イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2016/12/09

イトウガイドサービス
2016夏 前編
ゴールドラッシュの川の巻

文=丹律章

 はてさて、毎度バカバカしいイトウガイドサービスでございます。

 時はうだるような暑さが続いていた2016年のお盆前。またもや、あのお客様が、イトウガイドサービスをご利用になります。しかし、今回はいつもと様子が違います。

 イトウガイドサービスを利用し始めて10年目となる彼に対し、特別サービスを企画したのです。10年目のイトウガイドサービスは、どんな釣りを用意しているのでしょうか。


※あらかじめお断りしておきます。この物語はフィクションです。イトウガイドサービスという組織は存在しません。


■調子の狂う無料招待


 釣りのガイド料金が1日10万円という価格設定も強気(この強気具合は、芸能人でいうと土屋アンナ並み!)だが、ルアーの現場売りは定価の2倍で、ネットに絡んだルアーのフック外しは状態によって1000円から2000円、クマに遭遇した場合のベアスプレーは1秒5000円(この場合は、クマを目の前にして、1秒お願いしますとか、2秒押してくださいとか、その場で指定して噴射してもらう)という設定もあまりにアホらしい(こちらは野生爆弾のロッシー以上)のが、イトウガイドサービスの最大の特徴。

 そんなイトウガイドサービスから、信じられない手紙が届いた。

<日頃のお客様のご愛顧に応えて、1日ガイドフィッシングへ無料招待いたします。ご希望の日にちをお伝えください>とある。

 なんと! あのボッタクリガイドサービスが、無料招待してくれるというのだ。

 もちろん僕はすぐに連絡し、お盆前の1日を予約した。


 釣り当日、午前4時半。太陽が北上山地から姿を現す前に、イトウガイドサービス本部前に到着した。すると、本部の玄関が開いて、伊藤さんと吉川課長が姿を現す。

伊藤&吉川「いらっしゃいませ~!」


 クラッカーがパンパンと早朝の空気を震わし、紙テープが、はなだ色の空を舞う。

 玄関の上には、【歓迎! 丹律章様】と書かれた看板が掛けられていて、10周年に伴う歓迎っぷりがよく分かるのだが、いつもの様子との違いに、ちょっと調子が狂うのも事実だ。

伊藤「この度は、遠いところ雫石までお越しくださいまして、ありがとうございます。今回も精一杯、ガイドをさせていただきます」

 はあ、よろしくお願いします。

 とここで僕は気が付いた。伊藤さんも吉川さんも、長袖姿だ。そして、僕は半そで短パン。寒い。雫石の電光掲示気温計は、13度だったのを思い出す。

 参ったなあ、ちょっと寒いですね。

伊藤「岩手ですから、朝は、首都圏より10度くらい低いのが普通です。しかも、ここは雫石ですから、盛岡よりさらに3度は低い。これくらいの気温は珍しくないですよ」

吉川「こんなフリースの貸し出しも行ってますが……」

 おっ、いいじゃないですか。

吉川「1日5000円になります」

 出た! いつものボッタクリである。

 でもさ、寒いの朝だけでしょ。2時間もすれば、夏の気温になるから、2時間だけでいいんですけど。

吉川「1日5000円です」

 2時間2000円でどう? これも相当高めのレンタル料だと思うけど。

吉川「1日、5000円です」

 この辺の割り切りは、逆にすがすがしい。10万円のガイド料は無料だけど、フリースのレンタルはいつも通りだ。

 僕は潔くフリースを借りた。


伊藤「タン様」

 はい。また何か僕に高額商品を貸し付けようという魂胆ですか?

伊藤「いえいえ滅相もない」

 それでは何でしょう。

伊藤「これなんですが……」

 伊藤さんの手には、フィッシングベストが握られている。フォックスファイヤーと共同開発したという、エキスパートメッシュベストだ。噂では、釣具店用の見本市で予約が殺到したという。確かに気になるベストではある。これもレンタル用か?

