FROM FIELD
吉川 勝利
FIELDISM
Published on 2010/09/27
切り札としての50ディープ
2010年6月下旬、福島県
写真=吉川 勝利
文=丹 律章
福島県浜通りを流れる高瀬川は、大物ヤマメが釣れる川として関東にも名を轟かせる名川であり、吉川勝利のホームリバーのひとつである。
「以前に自分で紹介した記事が釣り雑誌に載ったりしたもんだから、責任は自分にもあるんだけど、10年前に比べると相当釣り人の数が増えたんだよね」
ここ数年、高瀬川を訪れる釣り人は激増した。福島県内各地から訪れる人に加え、関東圏からの釣り人も目立つという。
「高瀬っていうのは、中流域に渓相が凄くいいところがあって、その区間は3キロくらいしかない。上流でも下流でも魚は出るんだけど、この3キロに人が集中しがちなもんだから凄く混むんだよ。アユ師もエサ釣りも、ルアーマンもフライマンも集結するからね。車を停める場所がなくなるくらい」
しかし高瀬を訪れる釣り人のほとんどは、思うような釣果をあげられていないのではないかと吉川は想像する。
「なにせ激戦区だから。人が入ればそれだけで魚はすれるから。それでいて、でかいやつはフトコロの深い淵とかに溜まるから、それを攻略できなきゃ手も足も出ないんだ。ボウズで帰る人も、相当いると思うよ」
6月下旬。吉川はこの川を訪れた。狙うのは、もちろん大ヤマメである。
「ヤマメっていってもね、オレはこの川には3種類いると思っているんだ。まず1種類めは一生を川で過ごすヤマメ。パーマークがあって頭と体のバランスが取れている個体。いわゆる普通のヤマメで、これがオレの狙っているやつ。もともとサクラマスも多い川だから、山奥の渓流のヤマメに比べるとパーマークは薄めなんだけど、それでもヤマメらしいパーマークではあるんだ。2種類めはいわゆるモドリって呼ばれるやつだね。戻りヤマメともいうけど、小さいうちに海に下って、でもサクラマスのように遠くまで回遊せず、河口周辺とかそのへんをうろうろしてから川に戻ってくる個体ね。これも結構いる。そして3種類めが短期降海型っていうのかな、オレは半サクラとか勝手に呼んでいるんだけど、これは海に行くんだけど戻りともサクラとも違う個体なんだよね。春先に川の下流部にいるんだ。結構サイズが良くて尺近かったりするけど、それが、季節が進んで水温が上昇すると、ちょっとの間いなくなる。上流にいっているのかと思うとどうやらそうではなくて、海に出ているようなんだ。で、2ヶ月くらいして、8月9月になると、本能的に産卵に参加したいから、川に戻ってくるわけ。特徴としては、海で豊富なエサをたくさん食べて急激に成長するもんだから、頭とか尾びれが小さくて体がパンって太っている」
以上は、あくまでも吉川の仮説だ。
「でもね、去年の9月に46センチの半サクラを釣ったんだけど、それにシーライスが着いていたんだ。シーライスって海で着く寄生虫でしょ。しかも淡水に入ると1~2週間で落ちちゃう虫だから、つまり、それくらい前までその魚は海にいたってことの証明になる。8月に海にいるとなると、オレの仮説を強く裏付けることになると思うんだよね」
モドリにせよ半サクラにせよ、銀毛が強くてパーマークはうっすら見えたり、見えなかったり。見えるにしても、浮き気味のウロコの裏側にうっすらある感じだという。
「川で過ごす普通のヤマメとは、全然パーマークの感じが違う。やっぱりオレは川のヤマメを釣りたいと思っているんだ」
入渓する場所を考えながら車で小移動を繰り返し、川を覗いてまた移動する。何箇所めかのポイント。吉川は道路から堰堤を見下ろしていた。すると、1匹いいサイズがジャンプした。
「それが釣れそうなジャンプだったから、すぐに川に下りたんだよ」
吉川によると、ヤマメのジャンプにも釣れるものと釣れないものがあるという。
「確かめたわけじゃないけど、大体当たっているとは思っているよ。真上に飛んで尻尾から落ちるようなジャンプはまず釣れないね。遡上がらみの堰堤を越えようとするようなジャンプとかそういうの、これは難しい。逆に流れのゆるい場所で、変な方向に飛んだりするのは釣れるね。イルカみたいに半分くらい水面にモコッて出すのとか、頭からジャンプして頭から水面に落ちていくような、そういうやつも釣れる」
