イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2013/07/26

ボウイと4つの場面

2012年夏秋、岩手県および隣県
文=佐藤英喜

 美しい渓流を歩き、そこに棲むヤマメやイワナを釣ることはそれだけで心満たされる素晴らしい楽しみであると同時に、道具の作り手にとってはその性能や有効性が現場の魚達にいかに発揮されるのかを、改めて、徹底的に確認する場でもあるのだ。伊藤大祐とボウイ50S、昨シーズンの4つの場面を振り返ってみよう。



「葦の川の尺ヤマメ」


 じっとしているだけで汗が噴き出す厳しい残暑が続いていた9月のある週末。背丈を越える葦が川の両岸を覆う渇水の渓を、アップストリームで釣り上がっていく。

 流れの当たる葦のキワなど、小さなポイントを手返しよく探りながら、ここはいいヤマメが入っているなと確信めいたものを感じたのは、この川にしてはやや広い瀬が一気に狭まって、その流れが一本にまとまる絞り。立ち位置から絞りまでは8mほどの微妙な距離があったが、飛行姿勢が安定し、綺麗な弾道でしっかりとピンスポットにコントロールできるのもボウイの強みだ。

「しばらく粘ったけど、うんともすんとも言わない。小型のヤマメすら姿を現さない。でも、ここにいないわけがないなって。納得がいかなくて、さらに粘った」

 流れの押しが強いので流芯にラインを乗せないよう操作しながら、キワのヨレの中で出来る限り長く、スローにミノーをキープさせつつヒラを打たせる。その絞りにはやはり尺上のヤマメが入っていて、何度も目の前に現れるミノーのきらめきに我慢できず、ついにチェイスを始めた。スレて警戒しているのか様子をうかがうようにゆっくり足下近くまで追ってきて、ようやく最後のターンで口を使った。

「正直、もっと大きかったら良かったけど(笑)。でも薄っすらと婚姻色を浮かべた雄のヤマメで、このサイズにしては顔付きが険しくてカッコ良かったね」




「ドリフト」


 川幅にして10m位の、やや広めの渓流。石がゴロゴロと入った瀬で釣れた尺ヤマメだ。釣り方的には岩と岩のあいだの筋にアップクロスでボウイをキャストし、ドリフトさせながら縦に流して魚を誘う。ラインを流れに引っ張られないようロッドを立てながら、またロッドアクションが直に伝わりやすいぶんオーバーにならないよう、より繊細にトゥイッチをかける。そうしたドリフトの釣りでも自在にヒラを打たせられるセッティングがボウイに施されている。

「リップやボディ形状もあるけど、一番重要だったのはウェイトの設定。この時は10投くらいしてヒットしたね。バイトの瞬間は見えなくて、流れの中でドンッと来た。太陽の光が差し込んだ状態で撮影したかったな、というのがちょっと心残り」

 流れに乗せながらレンジをキープし、なお且つ小さなトゥイッチ幅で機敏に反応してアクションを起こす軽快なレスポンス性能が生きた場面。渇水の続く川にあって十分に太さを維持した尺ヤマメが、ミノーをくわえた。




「ヤマメの目」


 この尺ヤマメが釣れた時は、ちょっと微笑ましい気分になった。ヤマメの顔、というか目が、とても個性的だったのだ。

「秋になって目が鋭さを増していく他のヤマメとは対照的な感じで、何て言うか、まつげを付けてるみたいに可愛らしかった(笑)」

 渇水によりだいぶ規模の小さくなった淵で、底のほうにポツンと一匹だけこのヤマメが見えた。透明度が高く、流れもほとんど効いていないぶん、不用意に警戒心をあおらないようミスなく一投で釣ることを考えた。正確にミノーを送り込み、まずはハードなトゥイッチでギランッ!ギランッ!と大きくヒラを打たせるとヤマメがミノーに反応し始め、そこから徐々にアクションを変化させていき小刻みなヒラ打ちに切り換えると、淵の終わりに差し掛かったところで回り込むようにしてバイトした。

「特にこういう流れのクリアな淵では、操作してるミノーの動きと、それに対する魚の反応がつぶさに見て取れる。ヒットまでの一部始終を観察できる。これがやっぱり面白い」

 そしてネットに収まったヤマメは、早くルアーを外してくれる?とでも言いたげに愛くるしい眼差しで釣り人を見上げるのだった。




「ダウンストリーム」


 そこは以前、いいサイズのヤマメを釣ったことのあるポイントで、もちろん今回もヤマメを狙っての釣行だった。

 岩盤を勢いよく洗う押しの強い流れの中に、魚の着き場を見極め、そのピンスポットを信じて攻め抜くことができるか。これが大事だった。下流へキャストしたミノーをそこで止めて、岩盤のエグレに着いている魚の鼻っ面で誘う。複雑で強い流れがどんどんぶつかってくるダウンの釣りでも安定してアクションを刻み、意図せずダートしない操縦性がこの場面で使うミノーには求められる。

「見た目に派手な動きのある釣りじゃないけど、魚がヒットした時は他の釣り方とはまた違った満足感があるんだよね。単純に『釣れた』というより、『そこに魚がいた』という喜びが大きいと思う。着き場を読んで、それを信じて、その通りに釣れるとその日の釣りのリズムも良くなる。この時はちょっと狙いと違ったけど(笑)」

 その日、その岩盤のエグレに入っていたのは軽く40センチを超える立派なイワナだった。ボウイの鋭いレスポンスと複雑な流れの中での安定性を両立させた性能、それをこのダウンの釣りで改めて実感することができた。




作り手のコメント=伊藤大祐

 2011年シーズンからナイロンラインだけじゃなく、ボウイとPEラインの組み合わせもいろんな状況で試してきました。今回の4つの場面で特に印象に残っているのはドリフトの釣りで、それはもともとドリフトで釣るのが個人的にすごく好きだっていうのもあるんですけど、PEのほうがボウイのフォールスピードをより速められるし、ロッドを立てながらレンジをキープして、竿先の小さな操作でより繊細にヒラを打たせられる。それまではずっとナイロンラインでドリフトの釣りをやってきたわけですけど、PEは誘いの精度を高めてくれる。ドリフトの釣りで思い通りの誘い・アクションを演出できるというのはボウイの大きな特長ですけど、PEラインはその部分の性能をさらに引き出しやすいと思います。

 そしてボウイに関しては、昨年、あのシーズン終盤の厳しい状況でリリースしたにも関わらずユーザーの皆さんからたくさんの素晴らしい釣果をご投稿いただき、作り手として本当に嬉しかったです。苦労はしましたけどその全てが報われて、悩んだ甲斐があったなあとしみじみ思いました。これからも、イトウクラフトらしいオリジナリティに溢れたモノ作りを続けていきたいと思います。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 33/ABU
LINE Super Trout Advance Double Cross 0.6/VARIVAS
LEADER Trout Shock Leader 4Lb/VARIVAS
LURE Bowie50S/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


伊藤 大祐 Daisuke Ito


イトウクラフト スタッフ

1982年岩手県生まれ、岩手県在住。幼少期から渓流の釣りに触れる。「釣りキチ三平」の影響も大きく、エサ釣り、テンカラ、フライ、バス釣りなど様々な釣りを経験する。工業デザインやCGを学んだあと、デザイン会社での経験を経てイトウクラフトに入社。自社製品の製作を手掛けるかたわら、商品開発/試作/テスト/ウェブ/各種パッケージ/広告/カタログ/などのデザインも行なっている。