伊藤「これを……」

 いやいや、あのですねえ。フリースを1日5000円で借りたところなんですよ。ベストも1日5000円で貸そうって言うんですか?

伊藤「いえ、プレゼントさせていただこうかと……」

 は? プ、プレゼント? はあ。ああ……そうですか……喜んで……。

伊藤「10年通っていただいてますから」

 えーと、そうですね。


伊藤「着てみますか」

 はあ。

伊藤「ピッタリじゃないですか」

 そうですねえ。

伊藤「お使いください」

 ありがとうございます。

伊藤「いえ、お客様に喜んでいただいて、こちらも嬉しく思います」

 なんだか、朝から調子が狂いっぱなしだ。


■PEAKB


伊藤「ラインは何を巻いてますか」

 先々週使ったナイロンの4ポンドですけど。

伊藤「もちろんナイロンラインでも構わないんですが、私どもは最近ほとんどPEラインを使っております。それにともない、2017年のシーズンに発売予定の、PEラインに対応したロッドを試作中でして、試し振りしていただくことも可能です」

 なんですと! PE用のニューロッド? それは試してみねばなるまい。

伊藤「現在、いくつか新しいロッドのプロトが進行中なのですが、今回はPEライン用をご用意しましたので、とりあえず、丹様のリールには新しいナイロンラインを巻いて、釣り場でとっかえひっかえやってみたらよろしいかと」

 そうしましょう。これは楽しそうだ。

伊藤「新しいナイロンラインは3000円になります」


 フリースレンタル5000円、ライン購入3000円(定価は1500円くらいか?)。一方で、ガイド料金無料、フィッシングベストプレゼント。何が何だか分からん。

 しかし、PEの波もここまで来たか。

 3号とか4号とかという太いPEラインが、ジギングなどオフショアの釣りに浸透し始めたのが、25年ほど前だろうか。

 その後キャスティング用の細いPEが発売されるのだが、僕の記憶では、20年ほど前に、サンラインのPEラインで、1号16ポンドの100m巻きが、8000円以上した。使っている人はわずかだった。それが今は、100m巻きで2000円を切る商品もある。

 0.3号とか0.4号とかいう極細のPEラインも多く作られ、選択肢は今や無限。海のルアー、バス、トラウトと、PEラインは魚種にとらわれずに進出し、今やナイロンラインを使う場面の方が珍しいともいえる。

 長く続いたナイロン王朝の隆盛からPE政権への変遷という図式は、モーニング娘。全盛の時代からAKB48の台頭という、国民的アイドルグループの移り変わりに似ている。

 1999年、モーニング娘。は大ヒット曲ラブマシーンを発売。国民全員が日本の未来をウォウウォウと叫んでいた。もちろんナイロン大王もウォウウォウと叫んでいた。

 1998年から2007年まで紅白歌合戦に連続出場したことを考えると、この10年弱がモー娘。の全盛期といっていい。

 その全盛期の2005年、AKBはメジャーデビューしている。紅白への初出場が2007年、2009年には国民的アイドルと呼ばれ始め、ヘビーローテーションの発売が2010年である。当然、2010年にはPEラインは釣りの世界を網羅しつつあった。

 つまり、2005年からの約5年ほどが、モー娘。からAKBへの過渡期であり、それはちょうど釣りの世界での、ナイロンからPEへの過渡期と重なる。

 何の話だったか分からなくなってきたが、つまりは、釣りも人生も紙飛行機なのである。

TACKLE DATA

ROD Proto model/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3/ABU
LINE Cast Away PE 0.6/SUNLINE
LURE Bowie 50S, Emishi 50S 1st/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT
HEART どんな出来事にも動じない平常心

ANGLER


丹 律章 Nobuaki Tan


ライター

1966年岩手県生まれ、神奈川県在住。フリーランスライター。「ルアーフリーク」「トラウティスト」の編集を経て、1999年フリーに。トラウトやソルトのルアー、フライ雑誌の記事を多く手掛ける。伊藤秀輝とは「ルアーフリーク」の編集時代に知り合い、25年以上の付き合いになる。