イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2014/11/21

ネイティブの谷

2013年8月、9月
アングラー・写真=小沢勇人
文=佐藤英喜

 今回は小沢勇人の、アマゴの天然種に対する思いをテーマに話を聞いた。


 小沢は「ネイティブかどうか、完璧に言い切れるわけじゃないけどね」と言ってから、魚体の魅力より先に彼らのひたむきな生命力に深く感じ入っていた。

今回掲載しているのは小沢が天然種と推測するアマゴ達。独特のいかつさと美しさを備えている

「今も天然種がいるような川はエサも水量も少ない、厳しい環境であることがほとんどだし、ここ数年は自然災害も多いよね。例えば川が壊れるくらいの大雨に見舞われた時とか、そういう過酷な条件下でこそ、天然種が持つ力強さをまざまざと感じる。もちろん現在の渓流釣りは養殖魚の放流がなければ成り立たないわけで、天然種の残っている川自体が希少だけど、その生き様みたいなものを目の当たりにすると、やっぱり心から感動する。毎シーズン会いに行って、元気をもらいたいって思うんだよね」

  1. 川が違えばアマゴの個性も変わる。茶に近い渋い体色が目を引く。顔付きもやはり野性的だ

  2. 個性豊かな魚体だけでなく、小沢は天然種が息づくこの素晴らしい環境にも魅せられている


 生物の進化のメカニズムについては様々な論争があり、何が科学的に正しいのかは分からないけれど、より環境に適応した個体が種をつないでいくことで進化の道筋ができる、つまり何が生き延びて繁殖するかは、自然環境が決定する、という説は広く受け入れられている。


 そこから結び付けるのは安易すぎるかもしれないが、その川でずっと昔から世代交代を繰り返してきたネイティブの個体群には、やはりその環境を生き抜くための性質や特徴が蓄積されているものと考えられないだろうか。


「かつても大きな災害はあっただろうし、その危機的状況を何度も乗り越えてきた魚達の末裔だとすれば、当然ツワモノだよね。警戒心の強さはもちろんのこと、台風が近付いてるのを察知して産卵のタイミングをずらしたりとか、生きて種を残すための術が初めから本能に組み込まれてる感じがする」

山釣りの相棒となるロッドはEXC510PUL。3ピースながらカスタムならではのキャスタビリティと操作性、そしてフッキング性能をスムーズなフィーリングで実現している

 ここに掲載している写真は天然種と思しきアマゴ達で、過去の放流など川の歴史をできる限り調べ、なおかつ自分の足で地道に開拓してきた川で小沢が釣り上げた魚である。


「これらの川に共通して言えるのは、まあ、ボサが多くて釣りづらいっていうのもあるけど、何より環境が素晴らしい。自然の厳しさ、山の荒々しさや豊かさを本当に実感できる場所。歳を重ねるごとに、こういう川で釣りをすること自体に喜びを感じるようになった」


 写真を見ると、どの魚も野性味に溢れ、実に個性的だ。


 例えば一枚目の写真。これは見るからに居着きの個体である。


「このアマゴは9月下旬に釣った魚で、それにしてはまだ魚体もヒレも黒ずんでなく、透明感があって、最も綺麗なタイミングで出会えた一匹。今でも鮮明に覚えてるよ」


 淡いオリーブとベージュの体色に、パーマークをくっきりと浮かべている。背中の黒点が多いのも特徴的で、頭までびっしり覆われている。顔や目が大きく独特のいかつさがあり、サイズ的にはちょうど尺位だがそれ以上の存在感がある。いかにも、ゆっくりと時間を掛けて成長したバランスが見て取れる。


「天然種の川は大抵、釣り人がひとり歩いたらしばらくは釣りにならないような川だから、足を運んでも年に1回かな。釣り人に対するスレ方も、天然種はやっぱり普通じゃない。ささいなことであっという間に警戒してしまうし、いったんスレたら元の状態にはなかなか戻らない。そういう魚が相手だからこそ、川の歩き方、アプローチ、立ち位置、極端に言うと川にいる間の動作すべてにいつも以上に神経を使ってる」

このアマゴは細かいパーマークが腹全体を覆っていた。エラぶたにもパーマークが浮かんでいる

パーマークが小さく、ひとつひとつの間隔が広い。同じ河川内でも見れば見るほど個体差がある

 そして小沢は、『一投目』の重要性を常に考えている。


「仮にギリギリ勝負できるくらいの警戒心を魚が抱いてたとして、最初のキャストで、さらに警戒される方向へ持っていくのか、あるいは興味を抱かせる方へ持っていけるか。どっちに転ぶかは釣り人次第だと思って挑んでる。もし失敗したら何がダメだったかを考える(笑)」


 そのシビアな駆け引きが毎シーズン、小沢の釣りを磨き、神経を研ぎ澄まさせている。もともと野生の渓流魚を釣り上げるとはどんなに難しいことなのか。それを写真のアマゴ達は今も教えてくれている。

  1. これもパーマークの形が面白い。ボディはきめが細かく、滑らかな質感

「もちろん天然種だけを狙って釣りをしてるわけじゃないけど、たとえ1シーズンに一匹でも出会えれば、その一匹に勇気付けられる。そういう存在。今もいて欲しいっていう願いもあるし、その存在を信じられるからこそ渓流釣りが好きなんだよね」

9月中旬に釣った、いかつい雄。今回掲載した魚は全てボウイ50Sによって釣り上げられた。「神経質な魚を狙う上で、ボウイの飛距離とアクション性能はやっぱり大きな武器だよ」

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510ULX/ITO.CRAFT
Expert Custom EXC510PUL/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3/ABU
TUNE-UP Mountain Custom CX/ITO.CRAFT
MAIN LINE Super Trout Advance Double Cross 0.8/VARIVAS
LEADER Trout Shock Leader 5Lb/VARIVAS
LURE Bowie 50S/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


小沢 勇人
Hayato Ozawa

イトウクラフト フィールドスタッフ

1965年長野県生まれ、長野県在住。茅野市在住のトラウトアングラー。野性の迫力を感じさせる渓流魚を追って、広大な本流域から小渓流まで、シーズンを通して釣り歩き、毎シーズン素晴らしい魚達との出会いを果たしている。地付きの魚であり、少年時代からの遊び相手であるアマゴに対してのこだわりも強い。