イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2012/07/04

ボウイ50S
インプレッション

2011年9月、岩手県
アングラー=伊藤 秀輝
文と写真=佐藤 英喜

 昨年、伊藤秀輝の渓流シーズン終盤戦は、ボウイ50Sのプロトモデルと共にあった。伊藤はこの新しいバルサミノーにどんな性能を感じたのだろう。


 はじめに、ボウイ50Sの大きな特長のひとつである飛距離について話を聞いた。


「まず、同じ5㎝のバルサ蝦夷と比べて、キャストにぜんぜんストレスがない。ボウイのプロトの方が0.4g位重くなっているけど、その重量の差でだいぶ飛距離は違ってくるし、何よりボウイは飛行姿勢がすごくいい。この飛行姿勢の良さっていうのは、釣りをする上で沢山のメリットを生むんだよ。ラインの放出スピードが速まって、後半が伸びる。だからサミングのタイミングも取りやすいし、ライントラブルもない。着水からの立ち上がりも良くなる。もちろん風の影響を抑えることもできる。ショートレンジのピンスポットキャストからマックスの力で投げるロングキャストまで、狙った通りの弾道できれいに飛ばせるよ。それにちょっと細かい話をすれば、従来のバルサでは特に中途半端な距離を打つ時、6~7割のパワーで投げる距離で、コントロール性がシビアというか、気の抜けない部分があったんだ。ロッドがULXであればなおさらそう。その点ボウイ50Sはどの距離でも、面白いくらいにキャストが決まる」

 伊藤のキャスティング技術の高さは言うまでもないが、その飛距離や精度をより高めてくれるのがルアーやロッドの性能であり、ボウイ50Sはこれまでのバルサミノーにはない非常に高いキャスタビリティを備えているのだ。これは誰にとっても、間違いなく大きな武器になる。


「そしてボウイ50Sは、これだけのキャスティング性能を持ちながら、泳ぎの面でのバルサの良さ、ハイレスポンスな動きを十分に生かせるセッティングになってる」


 単純に飛距離だけを求めれば、重量を増しウエイトの重心をボディ後方へ持っていけば話は解決するのだけど、それでは狙った泳ぎ、アクションが死んでしまう。その点についても、ボウイ50Sはとてもシビアなバランスを克服している。


「使った印象としては、泳ぎの『キレ』の部分を多く持たせているから、どんな流れにも対応できる。アップストリームはもちろん、速い流れをサイドやダウンで攻めるのにも使いやすい。一般的にはアップや止水でのデッドスローを優先すると、リップが水を噛み過ぎてサイド、ダウンでは浮きやすくなるものだけど、それを抑えつつ、ルアーを『キレ』で泳がせている効果として、トゥイッチをかけるとさらにヒラ打ちの展開に持っていきやすい。もう、いくらでもヒラを打たせられるよ。使っててこれは本当に面白い。ワントレースの中に食わせのタイミングを他のルアーより多く入れられるし、魚のツボを刺激するのにも手数が掛からない。例えば、今まで口を使わせるのに6投してたところが3投で決まるとか。より早く魚の闘争心を引き出すことができる。ということはね、それだけ釣り人が大事な場面でミスをする確率も減るんだよ。レンジの面でも、流れの強い所で連続してヒラを打たせる時はルアーの浮き上がりを気にするものだけど、ボウイはそれがないから魚にしっかり集中できる。バルサミノーならではの安定感もあるし、釣り人の操れる範囲も広くなっている。車で言えば、ストレートも速い、コーナーも速い、タイトなワイディングならもっと速い。そんな車に乗ったら面白いに決まってるし、一度このルアーを使ったら、もう手放せないな」


 昨年秋、伊藤はボウイ50Sによって素晴らしいヤマメを数本手にしているが、ここに紹介している写真のヤマメもその内の一尾だ。少しずつ空気が秋っぽくなってきた岩手の渓谷、その日は減水気味のクリアウォーターに強い日射しが差し込んでいた。


