イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

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FIELDISM
Published on 2015/07/24

その一尾を釣るための性能

2014年9月
文=佐藤英喜

 ポイントに着いての一投目。アップストリームでキャストしたボウイにヤマメがすーっと追尾してきた。バイトには至らない。大祐はそのヤマメの挙動を見て、立ち位置を変えた。

 ヤマメは明らかに尺を超えている。

 そしてまた明らかに、ルアーにスレている。きっと過去にも何度かルアーを見切って逃れてきた経験が、食いたい衝動にブレーキをかけている。ルアーと一定の距離を保ち、その距離を詰める勢いが全く感じられない。

「もう、こういう追い方は見慣れたよね」

 ポイントは流れの速い瀬が岸にぶつかって川が角度を変えたところ。水深は優に2mを超えており、押しも強い。

「魚の活性が高ければ一気に底から食い上げてくることも考えられるけど、あのヤマメの様子ではそれは期待できないなと。スレてる魚だから、ルアーにちょっと興味は示しても自分のテリトリーから離れたがらない。魚が居着いているスポット的にも、アップでしつこくヒラを打たせて誘える距離がなかった」

 このまま同じ攻めを続けてもヒットさせられる確率は薄まるばかりだ。最初の一投でそう判断し、アップストリームの立ち位置から静かに河原を迂回してダウンクロスの位置に立った。この魚は大事にしたい。だからこそ冷静に、けっして強引にならず、その魚を釣るための最も確率の高いベストな手を考える。



 ミノーケースを取り出し、ルアーも変えた。

 ボウイから蝦夷50シンキングディープへ。

「ダウンクロスで、狙い通りにレンジをコントロールできること。なお且つそのレンジをキープしながら、トゥイッチやジャークでレスポンス良くヒラを打ってくれること。それに特化してるのがこのシンキングディープだよね。めちゃくちゃ飛距離も出て、水噛みが良くて、でもバタつかないできちんと止められる、長く魚に見せることができる。だから釣り人に優位に操作できる」

 ルアーを潜らせたらほとんどリーリングはせず、狙ったスポットで止めてヒラを打たせる。蝦夷50SDはそれができる。

 さっきのヤマメが深みのどの位置に戻ったか、正確には見えなかった。ジリジリと釣り下りながら、通すラインを細かく刻んでいく。

「もともとスレてる魚が一度ルアーを追ってるわけだから、次はできるだけ魚の目の前で誘いをかけたい。追わせて食わせるポイントでもないしね」

 この日は地元からかなり遠出しての大好きな遠征釣行で、またすぐに来れる川ではない。持てる引き出しを出し切って、とことん攻め切るつもりだった。

「もちろんシンキングディープの後にはスプーンっていう選択肢もあったよ。でも、この状況でスプーンは最後の切り札に取っておきたい。ミノーとは全く異なるアピールだからね。まずは、最初の一投でミノーに反応してることを踏まえてのシンキングディープ」

 あのヤマメの居場所を探りながら、表層の流れを見て気になるラインは何度も通した。そして、そろそろスプーンを出すか…と最後の選択肢が脳裏にちらついた矢先のこと。

 手元にゴゴンッという衝撃が伝わるやいなや素早くアワセを入れると、ズシリとした魚のトルクをロッドがとらえた。深いポイントだから魚体は見えないが、その重さから最初にチェイスしたヤマメの姿がすぐに思い浮かんだ。押しの強い流れをダウンクロスで釣っているから余計に重く、ファイトがパワフルで、なかなか寄ってこない。焦らずそのやり取りを楽しんで、大祐がネットにすくい取ったのは34cmの雄のヤマメだった。

 イトウクラフトがリリースする他のルアーもそうであるように、この蝦夷50SDの性能も、ルアーにスレてしまったシビアなヤマメに照準を合わせている。

「レンジの面だけでなく、しっかりと操作できる、ヒラを打たせられる、というところだよね。特にこういうヤマメは、ルアーの泳ぎの『間』に神経質になってることが多いから、釣り人のロッドワークに瞬時に反応してくれるルアーじゃないとぜんぜん勝負にならない」

 何でも大祐は、これまで渓流で、あまり好んではディープダイバーを使ってこなかったらしい。理由は、操作性の鈍さ。一般的にディープダイバーはリップの抵抗で深く潜らせる分、どうしてもその引き抵抗の重さが操作の足かせとなる。

「ショートリップと比べると、ディープはやっぱり1つ1つのアクションに釣り人の干渉できない『間』が生まれる。それがスレまくった魚に対して欠点になる。でも、蝦夷50SDはフローティングをただ重くしただけでなく、引き抵抗を弱めることで軽快に操作できるところに重点を置いた。6gもあるディープとは思えないほど機敏にヒラを打たせられるから、シビアな魚に対してもストレスなく思い通りの攻めに集中できるよ。ロッドについては、今回は510ULで問題なく使えたけど、ULXのほうがより爽快だね」

 このディープらしからぬディープが、これからも素晴らしいヤマメを連れてくるはずだ。

【付記】
ぶっ飛び仕様でレンジコントロールも思いのまま、加えてディープダイバー特有の重々しい操作感を払拭したハイレスポンスなアクション。ディープダイバーに抵抗のあった人にこそ、ぜひこのセッティングを堪能して欲しいです。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510UL/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 33/ABU
TUNE UP Mountain Custom CX /ITO.CRAFT
LINE Armored F+ 0.6/DUEL
LEADER Grand Max FX 1.2/SEAGUAR
LURE Emishi 50SD/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


伊藤 大祐 Daisuke Ito


イトウクラフト スタッフ

1982年岩手県生まれ、岩手県在住。幼少期から渓流の釣りに触れる。「釣りキチ三平」の影響も大きく、エサ釣り、テンカラ、フライ、バス釣りなど様々な釣りを経験する。工業デザインやCGを学んだあと、デザイン会社での経験を経てイトウクラフトに入社。自社製品の製作を手掛けるかたわら、商品開発/試作/テスト/ウェブ/各種パッケージ/広告/カタログ/などのデザインも行なっている。