イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2010/02/27

二月の子吉川で

2010年2月24日、秋田県
アングラー=伊藤 秀輝
文=佐藤 英喜

 2月のある日、突然古い友人が伊藤の仕事場を訪ねてきた。とりあえずお互いの近況を報告し終えると話は自然と釣り関係へ。


 付き合いが長いだけに、いったん思い出話に花が咲き始めると止まらなくなる。連れ立っていろんな釣り場へ出掛けてきたが、秋田の阿仁川と子吉川が特に二人の心に残っている。


「懐かしいなー」


「だなー」


「最近ぜんぜん行ってないけど、今どうなってんのかな」


「…ん、じゃ、久し振りに行ってみるか?」


 秋田の川では2月一杯、サクラマスを狙うことができるが、時期を考えれば海に近い子吉川の方が阿仁よりも当然サクラの遡上は期待できる。とまあ、こんな感じで、2010年の伊藤の釣りは、子吉川のサクラマスから始まることになった。


 ちなみに伊藤が2月の秋田へ釣行するのは、じつに7年振りのこと。2003年の2月、米代川本流で2本のサクラマスを釣ったのが最後だ。(その時の模様はトラウティストVol.11に掲載された)


 それから、秋田の冬のサクラマス釣りはかなりメジャーなものになった。


 そして釣果の面でも、年によって変動はあるものの以前とは比べものにならないほどの実績が出ている。このことについて、伊藤はどう感じているのだろう。


「当時も、やってる人がいないわけじゃなかったけど、今のような賑わいははなかったよね。魚も今ほどは釣れなかった。まあ、その年の遡上数にも左右されるし、あの頃より人が増えた分だけ釣れる魚の数も増えた、というのもある。でも、やっぱりそれだけじゃないと思う。自分が足を運んでた頃と何よりも違うのは、この気候の暖かさ。だって、2月に雪シロが出るなんて昔では考えられないもの。そうした温暖化の影響もあって、徐々にマスの生態が変わってきてる感じがするね。少なくとも秋田の河川に関して、年々マスの遡上時期が早まってると思う」


 2月24日、昔と同じように伊藤がハンドルを握り、子吉川へ向かう。「昔に戻ったみたいだなー」と助手席の旧友は釣りをする前からとても嬉しそうだ。


 しかしこの日は、いささかタイミングが悪かった。

 

 この2日前に、秋田で雨が降ったのだ。雫石では降らなかったけれど、秋田のサクラ河川には雨による濁りと、冷たい雪解け水が流れ込んだのである。


「すでに川に入ってるマスは、これでトーンダウンかな。この雪解け水で新しい群れが入ってくればいいけど、盛期のランとは違うからね。可能性は低いと思う。ま、やれるだけのことはやるよ」


 釣り場にはゆっくりと着いた。春を感じさせる柔らかい日差しが降り注いでいた。二人が子吉川へ足を運んだのは6年振りのことで、しかも2月に訪れるのは初めてのこと。記憶を頼りに、気になる場所を5、6箇所見て回り、そのうちのもっとも期待できそうなポイントにまずは入った。


 使うロッドはエキスパートカスタムEXC780MX。高い操作性と取り回しの良さが武器で、子吉川にはぴったりのモデルだ。


 ルアーは山夷95MDを選んだ。


「流れ的にはショートリップもありだけど、活性の低い魚を考えれば中層までは潜らせたい。ロッドがナナハチだから、MDでもがんがんトゥイッチ掛けて、ヒラを打たせられるし」


 活性が低いと予想されるときは、まずはタナを合わせることが絶対条件。そして、いつも通り派手にミノーをアクションさせる。川の流れに合わせ、ラインスラックを調整するリーリングと激しいロッドワークとで、ミディアムディープを躍らせていく。


「派手といってもいろんなパターンがあるけど、効果的なハイアピールってことだよね。派手に誘うことで、初めて反応する魚は絶対にいるから。これが自分の釣りの核だし、この釣りをしてなかったら今までの釣果はないよ。半減以下だと思う」


 ガイドにラインが絡んだり、スプールのラインがぐしゃぐしゃに乱れてバックラッシュしたり、はたまたミノーのフックがラインを拾ったり…、普通ならライントラブル頻発だなあ、と思うほどリーリングとロッドワークが複雑に絡み合う。しかしこれもいつものことだが、ライントラブルなど一切なく、伊藤はどうってことない顔で、ときに隣で竿を振る旧友へ話しかけながらルアーを操っている。

スナッピーなキャストで鋭くプラグを飛ばし、軽快に釣っていく

 もう体に染みついているのだ。


 中層で、ギラッギラッギラッと激しくヒラを打つミディアムディープに、ズドンッ!と重さが乗ったのはそのポイントに入っておよそ30投目のことだった。


「おっ、来たな!」


 旧友が興奮した様子でザバザバと近づいてきた。銀色に光る極太の魚が、ゴッゴッゴッ…と重々しく首を振る。サクラマスは、ミノーのテールフックをくわえていた。


 綺麗な魚体を見たいから、ウロコを傷付けないようにやり取りした。サクラマスのローリングでラインを巻き付けないよう、ロッドを操作する。幅広の魚体が、すっとランディングネットに滑り込んだ。


「これはいいマスだなー」


 59cmの美しいフレッシュランが伊藤の手に収まった。

  1. 久し振りに訪れたお気に入りの川。旧友との釣り。そして、いい魚。つい笑みがこぼれる

 6年振りの握手を、がっちりとかわした。


 期待を胸に日没まで竿を振ったが、その後ふたたびサクラマスがルアーに食いつくことはなかった。やはり、2日前の雨の影響だろうか。


 残念ながら旧友は獲物を手にすることができなかったが、また暖かくなった頃にでも、一緒に竿を振ることを固く約束し川を上がった。


 二人は満面の笑みで釣りを終えたのだった。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC780MX/ITO.CRAFT
REEL Certate 3000/DAIWA
LINE Super Trout Advance Big Trout 12Lb/VARIVAS
LURE Yamai 95 MD[YMP]/ITO.CRAFT

ANGLER


伊藤 秀輝 Hideki Ito


イトウクラフト代表

1959年岩手県生まれ、岩手県在住。「ルアーフリーク」「トラウティスト」などのトラウト雑誌を通じてルアーフィッシングの可能性を提案してきたルアーアングラー。サクラマスや本流のスーパーヤマメを狙う釣りも好むが、自身の釣りの核をなしているのは山岳渓流のヤマメ釣りで、野性の美しさを凝縮した在来の渓流魚と、それを育んだ東北の厳しい自然に魅せられている。魚だけでなく、山菜やキノコ、高山植物など山の事情全般に詳しい。