イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2013/03/28

ボウイ50Sとスプーンの関係

2012年6月、岩手県
文と写真=佐藤英喜

「アップストリーム『専用』ではなく、言ってみればオールラウンダーです」

 そう伊藤大祐が言うように、ボウイ50Sにはフィールドで出会う多種多様なシチュエーションを幅広くカバーするための性能が与えられている。これひとつでストレスなく快適に渓流を釣り上がっていくことができる、そこに開発コンセプトがあった。

 立ち上がりが早く、アップストリームで自在にヒラ打ちを決められ、そのいっぽうで押しの強い流れをクロス~ダウンの釣りで探る時もバランスを崩すことなく、効果的な誘いをいくつも演出できる「パターンの豊富さ」がボウイ50Sの絶対的な武器だ。

「いろんな使い方ができる分、アイディアと操作でどんどん引き出しの数が増えていく」

 流れやポイントの状況、魚の着き場、活性、スレ具合、それらによって有効なアプローチは細かく変化する。アップが良い時もあればダウンが効く時もある。プレッシャーの高いシビアなフィールドでこそ、その正解を臨機応変に導き出せるかどうかが魚と出会う鍵となる。


 例えば、昨年の6月。僕らは山間の渓谷を釣り上がっていた。

 全体に流れの押しが強く、川の中を遡行すると水の重さが両足を圧迫した。所々にあるちょっとしたタルミや小さな淵を丁寧に拾うように釣っていく。

 一際大きな岩が川底に沈んでいた。岩にぶつかった流れが白泡を立て、いったん底に潜りこんだ流れが複雑に巻き上がっている。大祐がまずはアップクロスでその白泡にボウイ50Sを通し、出来る限りのスローなトレースと細かいヒラ打ちで誘いを掛けると、ぐわっと大きな魚が反転した。明らかにいいサイズのイワナだが、バイトには至らなかった。思わず反応しただけ、といった感じだった。

 河原を静かに後ずさりしてきた大祐が、ぐるっと大きく回り込むようにして、今度はダウンクロスの位置に立った。

 この押しの強い流れでアップクロスの角度のまま例えミノーを追わせたとしても、あの大きなイワナでは食い損ねる危険性があった。俊敏なヤマメと違い、大きなイワナほど小回りが利かない。だから万全を期して、より長くルアーを留めておける立ち位置をとった。

 ダウンクロスから、イワナの視界の中で派手にヒラを打たせて挑発する。

 そして一瞬、イワナの目の前にスッとミノーを送り込んだ。目の前、というのはあくまでイメージに過ぎないけれど、魚の居場所は見当が付いている。

 ここで注目すべきは、ボウイ50Sのフォール姿勢だ。

 キャストの際、きれいな弾道を生み出し飛距離を稼ぐために、ボウイ50Sは後方寄りのウエイト配置がなされているが、言うまでもなくこの後方重心はフォール時の姿勢を考慮したものでもある。細かく言えばラインテンションの操作次第で微妙に変わってくるのだが、基本的には尻下がりに落ちることで、一瞬の送り込みを思い通りに演出することが可能だ。またライン操作によって、フォールさせながら背中を揺らすような誘いもボウイならできる。

 ドンッと魚の重みがロッドにのし掛かり、間髪入れずアワセを決めると白泡の中にラインが突き刺さった。ヒットしたイワナは流れに乗りながら、ごんごんと頭を振って抵抗したが、大祐は慌てることなく魚との間合いを徐々に詰め、危なげなく魚をネットに滑り込ませた。

 撮影のために流れの弱い浅瀬に移動してネットの中の魚を見てみると、獰猛な爬虫類を思わせる、いかつい雄のイワナが荒い呼吸を必死に整えていた。サイズは45cm。野性味溢れるイワナだ。


 今回はダウンクロスで、ハイアピールなヒラ打ちからの一瞬の送り込みでイワナをバイトに持ち込んだわけだが、さかのぼるとその背景には、渓流のルアーフィッシングに夢中になり始めた頃のまさに原点とも言える、スプーンの釣りがあった。

 小学6年生の頃、当時は渓流釣りと言えばスプーンだったし、伊藤秀輝に連れられて、岩手の稗貫川で生涯初の尺ヤマメを釣り上げたのも、5グラムのクルセイダーだった。

 キャストしたクルセイダーを、ほとんど糸フケを巻き取るだけのリーリングで流し込む。見よう見真似でスプーンをドリフトさせた。しかし、30分もすると、同じ作業の繰り返しにさすがに飽きてきた。そこで時折、ロッドをしゃくってアクションを加えてみた。スプーンを跳ね上げ、落とし込む。その時だ。それまで何も起きなかった淵で、ヒラッと目の前に落ちてきたスプーンを尺ヤマメが食ったのだ。

「あの時の光景とか感動は、今でも鮮明に覚えてるね。懐かしいな」

 そう振り返るスプーンの釣りの経験が、ボウイ50Sの性能にも生かされている。

「縦の動きを含んだ立体的な誘いの有効性は絶対に取り入れたかった。だからボウイのセッティングに際して、フォール時の姿勢やスピードにはすごくこだわったんです」

 その結果、ボウイ50Sの演じる誘いの幅はぐっと広がった。状況に応じたさまざまな使い方で、高いパフォーマンスを発揮するミノーに仕上がった。

 使い込むほどに楽しさの増すボウイ50Sが、2年目を迎える今シーズンもきっと渓流釣りをますます面白くしてくれる。

【付記】
「ルアーを始める前はエサ釣りと毛バリをやっていて、小6の時にルアーを始めたんですけど、その頃使ってたのは釣具屋さんのワゴンセールの薄っぺらい100円スプーンがほとんど。なので、たまに社長からもらうクルセイダーは、自分の中ではもう宝物に近い高級品。クルセイダーっていう名前の響きもカッコ良かったし、大事に使ってました。でも、社長のワレットをのぞいてみると、さらに高価な、確かクルセイダーの2倍くらいの値段がしたバイトやマスターが並んでて、それは本当に輝いて見えました。大人への憬れでしたね」 伊藤大祐

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 33/ABU
LINE Super Trout Advance VEP 5Lb/VARIVAS
LURE Bowie 50S prototype/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


伊藤 大祐 Daisuke Ito


イトウクラフト スタッフ

1982年岩手県生まれ、岩手県在住。幼少期から渓流の釣りに触れる。「釣りキチ三平」の影響も大きく、エサ釣り、テンカラ、フライ、バス釣りなど様々な釣りを経験する。工業デザインやCGを学んだあと、デザイン会社での経験を経てイトウクラフトに入社。自社製品の製作を手掛けるかたわら、商品開発/試作/テスト/ウェブ/各種パッケージ/広告/カタログ/などのデザインも行なっている。