イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2012/07/02

ボウイ50S最終プロトと大ヤマメ

2011年9月、岩手県
文と写真=佐藤英喜

 これまで使い込んできたプラスチックミノーのメリットとデメリットを、伊藤大祐は自分が作っているものだからこそ深く知り抜いている。作り手として、そしてまた使い手として、さらに上の次元のミノーを思い描くようになったのは言わば必然のことだった。

「今まで製作してきたプラ製ミノーの有効性を、バルサ素材の特性を生かすことでさらに強調し、一方でその欠点を打ち消す、そんな夢のようなミノーを作りたくなった」

 それが、ボウイ50Sの製作に着手した理由であり、作り手と使い手、2つの視点が生み出した新たな性能がボウイ50Sには宿っている。

 まさしく夢の性能を可能にしたのはバルサ素材の優位性だけでなく、それを生かしきるボディ形状、リップ、ウエイト、アイの位置、それら全てを巡るセッティングの試行錯誤だった。そうしてひとつの理想形へと辿り着くことができた背景には、イトウクラフトのモノ作りを取り巻く環境の素晴らしさがあった。雫石という東北の中でも目立って豊かな水脈の走る土地に仕事場があり、ふとアイディアが浮かべば即座に川で試すことができる。

「川にテストに行って、現場でリップを削ったり、角度を変えたり、アイの位置を微調整したり。すぐ近くにフィールドがあるからこそ、のモノ作りですね」

 様々なシチュエーションを持ついくつもの川と、そこに棲むシビアな魚が道具の性能をどんどん磨き込んでいく。あえて多くの釣り人に攻められている川で、警戒心の強い魚を相手に答えを求める。この超の付く現場主義が、ボウイ50Sを完成へと導いていった。


 細かな設定の違いを含めればプロトは他にも沢山あったが、プロト「3号機」ができあがったのは、2011年の渓流シーズン終了間際のこと。ウエイトは3.9グラム。プロトとは言え、この段階でほぼ完成形に近いところまで来ていた。

 その日の川は見るからに増水しており、表層の流れがだいぶ強まっていた。

 流れの太さと押しを見れば、クロス気味にミノーを入れて少しでもルアーをアピールする時間を稼ぎたいところだが、あいにくそのポイントは両岸が切り立っているため、ほぼ完全なアップストリームで誘わなければならなかった。

 平水時でも長さのある淵なのだが増水している分、淵尻のカケアガリ部分が余計に長くなっている。つまり、魚を警戒させない立ち位置から淵頭までは距離があり、使うルアーには当然飛距離が求められる。ちなみにヤマメは淵頭付近にもいるかもしれないが、大祐が思い描いていた本命のスポットは淵尻の、川底がちょうどカケアガっていく所だった。

 後ろから見ていて厳しい距離に思えたけれど、ULXのブランクを綺麗にしならせ、びゅん!っとミノーを弾き飛ばすとボウイ50Sは初速のあるシャープな弾道を描いて淵頭の白泡にピタリと着水した。

 ボウイ50Sは一目瞭然のきれいな飛行姿勢と、空気抵抗を考慮したフォルムが、バルサ素材であることを忘れさせる鋭い弾道と驚異的な遠投性能を生み出しているのだ。加えて、その効果としてピンスポットへのコントロール性も高めている。とにかく飛ぶし狙った所に決めやすいから、キャスト自体が楽しくてしょうがないといった様子が強く伝わってくる。張りの強いカスタムのULXではバルサのキャストにストレスを感じていた人も、きっとボウイ50Sの場合はそれが全くなくなっていることに気づくはずである。開発に当たり、大祐が強くこだわった点のひとつがこの快適なキャストフィールだった。

