イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2011/11/10

ノーミス

2011年9月上旬、岩手県
アングラー=伊藤 秀輝
文と写真=佐藤 英喜

 西の方角へゆっくり日が傾き始めていた。かすかにオレンジ色を帯び始めた光線が本流の流れに斜め正面から照り付けている。とある日の午後遅く、僕らは本流ヤマメを狙って河原に降りた。


 押しの強い流れが下流へずっと続いているのを見ながら、伊藤はルアーケースを開け、蝦夷50SタイプⅡをスナップにセットした。


 ゴロゴロ沈んだ岩に当たって、流れが複雑に変化している。ひとつのトレースラインの中に、いくつもの魚の着き場がイメージできる。流芯奥の弛み、流芯の底に沈んでいる大岩の陰、または手前のヨレ、どこからヤマメが現れてもオカシくないように見える。


 しかし実際には、着き場の数に対して魚の数は決して多くない。そして何より普段から魚がとてもスレていて、ルアーが視界に入っただけで吹っ飛んでくるようなヤマメは期待できない。だから、「広く探りを入れながらも、ノーミスで誘うことが基本」と伊藤は言う。


 もちろん、どんな状況でもミスをしたら釣果に響くものだけど、この場合のミスとはトゥイッチやリーリングのリズムが崩れたり、または底からの湧きの強い流れによってルアーがバランスを崩すなどして、水中のルアーをコントロールできていない『間』を作り出してしまうこと。それによって、そこにあったはずの可能性を釣り人が気づかないうちに失ってしまうこと。状況のシビアな本流では特に、そうしたミスを完全になくす意識が求められている。

 ミノーをロングキャストしながら伊藤が少しずつ釣り下り始めた。


 1投、1投、着水からピックアップまで、神経を張り巡らしてルアーを操作する。蝦夷50SタイプⅡがギラギラと光を拡散しながら泳いでくる。


「こういう100m、200mっていう距離を釣り下りながらポイントをくまなく探っていく釣りに、蝦夷50SタイプⅡはやっぱり使いやすい。複雑な流れの中でも泳ぎをキープしやすいから、大事な所でミスを誘発するリスクが少ない。たとえば扁平薄型のファーストモデルのタイプⅡと比べてみると、タイトなローリングできれいに水を切る分、より流れに強いし、ショートピッチの細かなヒラ打ちが決めやすいよね。単純に安定性がある、と言うと、あんまりルアーが泳がないように聞こえるかもしれないけど、全くそうじゃなくて、速い流れが絡み合うような難しいポイントでも、魚がきれいにストライクする泳ぎをキープしやすい。これがこのルアーの一番の強みなんだ」


 100mほど釣り下った先に、流れが絞られてさらに流速を速めているポイントがあった。そこでいいサイズのヤマメがルアーに反応した。


 伊藤は少し立ち位置を変え、よりスローにルアーをアピールするための角度を作った。広範囲を「線」で探るのではなく、いまさっき魚が反応した「点」にルアーを送り込んで、その「点」に誘いを集約する釣りに切り替えた。


 とは言っても、表層の流れがあまりに速く、中層~下層も押しの強い流れが複雑に絡み合っている場所だから、そう簡単にはバイトに持ち込めない。こうしたポイントでは魚を誘うと同時に、魚がしっかりとルアーを口にくわえられるよう伊藤は意識している。


「ルアーを操作しづらいポイントっていうのは魚もミスバイトしやすいからね。そういうポイントでの食わせやすさも、ルアーの大事な性能だよ」


 立ち位置を変えた伊藤は、その1投で本流ヤマメをヒットさせた。


 フックへのわずかな感触に電撃フッキングを決めると、ラインが一直線に下流の川面に突き刺さった。その先で幅広の魚がギラッ、ギラッと身をひるがえす。何発かのファイトをロッドワークでかわし、最後は流芯から離れた緩流帯に誘導して、ネットにするりと滑り込ませた。

 ヤマメが、秋の夕陽に照らされて黄金色の渋い輝きを放った。幅広の本流ヤマメだ。33cmの雄が伊藤の手に収まった。

ロッドはEXC560ULX。本流でも、より軽快にプラグを操作するための選択

  1. 本流の太い流れにもまれたミサイルのような上半身

 帰りの車中、伊藤は蝦夷50SタイプⅡについてこう話した。


「バランス良く安定してるから、誘いから食わせまで、ラクに釣りが展開できるよね。疲れてる時は特に重宝する(笑)。ラクな分、ルアー操作以外の部分にも意識を持っていけるし、水中からのいろんな情報を察知できる。これが最終的にバレを防ぐことにも繋がってるんだよね」


【付記】
イトウクラフトの5cmミノーには様々なモデルがあって、それぞれに与えられたスペックの違いや開発者の意図を感じ取りながら選択する楽しさがあります。
それにしても、渓流のヤマメ釣りとはまた違う、本当に繊細で微妙なニュアンスが本流の釣りにもあるんですね。やっぱりそのへんが、いい魚との出会いを左右しているように思います。

 

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC560ULX/ITO.CRAFT
REEL Exist Steez Custom 2004 /DAIWA
LINE Super Trout Advance 5Lb/VARIVAS
LURE Emishi 50S Type-Ⅱ[YMP]/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


伊藤 秀輝 Hideki Ito


1959年岩手県生まれ、岩手県在住。「ルアーフリーク」「トラウティスト」などのトラウト雑誌を通じてルアーフィッシングの可能性を提案してきたルアーアングラー。サクラマスや本流のスーパーヤマメを狙う釣りも好むが、自身の釣りの核をなしているのは山岳渓流のヤマメ釣りで、野性の美しさを凝縮した在来の渓流魚と、それを育んだ東北の厳しい自然に魅せられている。魚だけでなく、山菜やキノコ、高山植物など山の事情全般に詳しい。
2023年12月6日、逝去。享年65歳。