イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

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FIELDISM
Published on 2014/05/16

今しか釣れない魚

2013年8月初旬、岩手県
文と写真=佐藤英喜

 2013年7月初旬、ガチリと季節の歯車が回った。

 梅雨入りしても雨が少なく深刻な渇水状態に陥っていた川が、一転、ようやく降り始めた雨によって激しく増水を繰り返し、時に手がつけられないほど暴れ出した。


 スーパーヤマメ的にまだまだ序盤戦と言える時期だが、伊藤大祐は様々な釣り場へ足を伸ばし、ヤマメの反応を確かめていた。

「そう大きなヤマメが狙える時期ではないし、釣りとしては『探り』の意味も大きいよね。ポイントの状況とか魚の着き方とか、やっぱり前の年とは変わってることも多いから、そこで得た感覚的な情報をシーズン後半の釣りに生かしたい。そんなことを考えながら、もちろん、今しか釣れない魚を狙っていく」

 


 7月中旬、山はぱんぱんに雨水を含み、雨が降った分だけそのまま川に水が出る、という状態が続いていた。多くの川が強烈な増水と濁りに見舞われた週末、何とか釣りになりそうな場所を探しながら車を走らせていた大祐が、とある川に辿り着く。

 そこは押しの強い本流筋で、増水はしているものの濁りはなくクリアな水が走っている。

 初めての川ではないが、以前に来た時からはだいぶ渓相が変わっていた。

 テンポよくポイントを見て回ると、はっとする場所が現れた。

「周りの状況を見渡しても、ここには絶対にいるだろうって確信できるポイントだった」

 ところがその時、大祐は、一投もせずにそのポイントを離れたのである。

 言うなれば自分の読みに自信があったからこそルアーを投げなかった。なぜか?

「立ち位置の問題だよね。その流れに入ってるヤマメを釣り上げるには、どうしてもサイドの立ち位置を取りたかった。でもこの時はまだ水が高くて、そこには行けない。せいぜい立てるのはアップストリームの立ち位置だけ。無理矢理アップで追わせても、食わせ切れずに魚をスレさせるだけか、たとえバイトに持ち込めたとしてもバレるリスクが高かった」

 いいポイントなだけに、そこでギャンブル的なトライはしたくなかったのだ。



 ふたたび大祐がこの川に立ったのは2週間後のこと。時間の都合と川の様子との兼ね合いで、結果的に2週間の間隔が空いた。

 すぐさま例のポイントへ向かう。まだ平水時より水は高いが、前回立てなかった理想のサイドの立ち位置は何とか取ることができた。

「流れの押しは強いけど、このスポットを狙うにはちょうどいいくらい」

 ちょうど正面の対岸際にボウイ50Sを着水させた。流れに送り込み、ダウンクロスの角度で止め、ヒラを打たせる。まさにその場所にスーパーヤマメがいると大祐は直感したのだ。

 5、6投しても何ら反応はないが、攻める気持ちは揺るがない。

 突然、透き通った流れの中層でギラリと幅広の魚体がひるがえった。釣り人の素早いアワセ、絞り込まれるロッド。すべてが同時に目に映った。ラインが水面に一直線に突き刺さり、ヒットした位置で持ちこたえながら、流れの押しで倍加するスーパーヤマメの強烈な引きをベリーとバットのトルクで抑え込んでいる。見るからにいいサイズだが、余計な時間は掛けずタイミングを見計らって魚を下らせると、同時にスムーズに岸に寄せ、ネットの中に一発で滑り込ませた。

 本格的な夏が訪れる前、シーズン上半期のハイライト。大祐が釣り上げたのは、速い流れに鍛えられた筋肉質で太い35cmのヤマメ。固く引き締まったボディの見事な体高と厚みにほれぼれ見とれた。

 流れに帰すとヤマメは、まばたきする間もなく深みへと消えていった。


 日々変化する川と魚、季節の歯車、釣り人の読み、道具と技術。その時、その場所で、すべてのピースがぴたりとハマった。いい魚とは、こうして釣られるものなのだ。

「相手は自然だからね。何かが噛み合ってないのに釣りたい気持ちだけでがむしゃらに進めても、せっかくあった可能性を自ら失うことにも繋がりかねない。それと、釣りをしていてこれはヤバイなって感じるのは、その魚が自分の釣りにスレている時。シーズン終盤はまた話が違うけど、この時期は常に余裕を残した釣りをしてる。相手の出方をうかがいつつ、チャンスを後に残しながらの勝負。どんな時もマックスの誘い、ではないよね。そのために、ボウイには次から次へと誘いをギアチェンジできる性能があるし、それを操作する釣り人も、常に多彩なギアを隠し持っていなければいけないと思う」




【付記】
ボウイ50Sの性能について伊藤大祐は、「もともとピーキーなルアーじゃなく、アップでもサイドでもダウンでも高いパフォーマンスを引き出しやすい設計」と言っていますが、確かに年々シビアになっていく状況の中、多種多様なフィールドでこれほどオールマイティに活躍しているルアーも類を見ないと思います。理屈を抜きにしても実績がそれを証明しています。
しかし今回のような本流釣行を繰り返す内に、「さらに本流用として特化したボウイも欲しいな」という思いが作り手の中に生まれているようです。発売時期は未定ですが、今シーズン中にはプロトを作り上げてテストする予定だそう。乞うご期待。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510PUL/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 33/ABU
TUNE UP Mountain Custom CX /ITO.CRAFT
LINE Cast Away PE 0.6/SUNLINE
LEADER Trout Shock Leader 5Lb/VARIVAS
LURE Bowie 50S/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


伊藤 大祐 Daisuke Ito


イトウクラフト スタッフ

1982年岩手県生まれ、岩手県在住。幼少期から渓流の釣りに触れる。「釣りキチ三平」の影響も大きく、エサ釣り、テンカラ、フライ、バス釣りなど様々な釣りを経験する。工業デザインやCGを学んだあと、デザイン会社での経験を経てイトウクラフトに入社。自社製品の製作を手掛けるかたわら、商品開発/試作/テスト/ウェブ/各種パッケージ/広告/カタログ/などのデザインも行なっている。