FROM FIELD
丹 律章
FIELDISM
Published on 2016/12/16
イトウガイドサービス
2016夏 中編
ゴールドラッシュの川の巻
文=丹律章
■朝イチのキャストは難しい
釣りの支度をして(もらったベストにルアーケースを入れ、ラインカッターを装着し、ネットをぶら下げて)、車に乗り込み釣り場へ向かう。
車を降りると、すでに気温は上昇し始めていて、フリースは必要なくなっていた。ここまで1時間弱。1時間5000円。うーん、やはり納得いかん。
釣り場に下りて最初のポイント。左側からの岸に生えている木の枝が、プールの上に大きく張り出している。サイドやアンダーキャストで、ライナーの弾道を作らないと一番いいスポットにミノーを落とすことはできない。
伊藤「ここは、いつもいい魚が付くポイントなんです。垂れ下がった木の枝に注意しながら、できるだけ奥の流れ込みに入れてください」
慎重に、しかし思い切ってキャスト! オーバーハング直撃! ミノーは水面から1m50cmほど上空にある、ボサに突き刺さってしまった。朝イチの第1投目のキャストは、まだ手にグリップが馴染んでいないだけに、ミスも仕方ない。
だが僕の場合、2投目も3投目も、100投目もミスすることが多いのが、多少問題ではある。
ロッドをあおるとルアーはうまく回収できて、釣りを続けると何投目かでうまくポイントに入った。1mほどリトリーブしたところでバイト! 小さいなと思ったら、アブラハヤだった。
■PEライン対応プロトロッド
気温はまだ低めで気持ちがいい、それに涼しいからアブも出てきてない。朝の日差しの中、僕らは渓流を釣り上っていく。
伊藤「PE用のプロトロッド使ってみますか」
そうですねえ。そういってくれるのを待っていました。
伊藤「PEは感度がいいから、ダイレクト感が違いますよ」
PEはゼロヨンとかですか。
伊藤「私は0.6号を使っています」
PEラインの場合、0.6号で約10ポンド。4ポンドに合わせると0.2号か0.3号ということになる。
ゼロロク? 思ったより太いんですね。
伊藤「強度的には、もっと細くても構いませんが、扱いやすさを考えるとこれくらいの方が使いやすい。細い方が距離は出ますが、渓流だから50mキャストする必要もないですし」
ミノーが結ばれた状態のタックルをそっくりそのまま、伊藤さんが渡してくれる。いよいよ、モー娘。からAKBへの政権交代だ。
伊藤「長さは今のところ4フィート8インチ。PEラインは伸びがないので、ルアーの操作もアワセも、パワーの加減がダイレクトに伝わります。その特性に合わせて開発しました。追従性に優れているので、魚が乗りやすく、バレにくいのが大きな特長のひとつです」
今使っている5フィート1インチより、5インチ短い。5インチは約13cm。結構な違いだ。ラインを通さずに振ってみても違いは歴然。
キャストしてみる。長さの違いが、さらに大きく感じられる。
そして、ロッドアクションをくわえたときの感触がダイレクト。ミノーのリップが受けている水の抵抗が手に取るようにわかる。AKB凄い。指原の頭の回転も凄い。
これいいですねえ。もうちょっと使ってみてもいいですか。
伊藤「どうぞどうぞ」
目の前に、いい感じのスポットが現れた。小渓流なので水深はさほどないが、底石の大きさと流れの具合がいい。オーバーハングはないので、上を気にせずにキャスト。1投目でドスンときた。
来ました、これはデカイかもしれません。
慎重に寄せてみると思ったより小さい。23cmくらいか。
あれ?
伊藤「ラインがPEだから、アタリもファイトもナイロンより派手に、大きく感じるんです」
なるほど。そういうことか。AKBには誇大表現のクセがある。
僕の場合、海釣りではほぼPEラインを使う。イカは0.6号、シーバスは1号、メバルは0.3号。でも、渓流ではずっとナイロンだった。しかしこれが、渓流でPEを使ってみると、思いのほか使いやすい。これまでナイロンだったのが不思議なくらいだ。PE用に開発されたロッドの性能と相まって、格段に釣りが楽しくなった。
上に張り出した木の枝によって、日差しがさえぎられているポイントが現れた。水深は50cm弱。15mほどの長さがある場所だ。
流れ込みにミノーを落とし、トゥイッチングをくわえる。ポイントの中ほどで、ヒラを打つミノーの30cmほど後方に魚の影が見えた。直後にガツンと強烈なアタリ。
アワセもうまい具合にいって、流れの中でヤマメが暴れているのが分かる。ネットですくうと、茶色っぽいボディにパーマークも鮮やかな、本ヤマメ系の個体だ。
伊藤「これはいいですねえ。この川に残っている貴重な天然系のヤマメです」
サイズは26cmくらい。ヤマメを誘い出した緑色のボウイが、木漏れ日の中で光っている。
川を渡る清涼な風と、透明で冷たい水に、この世のきらめきを集めたような魚。こんな景色と出会うために僕らは渓流の釣りをしているといっても、言い過ぎじゃないだろう。
大堰堤まで釣りあがって、いったん車に戻る。
空は青空。気温もぐんぐんと上がり始めた。次の川はどんな流れだろう。もちろん車内の音楽は「365日の紙飛行機」だ。
TACKLE DATA
ROD | Proto model/ITO.CRAFT |
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REEL | Cardinal 3/ABU |
LINE | Cast Away PE 0.6/SUNLINE |
LURE | Bowie 50S, Emishi 50S 1st/ITO.CRAFT |
LANDING NET | North Buck/ITO.CRAFT |
HEART | どんな出来事にも動じない平常心 |
ANGLER
丹 律章 Nobuaki Tan
ライター
1966年岩手県生まれ、神奈川県在住。フリーランスライター。「ルアーフリーク」「トラウティスト」の編集を経て、1999年フリーに。トラウトやソルトのルアー、フライ雑誌の記事を多く手掛ける。伊藤秀輝とは「ルアーフリーク」の編集時代に知り合い、25年以上の付き合いになる。