イトウクラフト

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FIELDISM
Published on 2012/01/25

とある支流のサクラマス

2011年6月上旬、山形県

アングラー=吉川 勝利
文=佐藤 英喜
写真=吉川 勝利、佐藤 英喜

 吉川さんは有名なサクラマス河川をいくつも抱える山形県の、とある支流を釣り歩いていた。例えば同じくらいの河川規模を持つ鮭川などに比べ、その支流はサクラマスの遡上量はあまり多いとは言えない、どちらかと言えばマイナーな川のひとつだ。

 過去に何度か竿を出したことはあったが、吉川さんが腰を据えてこの支流に取り組むのは昨シーズンが初めてのことだった。

「まずは実際に川を歩き通して、川全体を把握することから始めたね。まあヤマメ釣りの延長のような渓相だから、魚の着き場自体は分かりやすいよ。それとこの川のマスは、堰堤を除いては常に上流へ動いている感じだから、その移動を読みながらエリアとポイントを絞っていく作業だね」

 丹念に川を歩き、ルアーをキャストしながら、吉川さんは魚に辿り着くまでの道筋を少しずつ踏み固めていった。相手がサクラマスだけにそう易々と答えは出てくれないが、そうして川で過ごした時間は決して無駄にはならないと言う。

「川の規模が規模だから、5月後半にもなれば当然マスは警戒してスレてくるし、いても簡単には口を使わなくなる。そうなったら、どこで見切って、どこで粘るかってことも大事になるよね。例えば、マスだけじゃなく、そこにいるヤマメの反応の仕方も判断材料のひとつになるんだけど、ヤマメの反応がすごくいいからと言って、マスも食ってくるっていう単純なものでもない。ヤマメとマスとでは、活性がピークに達する条件が微妙に違うからね。100%読み切れるものではないけど、水の条件も含めて総合的に状況を判断しながら釣りを組み立てていかなきゃいけない」

 東北のサクラマスシーズンも終盤を迎えた6月上旬。すでに吉川さんの引き出しには、この支流全体の見取り図とそこに点在するサクラマスの居場所が収まっていた。

 早朝からWOOD85の14gを流れの中に打ち込んでいく。

 ロッドはEXC780MX。赤川中流域や米代川の各支流など、中規模河川のサクラマス釣りに愛用しているこのナナハチについては、カスタムのサクラマスロッドの中でも最もシャープな取り回しと高い操作性が特に気に入っていると言う。

「このナナハチなら、手返し良くどんなキャストもできるよ」と吉川さん

「WOOD85の14gとはベストマッチだと思う。狙ってる魚はサクラマスだけど、このタックルだと釣りスタイルはほとんどヤマメ釣りだよね。水中のミノーを積極的に操作して、思った通りのヒラ打ちをばんばん決められる。これは面白いねえ。それとこのナナハチは、飛距離を稼ぐ遠投からバックハンドまで、どんなキャストもストレスなくこなせる。大物を獲るパワーを持ちながら、渓流モデルのフィーリングをイメージさせる軽快さだよ。張りのあるファーストテーパーだけど曲がって欲しい時にはきちんとしなってくれるし、1本でいろんな仕事をしてくれて、ほんとに使い勝手がいい」

 さてこの日、水の条件的に高活性を望めるタイミングではなかったが、かと言って全く勝負できない水でもない。あらかじめ頭にリストアップしたポイントをひとつひとつ丁寧に打っていく。吉川さんのサクラシーズン、そのフィナーレを飾る魚がすぐそこに待っていた。

 瀬の流れが一度すぼまって対岸に当たり、徐々に開いていく。その流れの開きっぱな、白泡の切れ目に大石がゴロンゴロンと沈んでいる。深さもあるし、申し分のない懐だ。

 アップクロスにキャストし糸フケを巻き取りながら、ルアーが大石に近づいたところでギラン、ギランと大きなフラッシングで誘いを掛けた。軽いトゥイッチで、WOOD85の14gが機敏に反応して軽快にヒラを打っているのが見える。

 同じ攻めを20分ほど続けた。

 吉川さんの目がサクラマスのチェイスを捉えたのは、ミノーが逆引きに入った時だ。底からフワッと青白い影が浮いて出て、また元の着き場へと戻っていくのが見えた。一気に気持ちが高ぶるシチュエーションだが、釣り人の心は冷静だった。やはり何らかのプレッシャーを抱えているのか、ルアーをひと息にかっさらう勢いではないけれど、そのチェイスを見て、吉川さんは確信した。

「WOOD85のヒラ打ちに確実に興味を示した。この魚はあと一押しで食うと思ったよ。Uターンの仕方も、ルアーを見切ったり、釣り人に気付いたりした様子ではなかったから」

 余計な小細工はいらない。自信を持ってさらに同じ誘いを続けた5投目、吉川さんの手にグンッとサクラマスの重みが乗った。まさに釣るべくして釣ったサクラマスだった。

「尾ビレのでかいマスでさ、コイツはとにかく引いたね」

 吉川さんは充実感いっぱいの笑顔を浮かべた。文字通り自分の足でこの1尾に辿り着いたことが彼は嬉しい。丁寧に川を歩き続けた釣り人のネットに、ひとつの答えが収まった。

引き締まったボディ、鋭いヒレ。ヒット後は強烈なファイトを見せた

  1. 川を歩いた時間のすべてが報われた瞬間だ

【付記】
サクラマス釣りと言えば、じっと我慢してアタリを待つ…というツラそうなイメージもありますが、このナナハチを使った釣りは見ていて実に楽しそうです。しかも昨年登場したWOOD85、特に14gの超レスポンシブな泳ぎとの相乗効果で、そのヤマメ釣り的面白さはさらに倍増(吉川さんの場合、体がでかいのでナナハチがナナサンくらいに見えてさらに軽快ですけど)。表情豊かな中規模河川を手返し良くトゥイッチでがんがん攻めていくスタイルは、言わば渓流釣り師のためのマス釣りですね。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC780MX/ITO.CRAFT
REEL Stella 2500 /SHIMANO
LINE Super Trout Advance Big Trout 10Lb/VARIVAS
LURE Wood 85・14g[AU]/ITO.CRAFT

ANGLER


吉川 勝利
Katsutoshi Yoshikawa

イトウクラフト フィールドスタッフ

1965年福島県生まれ、福島県在住。生まれ育った福島県浜通りの河川を舞台に、数々の大ヤマメを釣り上げてきたが、東日本大震災および原発問題によりホームリバーを失い、現在は中通りに居住する。サクラマスの経験も長く、黎明期の赤川中流域を開拓した釣り人のひとりである。