「泳ぎを犠牲にせずに、理想としていた飛行姿勢を扁平ボディのバルサミノーでようやく実現できた」

 そして気になる泳ぎについては、まず、派手にアクションしながらも非常に浮きづらい設定がボウイ50Sには施されている。普通ミノーは、流れや操作の仕方にもよるけれど連続したトゥイッチによってアクションしながら水面方向へと浮いてきやすいものだが、ボウイ50Sは絶妙にそのレンジをキープする。もちろん、単にリップの抵抗を強くして「潜らせる」のではなく、ボディフォルムやウエイトバランスなど全体のセッティングによって、意図したレンジから抜けることなくアクションさせることが可能になっているのである。

 さらに、トゥイッチをかけた時のヒラ打ちに関して、ボウイ50Sの大きな性能として挙げられるのが、バルサミノーの中でも抜きん出て泳ぎのピッチが細かく、より多くのヒラを打たせることができる点だ。それだけ泳ぎの「間」を魚に見切られにくいと言えるし、何より釣り人の操作によって様々なヒラ打ちを演出することができ、誘いのバリエーションも間違いなく広がった。

「言ってみれば、オートマじゃなく、マニュアル。ロッドの角度や振り幅、トゥイッチの強さ、リズムによって、いろんなヒラを打たせられる。だから、スレたヤマメのその時の気持ちに合わせて、より緻密に誘いを組み立てることができます」


 ではこの日、大祐はこのボウイ50Sを使ってどんな誘いをかけ、ヤマメを釣ったのか。

 淵頭の白泡にミノーを着水させると、ロッドを立て気味にしてトゥイッチをかけ、ミノーが左右へよりワイドに激しくヒラを打つよう操作した。

 そしてミノーが淵の真ん中辺りに差し掛かった所で、トゥイッチのパターンを変えた。

「追ってきた魚に食わせるイメージもあって、動きの支点を保った細かいヒラ打ちに切り替えました。ちょうどカケアガリが始まる所でフワっと魚影が反転して、そのまま振り向きざまに食ったね」

 ボウイ50Sにアタックしたデカいヤマメが、一気に流れを下って足元に急接近し、通り過ぎたところをロッドのバットパワーで溜めると、水面でゴボゴボと重々しい水しぶきが上がった。その抵抗も難なくいなしネットに収めたのは、41㎝の見事な雄ヤマメだった。

 薄っすらと婚姻色をまとったつやつやの魚体に、青いパーマークが美しく光った。

「シーズン終了間際に、完成形に近づいたプロトでいいヤマメが釣れて嬉しかった。ただ、細かい話をすると課題も見つかって、浮力の高いバルサ特有の、川底の複雑な水流を舐めるような水馴染みを、もっとナチュラルにしたい。そのためには、リップの形状、位置、角度をもう少し煮詰めないといけないなと思いました。いずれにせよこのプロトで、ボウイ50Sの完成形がはっきりと見えました」

 2012年9月発売予定のボウイ50S、渓流ルアーマン待望の性能を詰め込んだ新たなバルサミノーで、より多くの釣り人にぜひミノーイングの奥深い楽しさにどっぷりと浸かってほしい。



【付記】
遂に完成したボウイ50Sをフィールドで思う存分使える日がとても待ち遠しい今日この頃ですが、実はさらに、より小渓流の釣りに特化したモデルと、より川幅のある本流を攻め抜くためのモデルもすでに構想としてあるらしく、そちらのテストも少しずつ進めているそう。ニューバルサミノー、ボウイの今後の展開に要注目です。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510ULX /ITO.CRAFT
REEL Cardinal 33 /ABU
LINE Super Trout Advance VEP 5Lb /VARIVAS
LURE Bowie 50S prototype/ITO.CRAFT /ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


伊藤 大祐 Daisuke Ito


イトウクラフト スタッフ

1982年岩手県生まれ、岩手県在住。幼少期から渓流の釣りに触れる。「釣りキチ三平」の影響も大きく、エサ釣り、テンカラ、フライ、バス釣りなど様々な釣りを経験する。工業デザインやCGを学んだあと、デザイン会社での経験を経てイトウクラフトに入社。自社製品の製作を手掛けるかたわら、商品開発/試作/テスト/ウェブ/各種パッケージ/広告/カタログ/などのデザインも行なっている。