イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2012/03/22

ピンスポットキャストを
極めるロッド

2011年7月下旬

アングラー=菊池 久仁彦
文と写真=佐藤 英喜

「最近のシビアなフィールドではひとつのミスキャストが本当に致命傷になるし、キャストが決まらないと手返しだって悪くなる。渓流でコンスタントに魚を釣るためには越えるべき壁がたくさんあるけれど、まずはポイントにルアーが入らないと釣りが始まらないよね」


 そう菊池久仁彦はいう。たしかに速い手返しで正確にスポットへルアーを送ることができれば、限られた時間のうちにより多くのポイントを打つことができるのは間違いない。言うまでもなくその効果は、釣果の差となって跳ね返ってくるものだ。


「そこで重要になるのが、やっぱりロッドの性能」


 菊池久仁彦の正確なキャストコントロールを支えているのは、手元の細やかな技術を狂いなく表現してくれるロッド、つまりエキスパートカスタムの性能である。

 ふわっと置きにいくようなキャストではなく、オーバーハングの本当の奥へ、魚に気付かれない離れた位置からライナーでミノーを投げ入れるには、じつに繊細なタッチが求められる。


 たとえば菊池がエキスパートカスタムを使い始める以前、彼は当時使っていたロッドに、こんなストレスを感じていた。


「ルアーをリリースしたら、サミングで徐々にブレーキをかけて着水点を操作するよね。その時に、引っ張られるようにティップが曲がって、そのぶんルアーがショートするんだ。それまで使ってたロッドはどれもそうだったし、ひどいものだとバットまで持っていかれた。そのせいで20cmも30cmも着水点がズレてしまう。だからあの頃は、サミングしてルアーが着水する寸前に、少しだけラインを送ったりしていちいち微調整してた。わずか数秒のことだけどね。そんなロッドでは集中力を維持するのも大変なんだよ」


 その後エキスパートカスタムを手にした菊池は、釣りが突然上手くなった気がしたと振り返る。それまで感じていたストレスから完全に開放され、指先の微妙なニュアンスを思いのままに表現できるようになった。格段にキャストが楽しくなったのだ。


「カスタムを使って、そういう感覚を得た人はきっと少なくないと思う。ティップに芯がカチッと入ってて、なお且つ硬すぎない。適度なしなやかさがありつつ、振り抜いた後の戻りが早くピタッとトップが止まってくれるから、サミングを自在に決められるし、素早くトゥイッチの体勢に移行できる。現モデルのカスタムはULとULXがあるけど、どっちもそう。ルアーが着水してすぐに、するっとリールを巻けるのは間違いなくロッドの性能だよ。それとまた、ブランクのブレがないということは、それだけガイドとラインの干渉が少ないからスパッと綺麗に抜けていくわけでしょ。当然飛距離も伸びるし、目いっぱい溜めを利かせたロングキャストでも、狙い通りの弾道で繊細に着水点をコントロールできるんだ。カスタムにはいろんな性能が盛り込まれていて簡単には説明できないんだけど、自分がまず最初にスゴイと感じたのは、そういうキャストフィールの部分」


 菊池がエキスパートカスタムを手に、そんな衝撃と喜びを感じたのは今から10年以上も前のことだ。当時からカスタムはルアーの操作性やフッキング性能と共に、そうしたキャスティング性能を突き詰めた開発がなされていたわけだが、それからモデルチェンジを経て、40t高弾性カーボンやボロンといったさらにハイポテンシャルなマテリアルを取り入れることであらゆる面での性能を高め、現在に至っている。


 もちろん、キャストに必要なのは単純に「コントロール」だけではない。どんな立ち位置からでもルアーを投げられなければコンスタントには釣れない。自分のやりやすい投げ方を優先して理想的な立ち位置を外してしまったら、それで釣り逃す魚がきっといるはずである。


「ロングキャスト、ショートキャスト、サイド、バック、フリップ…、カスタムは状況に応じてどんなキャストもイメージ通りにできるんだ。例えば、硬いロッドでも一本調子に全体がしなるブランクだとショートキャストが難しいんだけど、カスタムは、セクションごとに自在に反発力を生み出せる。溜めを利かせるパワーゾーンを意識的に変えながらキャストできるんだよね。だからこそ、いろんなキャストができる。キャストがどんどん楽しくなるロッドだよ」

正確無比。まるで躊躇なく、ミノーをすぱすぱとスポットへ投げ入れていく

 深緑がきらめく7月のある日、菊池は深い森の中を流れる小さな渓流を釣り上っていた。


 ポイントを隠すようにかぶさるボサを前に、嬉々としてロッドを振る。ややこしく手を伸ばす枝をかわしながら、どの角度からもブレずに、躊躇なくロッドを振り抜いている。シャープな弾道でティップから飛び出したミノーを、サミングによって狙いどおりに着水させ、すかさずトゥイッチで細かくヒラを打たせる。次から次へと出現する魅力的なポイントをテンポよく釣っていく菊池は、とても楽しそうだ。キャストが決まるからこそ自ずと釣りのリズムが良くなり、集中力も高く保てる。


「この川のヤマメはパーマークの形が面白くて、本当に綺麗な魚ばかりだよ」

 そう彼が予告していたように、ヤマメらしいヤマメというべきか、釣れてくるのはどれも素晴らしい雰囲気を纏ったヤマメ達で、行程の終盤には30cmの太い雄ヤマメが透き通った流れから飛び出した。これまたオーバーハングの奥に見え隠れする核心のピンスポットへ、水面すれすれの低い弾道で一発でミノーを送って釣り上げた魚だった。

 自分のイメージとロッドがまさしく一体となり、その結果として躍り出た魚達に菊池は心からの笑みを浮かべた。


「このロッドがあるからこそ、心底釣りを楽しめてるんだよね」


【付記】
キャストは釣果を左右する大事な要素のひとつであり、またキャストそのものが渓流釣りにおける楽しみのひとつでもありますよね。まさに久仁彦さんの釣りがそう物語っています。
今回は高精度なキャストをストレスなく、思いのままに決めるためのカスタムの性能についてまとめましたが、キャストにまつわる興味深い話をほかにも聞くことができましたので、また機会を改めて紹介したいと思います。キャストひとつをとっても、渓流釣りは本当に奥が深いですね。

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3 /ABU
LINE Super Trout Advance VEP 5Lb /VARIVAS
LURE Emishi 50S 1st /ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


菊池 久仁彦
Kunihiko Kikuchi

イトウクラフト フィールドスタッフ

1971年岩手県生まれ、岩手県在住。細流の釣りを得意とする渓流のエキスパート。大抵の釣り人が躊躇するようなボサ川も、正確な技術を武器に軽快に釣り上っていく。以前は釣りのほとんどを山の渓流に費やしてきたが、最近は「渓流のヤマメらしさ」を備えた本流のヤマメを釣ることに情熱を燃やしている。サクラマスの釣りも比較的小規模な川を得意とする。