そのヤマメは、白泡が消えるあたりで下流に向かってジャンプした。これは釣れると吉川は判断した。
「最初はファーストのタイプⅡを投げたんだけど、堰堤下って流れが複雑で、上方向の流れっていうのもあるじゃない。あれにつかまるとタイプⅡでも沈まないから、それでディープに交換したんだ」
タイプⅡよりも下のタナを狙うために吉川は蝦夷50ディープを使い、そしてその読みはずばり的中した。
「ディープは、まず最大深度まで潜らせてやることが大切。だから、ヤマメが着いている場所より相当遠くに投げて、アクションをくわえずにぐりぐり巻いて潜らせちゃう。MAXまで潜ったら、ヤマメに近づかせながらジャークしてイレギュラーな動きをルアーに与えてやる。これはヤマメから大体3mくらい距離があった方がいいと思う。この動きでヤマメがルアーに気づくんだと思う。アピールのためのジャークでルアーは少し浮いてくるから、もう一度潜らせつつ今度はトゥイッチングを入れて、その合間に微妙な食わせのタイミングを作ってやる。この瞬間に食うことが多いね。ジャークは見せてやるアクション、トゥイッチングは食わせのための仕上げのアクション、わずかなポーズが食わせの間になる」
狙い通りの展開で、40センチのオスヤマメが吉川のネットに納まった。パーマークこそ薄めだが、モドリでも半サクラでもない川のヤマメだった。
「深く潜ることはもちろんだけど、このルアーの最大の特徴はダートとヒラウチ。多くのディープミノーは深く潜らせることばかり考えて、リップが水を掴みすぎるんじゃないのかな。そうなると、ロッドアクションを加えても抵抗を逃がしてくれないからルアーが反応しない。でも、蝦夷50ディープの場合は潜りつつも水流を逃がしてくれるようなリップ設計になっているから、ダートさせたりヒラを打たせたりできるんだ。そのロッドアクションへの追随性能が、ヤマメ釣りには必要なんだよ」
使ったロッドは5フィート1インチのULXだ。
「ディープを扱うのにULXの張りがあるシャフトが必要だっていうのは、前にも言ったと思うんだけど(本ウェブサイト「夏の終わりに」にてULXとディープの関係を解説している)、一番適したロッドは6フィートのULXだと思うんだ。なんて言うのかなあ、ディープのヒラウチのリズムと、トゥイッチを入れたときのロッドティップの返りのリズムが合うっていうか、そこが絶妙にマッチする。絶対的に優れているというわけではなく、6フィートの方が楽に扱えるっていう感じ。だから、何の制約もなければオレは6フィートのULXを選ぶんだけど、今回は場所が狭くて6フィートじゃ取り回しが大変そうだったわけ。だから立ち位置とか魚の着き場なんかを考えて、あえて5フィート1インチのULXにしたんだ」
長い間その川に通いこんだ実績と経験、的確なロッドの選択、ルアーを思い通りに操作する技術、それに加えて、臨機応変に細やかな微調整を加える応用の瞬発力。これら総合力が大ヤマメの釣りには必要になる。僅かなトレースラインの違いやタナの相異、ルアーに与える動きの差を、釣り人がどれだけの慎重さで感じ、見ることができるか。大ヤマメを手にできるかどうかは、そこに掛かっている。
TACKLE DATA
ROD | Expert Custom EXC510ULX/ITO.CRAFT |
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REEL | Cardinal 3/ABU |
LINE | Super Trout Advance Sight Edition 5Lb/VARIVAS |
LURE | Emishi 50 Deep[BS]/ITO.CRAFT |
LANDING NET | North Buck/ITO.CRAFT |
ANGLER
1965年福島県生まれ、福島県在住。生まれ育った福島県浜通りの河川を舞台に、数々の大ヤマメを釣り上げてきたが、東日本大震災および原発問題によりホームリバーを失い、現在は中通りに居住する。サクラマスの経験も長く、黎明期の赤川中流域を開拓した釣り人のひとりである。