りには同志とも呼べる赤川フリークが各地から集まり、それぞれが真剣に超大物との遭遇を夢見て竿を振っていたわけだが、そのなかでも吉川さんは、当時から中流域の釣りに面白さを見い出している珍しい釣り人だった。もちろん三段堰堤を中心とした下流域もやるけれど、群れが散らばる中流域で魚を探す楽しさを、僕は吉川さんに教わった。

 赤川のサクラマスと言えば、ひたすら投げては巻く、えんえんと粘る、そんなツラいイメージばかりを抱きがちだが、吉川さんの釣りは次々と自分の読みを試すテンポの良さが楽しい。そして河原に上がればいつも笑いがある。いつだったか中流のポイントを探索しながら薮を漕いでいたとき、「うわ、これはすごいぞっ」とタラノキの群生地帯を発見して二人で大興奮したことも忘れがたい思い出のひとつだ。

「ポイントは減ったし、あのタラノキがあった林も、きれいさっぱりなくなっちゃったよ」

流れを読み、スプーンを操る。分厚い流れのボトムを探る

 それでも吉川さんは、こだわり続けてきた赤川中流域に昨年も立った。


 2012年の赤川は、「過去最低」と言われるほど全体の釣果が上がらなかった。要因としては単純にサクラマスの遡上数が圧倒的に少ないというのが大方の見解。


 吉川さんが釣行日にあてたその日は、それまでずっと高かった水位が落ちてきてタイミング的には悪くないはずだった。しかし前夜のうちに、状況は一変してしまったのである。


 朝早く、車中泊をしていた吉川さんが起き出して川を見てみると、そこには想像とは全く違う、再び水かさを増した分厚い流れが轟々と走っていた。ダムが放水したのだ。


「これは致命的かも…」


 期待していただけに、かなりショッキングな光景だった。前日の下見で5、6か所リストアップしていたポイントもすべて白紙。


 しかしガックリ肩を落としたままではいられないのだ。せっかくここまで遠征してきたのだから、自分の釣りを、出来る限りのことをしなければ。すぐに釣り支度を済ませ、車を走らせた。狙っていたトロ瀬はガンガン瀬へと変貌し、とても手が付けられない。


 下流域も含め、何とか釣りになりそうなポイントを探しながら点々と釣り歩いていた吉川さんが、とある場所で足を止めた。


 押しの強い流れがストラクチャーに当たり、トロンとした畳2枚ほどのスポットができている。ワレットから、蝦夷スプーンの21グラムを取り出した。


 軸となる武器は言うまでもなくWOOD85だが、この蝦夷スプーンも長年吉川さんのマス釣りを支えてきた絶対に欠くことのできないルアーである。


「スプーンなら、こういう押しの強い流れでもしっかりボトムを探れて、じっくり誘える。昔からマス釣りをやり込んでる人にとっては必需品だよね。雪シロが絡むシーズン初期とか、今日みたいに川が増水してるときはスプーンがないと攻め抜けない。特に蝦夷スプーンは回転しにくいし、なお且つ浮きづらい。そしてフォールでもアピールできるし、立ち上がりもいい。もちろんテールをきちんと振って泳ぐ。使い込めば使い込むほど、このバランスの絶妙さに気付くと思うよ」


 底波をドリフトさせながら、リフト&フォールで縦の誘いを織り交ぜる。わずか1投で勝負が決まった。吉川さんの操るスプーンにゴンッ!と力強くサクラマスがアタックした。


 すかさずロッドを立てアワセを入れると、カスタムのハチロクがきれいな弧を描き、水底でごんごんと頭を振るサクラのトルクをがっしり受け止めた。その引きを味わいながらそのまま太い流芯の底を引きずるように強靭なバットパワーで魚を寄せ、ネットにすくい上げた。

イトウクラフトのフィールドスタッフ吉川勝利が釣ったサクラマス
イトウクラフトのフィールドスタッフ吉川勝利が釣ったサクラマス

多くのサクラ河川を釣り歩いてきた吉川さんだが、やはり赤川は特別な川なのだ。この川で釣りたい

「困ったときのスプーン頼み。このスプーンがなかったら、本当にこの魚は獲れなかったよ。まあ、赤川のマスにしてはちょっと細いけどね(笑)」


 以前の面影が薄まりつつある赤川で、昨年も彼はサクラマスを釣った。川は変わっても釣り人が大好きな釣りに情熱を燃やし続ける限り、魚はこうして応えてくれるのだ。「昔は良かった」というのは、その人が過去のその地点で止まっているだけ。吉川さんは止まっていない。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC860MX/ITO.CRAFT
REEL LUVIAS 2506/DAIWA
LINE Super Trout Advance Big Trout 12Lb/VARIVAS
LURE Emishi Spoon 65・21g/ITO.CRAFT

ANGLER


吉川 勝利
Katsutoshi Yoshikawa

イトウクラフト フィールドスタッフ

1965年福島県生まれ、福島県在住。生まれ育った福島県浜通りの河川を舞台に、数々の大ヤマメを釣り上げてきたが、東日本大震災および原発問題によりホームリバーを失い、現在は中通りに居住する。サクラマスの経験も長く、黎明期の赤川中流域を開拓した釣り人のひとりである。