 そこそこ規模のある淵で、アップクロスで誘いを掛けていると3投目に、そのヤマメは現れた。


「見た時は40cmあるかなと思った。ただ、一応ミノーを追ってはきたけど、横にも縦にも距離が開いてた。ルアーの40cmくらい下の層をチェイスしてきたよね。どう見てもそのまま食う感じではないし、この立ち位置では厳しいなと」


 完全に追い切る前にそのヤマメを元の着き場へと戻し、伊藤は少し上流へ回り込み、サイドクロスでボウイ50Sを静かに投げ入れた。(補足しておくと、このクリアな淵で始めからサイドの立ち位置を取ることは魚に気づかれるリスクが高かったのだ)


 決着がついたのは、立ち位置を変えて5投目のこと。


 サイドからのヒラ打ちでミノーのボディを大きく倒しながらアピールさせると、流芯に入る手前辺りで、ギラァッと身をよじり興奮するヤマメが見えた。そして流芯のど真ん中で、ドスンっ!と来た。赤みを帯びた大きなヤマメが中層で、ごねっ、ごねっ、ごねっ、と身体をひねる。大型ヤマメ特有のファイトだ。バットパワーを使ってアワセを決めた伊藤のロッドが力強く絞り込まれた。


「これまでの経験から言うと、他のルアーだったら食わせるまでにもっと時間が掛かってたのは間違いないし、流芯の真ん中じゃなく、手前まで魚が寄って来た所で食わせのタイミングが一回あるかないか、という紙一重の勝負だったと思う」

 完璧なコンディションを誇る極太の39cmが、伊藤のネットに収まった。

 伊藤に限らず、今やほとんど全てのフィールドで、「スレた魚をいかにして釣るか」ということが大きなテーマとなっている。


「現在市場にはたくさんの扁平ミノーがあるけど、引きやすさと安定感を優先してか、トゥイッチしても角度の浅いヒラしか打たないし、ヒラを打つまでのタイムラグと引く距離を必要とするセッティングが多い。それでは扁平ボディの特長を生かしきれていないと思うんだ。当然そのようなセッティングでは、トゥイッチしながらラインを巻き取る量が多くなるし、その分ミノーがどんどん魚から離れていってしまう。何より誘いのギアが致命的に少ないから、ヒラ打ちもワンパターンなものにしかならない。自分の釣果にしたら今の半分以下になるんじゃないかな。やっぱり自分の引き出しにある技をルアーが次々と演出してくれるからこそ釣れるんだよ。ボウイ50Sは、使ってもらえば分かると思うけど誘いのギアがすごく多い。だからポイントや魚の様子に合わせてヒラ打ちを多段階にシフトチェンジできる。釣果を上げる意味でも、釣りを楽しむ意味でも、そして腕をより上達させる意味でも、ボウイの性能はとてつもなく大きな役割を果たすと思うよ」

  1. 静かに釣りをする伊藤の背後でカサカサッとすばしっこく動く小さなものが…。よく見ると、可愛らしいリスが枝の上で木の実を頬張っていた

【付記】

ヤマメの棲むフィールドは、止まることなく変化し続けています。僕ら釣り人にとっては、ほとんどのことがマイナスの方向へと加速度的に変わっています。いいヤマメを手にすることがどんどん難しくなっている。それは事実だと思います。その最も大きな要因は僕ら自身による人為的プレッシャー。その壁を越え続けるために、道具の進化が、ボウイ50Sがあります。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3/ABU
LINE Super Trout Advance VEP 5Lb/VARIVAS
LURE Bowie 50S proto model/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


伊藤 秀輝 Hideki Ito


1959年岩手県生まれ、岩手県在住。「ルアーフリーク」「トラウティスト」などのトラウト雑誌を通じてルアーフィッシングの可能性を提案してきたルアーアングラー。サクラマスや本流のスーパーヤマメを狙う釣りも好むが、自身の釣りの核をなしているのは山岳渓流のヤマメ釣りで、野性の美しさを凝縮した在来の渓流魚と、それを育んだ東北の厳しい自然に魅せられている。魚だけでなく、山菜やキノコ、高山植物など山の事情全般に詳しい。
2023年12月6日、逝去。享年65歳。