イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

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FIELDISM
Published on 2010/05/19

ファースト・タイプⅡと4本のアマゴ

2009年9月、長野県

アングラー・写真=小沢 勇人
文=佐藤 英喜

 昨年秋、小沢勇人は蝦夷50Sファースト・タイプⅡを使って、4本の見事なアマゴを釣り上げた。他にも釣ったけれど、今回紹介するのは4本。


 アマゴはアマゴでも、小沢は秋のアマゴが特に好きなのだと言う。鼻が落ちて、背中のぐっと盛り上がった最高にワイルドなアマゴが、彼は釣りたい。


 舞台はシーズン終盤の渓流。当然、釣りはシビアになる。


「ルアーに対する反応はどうしたって悪くなるよね。状況にもよるけど、秋は遠い位置から吹っ飛んでくるような魚は期待できない。食性がどんどん薄れていってるし、プレッシャーも溜め込んでるからね。何とかルアーを追わせても、上にも横にも追い幅がすごく短い」


 アプローチやキャストやルアー操作の、ちょっとした落ち度であっという間にゲームオーバー。見た目のカッコ良さだけでなく、そんな神経質で手ごわい相手だからこそ熱くなるのだ。


■9月3日の36cm


 その魚は落差のある落ち込み下の、深いツボに入っていた。深く、小さく、そして底からの湧きも強い難しいポイントだった。


「追い幅の短い魚を想定すれば、魚とルアーのタナを合わせることはもちろん重要だし、このポイントは水深がある上に、ルアーを引ける距離も短かったから、素早く落とし込めて、なおかつ泳ぎ出しの早いルアーが必要だった。タナを合わせた時に、間髪入れずにレスポンス良くヒラを打ってくれる立ち上がりの良さも、蝦夷の特長だよね」


 ルアーを追わせる距離のないポイントでは特に、ルアーの立ち上がりが大きな意味を持っている。水平に近い姿勢を保って沈む蝦夷はヘビーウエイトのタイプⅡであっても、竿先のトゥイッチに機敏に反応して素早く泳ぎ出してくれるのだ。


 着水と同時にミノーを落とし込み、しっかりとタナを合わせてから派手なヒラ打ちでアピールさせると、その2投目。艶かしい婚姻色を浮かべたアマゴが、たまらず口を使った。

ピンクの婚姻色と朱点が冴える華やかな魚体

  1. 角度を変えるとパーマークもくっきりと浮かぶ。「ちょっと細身だけどね」

 ちなみに、5cm蝦夷には50SタイプⅡとこのファーストのタイプⅡ、2種類のヘビーシンキングがあるけれど、その違いについてはどう感じているか小沢に聞いてみた。


「ファーストの方がヒラを打たせた時のひとつひとつのフラッシングが大きくて、アップでの使い勝手はやっぱりこっちの方がいいと思う。タナが深くてルアーが見えなくても、グッグッグッて、ちゃんとヒラを打ってるテンションが竿先に伝わってくる。50SタイプⅡはサイドとかダウンの釣りでよく使うかな。両方ともいろんな状況をカバーできるルアーだけど、それぞれに得意な場面ってあるよね。ファースト・タイプⅡをいくら通してもダメで、50SタイプⅡの細かいアクションに変えた途端、魚が反応することも普通にあるから。それぞれ刺激するツボが違うんだと思う」


 複雑で速い流れの中でも、安定して細かくアクションを刻む蝦夷50SタイプⅡが有効な状況もたくさんある。同じタイプⅡでも流れの攻め方が変わるのだ。その違いを理解しそれぞれの性能を引き出すことで、攻略できる場面はぐんと増す。


■9月7日の37cm


 川の右岸側、川幅の3分の1ほどがちょうどいい流れになっていて、左岸側には勢いの強い流れが瀬となって走っている。右岸は濃密なブッシュに覆われているため、ぱっと見の釣りやすさでは左岸側からのアプローチを選択したくなるが、小沢は冷静に一歩先を考えていた。


「左岸側からでは手前の流れがどうしても強過ぎて、ルアーを追わせることはできても最後の最後でルアーを止められずに食わせ切れない可能性が高いと思った。だから、右岸側の木の根元に無理やり立って、枝と枝のちょっとした隙間からロッドを出してルアーを入れたんだよね」


 アップストリームでキャストしたミノーに大きな影が反応した。


 水深は1m弱。流れの押しは強めだが、タイプⅡでなくても魚を誘うことはできたかもしれない。しかし小沢はその立ち位置にこだわっていたから、狭い空間で、ティップのしなりだけで飛距離を稼げるルアーを選んだ。安易なキャストはしない。常に先の展開を読んでポイントに立つ。だからこそ、貴重なワンチャンスをものにできるのだ。

最初の立ち位置が鍵を握っていた魚。ゴーイチULXを絞り込んだパワフルな魚体

 ネットに収まったのは厳しい顔付きの雄、37cmの太いアマゴだった。


■川を変えて32cm


 迫力満点のアマゴを写真に収めて、小沢は川を変えることにした。


 向かったのは初めての川。小さな渓流だ。車をとめ、とりあえず釣り上ってみると小さなアマゴが釣れてきた。魚はいる。問題はサイズだ。


 さらに釣り上っていくと途中から水量がなくなり、ポイントもなくなってきたが、構わず上流を目指す。するとしばらくして、おあつらえむきの大場所が現れた。


「直径6mくらいの円い淵で、水深3mはあるかなぁ。快晴の真っ昼間で水質もクリアだったから、充分に距離を取ってしゃがんでキャストしたら、1投目にスーっと追ってきたんだけど、ルアーとの距離が開いてて、もちろんそれでは食わなかった。やっぱり活性は低い感じだったね。そこからはもう集中攻撃。初めの内はうんともすんとも言わなかったけど、20投くらいしたら、白泡の切れ目にちらちらとルアーを追う姿が見えるようなって、さらに通していったらだんだんと白泡から出てくる距離が長くなってね、最後は足もと近くまで追ってきた」


 至近距離でヒットしたそのアマゴは、今回紹介している中で小沢が最も嬉しかった一尾。釣り上げる過程もまさに会心と呼べるものだったし、何より、魚体が素晴らしかった。


 超のつく大物ではないけれど、色合いといい、顔の大きさといい、体高のある寸詰まりのバランスといい、常々理想としているアマゴの容姿がそれだった。


「色が最高に綺麗で、なおかつワイルドな魚。こういうアマゴの40cmオーバーは、もう夢の魚だね。それが一番釣りたい。昔、ウチのお爺さんが山奥でアマゴを釣ってよく持って帰ってきてさ、その時に見せられたアマゴがちょうどこんな感じだったんだよ。ずいぶん前の話だけど、ボディとヒレのオレンジ色が特に印象に残ってるね。それもあって、自分の中でアマゴと言ったらピンクでも赤でもなくて、やっぱりこのオレンジ色なんだよなぁ」

「色、顔付き、体形、これの40cmが夢」。今回掲載した中ではこのアマゴがベストフィッシュ

 写真を見ると分かるように、小沢の釣った32cmも美しいオレンジ色を浮かべていた。このタイプの40cmが毎年の目標なのだ。


■9月30日の40cm

 渓流シーズン最終日のこと。


 水深70~80cmの深瀬が続いていて、その開きの少し上にユラユラと定位している魚が見えた。下流に大きな堰堤があり、その上のプールで育った魚が前日の雨で動いた。そう思われた。


「ルアーを通しても最初は完全無視で、これはだいぶ粘ったよ」


 同じアップストリームでも、魚を下流から見て右の筋なのか左の筋なのか。すぐそばなのか、ちょっと離れた筋なのか。小沢は、魚が反応を示す筋をミノーで探りながら粘った。


 ルアーがノーマル蝦夷ではなくタイプⅡであるのは、川が増水しているため。そして小沢が言うようにファーストのタイプⅡは、アップで大きなヒラ打ちアクションを連続して決められるミノーだが、この状況で求められるのは狙った筋を崩さずに、正確に通せる性能でもある。釣り人の意に反して食い波の筋を外してしまうようなミノーでは釣りにならない。


「意図した所でヒラを打たせて、意図した所できちんと食わせのタイミングを作れるミノーじゃないと、こういう魚はまず無理だよね」


 探るようにミノーを通している内、顔をフッと動かすくらいの反応が見て取れるようになり、その筋を正確に、しつこく攻め続けると、徐々に頭の振り幅が大きくなってきた。明らかに魚の興奮が高まっているのが分かった。


「ミノーが顔の横を通り過ぎた瞬間、振り向きざまに食ったね」
 魚を見つけてから約40分。持てる経験を総動員して釣り上げた大アマゴが、昨年の渓流シーズンを締めくくったのだった。

  1. 写真では分かりづらいが、薄く朱点が見て取れた。パーマークも薄っすら


■最後に


 これらの釣果について「フィールドに恵まれてるから」と小沢本人は至って控え目だが、きっとそれだけではないだろう。


 伊藤秀輝が、こう言う。


「テクニックうんぬんより、大事なこともあると思うんだよ。魚の匂いを嗅ぎつけて、魚に歩み寄る能力っていうかな。小沢さんはそれがずば抜けてるんだよね。仮にさ、5、6本の川に合計100のポイントがあったとして、口を使う大物がいるのは3箇所。小沢さんは、その内の最低1箇所をパシッと選択できるんだよな。もちろん読みの鋭さもあるんだけど」


 確かにいまの時代、テクニックや理屈だけではいい魚は釣れないのかもしれない。釣り人のいない川でもあれば話は別だけれど。


 今年も小沢がどんな釣りをして、どんな魚を釣るのか、とても楽しみである。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3/ABU
LINE Super Trout Advance VEP 5Lb/VARIVAS
LURE Emishi 50S 1st Type-Ⅱ/ITO.CRAFT

ANGLER


小沢 勇人
Hayato Ozawa

イトウクラフト フィールドスタッフ

1965年長野県生まれ、長野県在住。茅野市在住のトラウトアングラー。野性の迫力を感じさせる渓流魚を追って、広大な本流域から小渓流まで、シーズンを通して釣り歩き、毎シーズン素晴らしい魚達との出会いを果たしている。地付きの魚であり、少年時代からの遊び相手であるアマゴに対してのこだわりも強い。